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俺は転校生が大嫌いだ

「……はぁ」

 また溜め息をついてしまった。朝から何度目だろう。

 学校へ向かう真っ直ぐに伸びた道。車通りが少ないこの道を思いっきり加速してやって、チェーンの空回りする音と汗を飛ばす風を全身で受けるのが俺の日課だったはずだ。

 なぜ俺は徒歩なんだ?

「ふふっ。ざまあみろ」

 性悪女の幻聴が聞こえた。そろそろ、俺の精神もヤバイのかもしれない。

 携帯を開いて時間を確認する。

 家を出てから、もう一時間半も歩いていた。

「最高にねむい」

 俺は、考えることを放棄した。

 ……チャイムの音が聞こえる。予鈴がなったのか?

 気づけば、計二時間の努力の末に俺はようやく校門に立っていた。白い無機質なコンクリートの、普段は何とも感じない校門が、今はゴールテープの様に見えた。

「おっはよー」

 周りから聞こえる挨拶は、最後まで諦めなかったランナーを称える賛歌だ。

「さっさと教室に入れ!」

 教師の怒号さえ、『あともう少しだ! 頑張れ!』と俺を励ます声援だ。

 心の奥底から湧き上がる勇気!

 自然と速度の上がる歩調!

 全てはこの瞬間のために!

 さあ、いざ我が学び舎へ!

「おはよう! みんな!」

 勢いよく、教室のドアを開けた。


「きゃーーー!」

「うおおお、上坂だー!」

 教室に一歩足を踏み入れた瞬間、クラス中が沸きあがった。

 ……なんで?

「おい、上坂」

 藤原がニタリ顔で駆け寄ってくる。

「お前、ミドリちゃんに告ったんだってな」

………………は?

「とぼけんなよ。必死な顔で街中駆け回ってた所とか、みんなも見てたらしいぜ。しかしあれだ。何といっても、最終的には俺のナイスな情報のおかげで無事川原にいるミドリちゃんと会えたんだから、俺はお前にとってのキューピットってことだ。感謝しろよ」

 話についていけないのは俺だけか?

「おい、待てよ。いったい、いつ俺があんな女に告ったんだよ。ってか誰がそんな噂流してんだよ」

「――いや、噂も何も」

「……でさぁ、上坂の奴。息切らしながらも、あたしの所にやってきて、必死な顔して『付き合ってください』とか大声で言うんだもん。ちょー恥ずかしかったし」

「ひゃ~~! 何その青春すぎるシチュエーション! ってか上坂って意外と熱血派なんだね」

「でしょ~。あんまりにも熱心に口説かれちゃってさ。断るのも可哀相だし『友達から始めましょ』って言うしかないじゃない?」

 俺のちょうど対角線の位置で、ミドリを中心に数人の女子が色めき立っていた。

 ふっ、ふふっ。また貴様の仕業か。

「大丈夫だって、上坂。あんな風に言ってるけどな、ミドリちゃんも満更じゃないって感じだぜ? 俺の目に狂いはない」

 耳元で、検討違いのフォローが聞こえた。

「……おっ」

「ん?」

「俺は転校生が大嫌いだーー!」

「何を朝から騒いでるんだ? さっさと席に着け」

 俺の魂の叫びは、長谷部にかっさらわれた。


 ――――それからのことを少しだけ。

 一日にして、熱血告白男という称号を手にした俺の噂は校内の隅々まで駆け巡った。

 会う奴、会う奴、冷やかしてくるから、俺は次第に抵抗するにも疲れた。

 しかも放課後部活に行けば、そこには正式に空手部に入ったミドリがいて、俺が臨時コーチに任命された。

 ちなみにミドリの空手は中々のものだった。後から聞いた話だが、俺に蹴り飛ばされた日から、いつか復讐してやろうと空手を習い始めたらしい。実に迷惑な話だ。

 そうして俺たちは、なし崩し的に恋人になったらしい。

 二人っきりのときは、ミドリは猫の皮を脱ぎ捨ててガサツな女になり、教室ではいっちょまえに可愛い子ぶる。

 でも根っこの部分には、泣き虫で全然素直じゃない不器用な女の子がいた。

 それに気がついてからは、ミドリの捻くれた行動も、ちょっとだけ許せるようになった。

 ミドリの鞄の中には、いつも気持ち悪い蜘蛛のオモチャが入っている。

 だからって訳じゃないが、今度の休み、ミドリを誘って電車に乗ってあの公園に行こうと思ってる。

 俺がミドリを蹴り飛ばした公園で、次はどんな思い出を作ろうか。真っ直ぐ伸びた帰り道。そんなことを考える時間が増えた。


「やっぱり、次は爬虫類だな」

 背中にでも突っ込んでやろう。……泣くか怒るか、楽しみだ。


最後まで付き合ってくれた読者の皆様。本当にありがとう。


4月から、ほんの気まぐれで始めた小説。まさかこんなに長い話を書くとは思いませんでした。

まあ『長い』といっても、それはこの小説にかけた僕の時間であって、完成した今読み返してみると大した文字数でもないことにビックリしています。


小説を書くって大変ですね。


でも、苦労して書いたこの小説。終盤になると、なんとキャラクター達が自然に動き出したんです。

キャラクターに命が与えられた。その感覚を知ることができました。そんな意味で、透とミドリには感謝しています。


と言いつつ、透には最後まで苦労ばかり押し付けちゃいましたが……。


さて。次回何を書くかは決めていません。

『都会の空』よりも前に構想を練っていた、今回以上の長編小説(ハードドイルドちっく)に挑むか。はたまた、この程度のボリュームの新規小説を書くか。迷い中です。


どっちにしろ、一ヶ月以内には第一話を投稿したいと思います。万が一投稿されない場合、それは長編小説のプロットを書いているはずです。そのときは期待して待ってて下さい。


あと、感想を頂けると励みになります。批評でも応援メッセージでも、お気に入り登録でも、誰かが僕の小説に関心を持ってくれてるとわかると、小説に費やす時間が増えます。

独りよがりにならないよう、構って下さい。頼みます。


それでは、後書きまで読んでくれた貴方。次ぎ会う日までごきげんよう。


早瀬恭一

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