第十二話【パクパク】
廊下をてくてくと歩くはすみの両手に、色鮮やかな折り紙の「パクパク」が握られていた。
彼女は足取りに合わせて、それをリズミカルに開閉させている。
「お!はすみの嬢ちゃ~ん、なにしてんだぁ~?」
通りかかった小宮がいつもの軽い調子で声をかけた。
「パクパク..だよ..話してる...パクパク」
「折り紙のパクパクかぁ。懐かしいっすね」
傍らにいた河合が、つい懐かしさに目を細めて口を出す。
「なんだお前、知ってんのか?」
「子供の頃に作りませんでした?(……まぁ、俺も前世でしか作ってないけど)」
そんな男たちの会話をよそに、はすみはおもむろに足を止めると、両手のパクパクを突き出して謎のドヤ顔を浮かべた。
「パクパク...可愛いでしょ...」
「そうだね、可愛いね(お前がな)」
河合が内心でツッコミを入れつつ微笑むと、小宮がさらに身を乗り出して尋ねる。
「はすみの嬢ちゃん、そのパクパクってのには名前はあんのかぁ~?」
「ある..よ...」
「なんて名前だぁ~?」
「パクパくん1号...と...パクパくん2号...」
「まんまじゃん……」
河合が呆れる一方で、小宮は「お~、い~い名前だなぁ!」と大げさに感心してみせた。
だが、その口元には少しばかり意地の悪い笑みが浮かぶ。
「なぁ〜はすみの嬢ちゃん~。そのパクパクって言葉、逆から読んでみてくんね~か?」
「ちょっ、兄貴!!」
河合が慌てて制止するが、はすみは首を傾げて素直に反唱した。
「..逆?...クパクパ?」
「へへっ、俺的にはそっちの響きの方が好きだぜぇ~?その呼び方で呼んだほうがいいんじゃね~かぁ?」
「おぉい!!」
河合の必死なツッコミも虚しく、はすみはしばらくその響きを口の中で転がしていたが、やがて心底つまらなそうに眉を寄せた。
「..クパクパ..やだ..パッとしない..」
「そうかぁ~、俺はそっちの方が好きなのになぁ」
残念そうに笑う小宮。
しかし、はすみが次に放った言葉は、彼の予想を遥かに超える鋭さだった。
「...小宮の顔と..同じくらい..パッとしない...」
「え」
「…………」
はすみは再びパクパクを動かしながらてくてくと歩き去っていく。
河合はそのシュールな後ろ姿を呆然と眺めるしかなかった。
隣を見れば、作中屈指の強キャラであるはずの小宮が、今の強烈な一撃を食らって魂が抜けたようにその場で固まっている。
(…小宮の兄貴、南無)
彼女の無自覚の言葉のナイフが、最強の看板の心を完膚なきまでに叩き折った瞬間だった。




