力を得ろ。
見落とす視線の先に小さな染み……
雨が降って来たのか。
大通りだと言うのに人々も疎らだ。
これっぽっちか。
パンを一つ買えるだけのお金はあるけど、これだけじゃ足りない。
立ち上がってフラフラと裏通りの道を行く。
いつも皆で集まる場所。
潰れた雑貨屋。
ここに家主はいない。
住んでいるのは孤児である私達。
雨風の凌げる良い場所だ。
「おかえり。
濡れているな」
声を掛けて来たのは相棒のビル。
この辺りに来た時から一緒に物乞いをしている仲間。
ここで暮らす仲間の中では一番年上だと思う。
「雨が降って来た。
今日はこれだけ、そっちは?」
ビルは首を横に振る。
どうやら私よりも稼げていないようだ。
「他のは?」
「雨降って来たんだろ?
それじゃあ、そのうちあいつらも引き上げて来るだろう」
他の子達は三人共私よりも小さい。
行先は知っているし、迎えに行ってやろう。
馬鹿だから雨が降っても物乞いやってそうだし。
ビルを置いてあの子達の場所へと向かう。
向かう先はシルヴァスの宿。
あの辺りはそこそこ金を持った奴等がいるし、宿の店主も私達を見てみぬふりをしてくれる。
私達にとって都合のいい場所。
到着するとやっぱりまだ物乞いをやっている。
雨も少し強くなってきた。
「引き上げるよ」
「おねーちゃん!」
満面の笑みを浮かべて一番小さいのが私にしがみ付く。
この子はエミー。
私は「馬鹿」と言ってポンっと、エミ―の頭の上に手を置いた。
「帰るよ」と他の二人にも声を掛け、急ぎ足で裏通りへと引き返した。
「おいおい、結構濡れてるじゃねーか。
お前等すぐ服脱いで干しとけ、風邪ひいたら死ぬぞ」
「ビル兄! これ今日の稼ぎ!」
「すげーじゃねえか、よくやったな!」
ビルがロイとミックの頭をグシグシと撫でる。
エミーは私にべったりくっついている。
仕方ないので頭を撫でてやって、濡れた服を脱がせた。
私も自分の服を脱ぎ、それをロープに引っ掛ける。
「それじゃあ一っ走り行って来る!」
「行ってらっしゃい」
ビルがチビ達から受け取った金を持って出て行った。
今日の分の食べ物を買いに出かけた。
あいつは算術が少し出来るから買い物は全部任せている。
雨が降っているせいか体が冷える。
チビ達を毛布の中へ集め、皆で丸くなった。
◇
いつの間にかチビ達はスヤスヤと寝息を立てている。
私も少しウトウトしていた……遅すぎる。
ビルの帰りが遅い。
外はもう暗い……
「起きろ」
「――お姉ちゃん?
どうしたの?」
「ビルが帰ってこない。
様子を見に行くから待ってて」
「嫌だよぅ……」
エミーがぐずりだした。
私はロイに「任せる」と伝え、エミーを引きはがした。
ロイは私に「気を付けて」と送り出してくれる。
ロイは頭のいい子だ。
きっと私が帰らなくてもロイがあの子達を引っ張って行ってくれる。
裏通りを抜け、一番安い市場へと向かう。
もう人は出歩いていない。
当然だが店も閉まっている。
市場を見回しながら歩いて行くと、人影が見えた。
身形からして冒険者か……しかしボーっとしていて普通じゃない。
こんな人のいない場所で一人……怪しいがビルの情報が聞けるかもしれないので話しかける事にした。
「こんばんわ、この辺りで私と同じくらいの子供を見かけませんでしたか?」
声を掛けた男はフラリとこちらを向き、微かにほほ笑んだ。
ヒヤリとした感覚が背筋に走った!
私は踵を返し、早歩きでその場から立ち去ろうとした。
少し歩くと突然背中から強い衝撃と共に私は地面へと顔を下にして倒れ込んだ。
そして、体を裏返され首を掴まれる……男と目が合った。
殺される。
私はそう確信した。
そして、声を出そうにも男の視線がそれを拒んだ。
憎しみが込み上げてくる!
私が何をしたのだ!
「悪いな……受け取ってくれ、全部」
男の口が開いた瞬間、私は恐怖でいっぱいになった。
男の声が震えている。
普通じゃない!
この男はおかしい!
でも……身動き一つ出来ない私に出来る事なんてない……
男の目を見つめながら私はずっと耐えた。
きっとこの後私は碌な目に合わないだろう。
生き残れたら……
私はきっとそれを糧に生きていく。
私は男を睨みつける。
男は興奮気味だ。
フーフーと息巻いている。
ガクガクと男が震え出し、人とは思えない笑みを浮かべ、口から泡を吹き始めた……
男の目がグルンと上を向き、後ろへ倒れた。
恐るおそる私は体を起こし、男の方を見る……
干乾びている。
もうそこに居たのが人間だとは分からない程に。
私は立ち上がり、その場から走り去る。
ああ……なんて事だ。
私は自分の身体の違和感にすぐに気が付いた。
身体が軽い。
それに、いくら走っても息がきれない。
そして、その気になればもっと早く走れると言う確信もある。
とにかく私は今日あった出来事を忘れたい。
チビ達の待っている雑貨屋へと戻ると、三人共私を「おかえりなさい」と言って出迎えてくれた。
私は「ビルは見つからなかった。 日が昇ったら探しに行こう」と言って、深く目を閉じた。
忘れたい。
目覚めた時、今日あった出来事は夢なのだと信じたい。
私はそう願って深く目を閉じた。




