断りたいのに断れない
転移のスクロールでダンジョンから脱出した翌日の朝。
27階層目の探索を途中できり上げた彼女は、サマリアル王国の中心と言える王都へと帰還していた。
自分が所属する冒険者ギルドに赴いた彼女は戸を開けて中に入ると、依頼を受けんとする多数の冒険者達で賑わっていた。
そんな冒険者達で成される列の最後尾に並ぶと、彼女に声を掛ける者が居た。
「よう!ヘルガ!仕事……じゃなさそうだな」
年輩の冒険者が挨拶と共に察する様にして問うと、ヘルガと呼ばれた彼女は否定する。
「途中報告にきた所よ」
その答えに年輩の冒険者は呆れ混じりに問う。
「途中なのに帰って来て良いのかよ?」
呆れ交じりに問われると、ヘルガはボヤく様に言う。
「仕方無いじゃない。3日掛けても踏破出来ないんだから」
ヘルガが返すと、年輩の冒険者は驚きを露わに問い返してしまう。
「マジか?最高位のお前さんなのに?」
「大マジよ。サリー……3日掛けても27階層目の途中までしか行けなかったんだから……」
ヘルガが本心から答えれば、サリーと呼ばれた年輩の冒険者はゲンナリとしてしまう。
「お前さんが3日も潜って踏破出来ないってどんだけだよ?」
「知らないわよ」
他人事の様に返すと、サリーは本題を切り出す様に尋ねて来た。
「それで?お前が潜った所までにお宝はあったか?」
その問いに対し、ヘルガは正直に答える。
「結構な数の箱は確認した。中は見てないけど……」
「マジか!なら、明日はソレ狙いで潜るっきゃねぇ!」
サリーが嬉しそうな笑みと共に漏らせば、ヘルガは好きにすれば……と、他人事の様であった。
そんなヘルガにサリーは尋ねる。
「所で、お前さんが引き揚げた理由って何だ?」
その問いに対し、ヘルガは率直に答えた。
「食糧と水」
人間に限らず、生命体であるならば、食糧と水は生きるのに欠かせない。
生命は他の生命を喰らい、水を飲む事でしか生きる事が出来ないのだ。当然であろう。
「そう言う事ならしゃーねーわな」
「行くのは止めないけど、結構な数のモンスターが居たわよ」
「そんな事にビビって冒険者が務まるかよ」
サリーが不適に返せば、ヘルガはソレもそうねと、納得した。
そうして話が終わると、サリーは「またな」そう言い残してギルドを後にした。
ギルドから去るサリーを見送ると、ヘルガは自分の番が来るのを待ち続ける。
すると、受付の奥からスタッフが出て来た。
スタッフは退屈そう待ち続けるヘルガへ向かって真っ直ぐ歩みを進めると、その前に立って告げる。
「ヘルガさん。ギルド長が報告を直接伺いたいとの事です」
スタッフから告げられれば、ヘルガはスタッフに案内されるままギルド長の執務室へと歩みを進めた。
程なくして執務室へ通されると、ギルド長はスタッフに戻る様に命じてからヘルガに来客用のソファーに座る様に促した。
「先ずは座ってくれ」
その言葉と共にヘルガが脇に背嚢とMk18を置いてから下座に座ると、ギルド長は向かいに座り、報告する様に命じる。
「それで?何処まで進めた?」
「27階層の途中まで進む事が出来ました」
ヘルガが簡潔に報告すると、ギルド長は確認する様に尋ねた。
「そうなると、26階層目までは踏破出来た訳か……その先は?」
「残念ながら、その先は未だです。最深部まで踏破しろと仰るのであれば、後日改めて進めようと思います」
ヘルガが冒険者ギルドに属する冒険者として無難な答えを返すと、ギルド長は意外とも思える答えを返して来た。
「いや、必要無い」
「理由をお尋ねしても?」
ヘルガが踏破しなくても良い理由を尋ねれば、ギルド長は狡っ辛い事情を交えて答えていく。
「未踏破のダンジョンと言う触れ込みで他方の冒険者を呼び込める。その方が何だかんだで、経済が潤う」
未踏破のダンジョンと言う未知は腕自慢の冒険者達を誘うには充分過ぎる程の魅力に溢れていた。
そんな未踏破のダンジョンに挑まんとする冒険者達は、そのダンジョンに挑む為に必要な物……有り体に言うならば、武器や防具。それに食糧や水等の物資を得る為にお金を其れ等を扱う商店に落とさざるを得ない。
冒険者達から金を巻き上げたい。
そんな経済的な観点からギルド長は敢えて、未踏破のダンジョンを未踏破のままにする事を選んだ。
ソレを知ると、ヘルガは納得。同時に確認する。
「そう言う事でしたら、私の仕事はコレで終わりと言う事で宜しいですね?」
「あぁ、君は良くやってくれた。感謝する」
ギルド長は感謝の言葉を述べると、用意していた小切手をヘルガの前に置いて告げる。
「コレは約束の報酬だ」
「ありがとうございます」
ヘルガはギルド長に感謝すると共に27階層分のマッピングした未踏破区域を記したメモ帳を差し出すと、差し出された小切手の額面を確認してからチェストリグのポケットへ収めた。
そんなヘルガにギルド長は次の要件を切り出す様に尋ねた。
「それで?この後はどうするつもりだね?」
問われると、ヘルガは正直に答える。
「今日明日は休んだら、適当に仕事しますよ」
そんな無難な答えを聞くと、ギルド長は仕事を切り出して来た。
「なら、明後日に仕事を頼んでも良いか?」
「内容にも寄りますよ」
またも無難な答えを聞くと、ギルド長は断られるだろうな……そう思いながら仕事の内容を告げようとする。
「この国で"一番高貴な一族"の一員たる若き女性が、冒険をしたいそうでな……って、完全に嫌だって顔すんなよ。せめて、顔に出すな」
前置きとも言える仕事の事情に対し、ヘルガは思わず顔に出してしまっていた。
ギルド長が自分に呆れると、ヘルガはハッキリと拒否する。
「そう言う護衛の依頼は面倒臭いですし、成功率低いのでお断りさせて戴きます」
慇懃無礼に拒絶すると、ギルド長は困った様子で乞うた。
「其処、何とかならん?」
「嫌ですよ。面倒臭い」
護衛と言う仕事は簡単。
そう思ってるなら、ソイツは救いようの無いバカと断言して良い。
そんな飛び切り難しい仕事を、冒険者として活動しながら行え……と、言うのはとても難しいを飛び越え、不可能と言うレベルとなる。
だからこそ、ヘルガは前世の男の知識と、冒険者として経験を積み重ねて来た己の持つ知識と経験から無理。そう判断せざる得なかった。
しかし、ギルド長は申し訳無さそうに告げる。
「俺としてはお前の意思を尊重したいんだが、この国で一番高貴な一族……即ち、王家からの命令なので、残念ながら拒否権が無い」
「クソ」
直球ストレートに悪態を吐くヘルガであるが、ギルド長がソレを責める事はなかった。
そんなギルド長に対し、ヘルガは今吐いたばかりの悪態を他所に要求するかの如く告げる。
「ギルド長。その仕事の打合せは明後日にして貰って良いですか?」
「あぁ、ソレは構わない。お前さんは仕事終えたばかりだし、さすがに其処ん所の文句は言わせんよ」
その言葉と共に諦観交じりに引き受ける事にしたヘルガは立ち上がると、背囊を背負ってMk18を携えて執務室を後にするのであった。
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