表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/62

10. ハンカチの君

 


 前回のあらすじ


 三角関係に巻き込まれました。




 今日も今日とてバイトに勤しむ俺には、最近気になる人がいる。その人はだいたい週末、同じ時間帯にやって来る。そして、2人分(箸が2膳と言われるから)のビールとつまみを買って帰っていく。


 どこも気になるところはないような気がするだろう。だが彼女は財布を覗き込むとき決まってその野暮ったいメガネをカチャカチャと動かす癖があった。


 その姿が文芸部顧問、安森 隆幸に似ているのでついつい気になってしまっていた。



 その日、彼女は珍しくメガネをしていなかった。こうして見ると彼女はかなりの美人だ。笹原さんは可愛い系美人だけどこの人はキレイ系美人だな。


 当たり前だが財布を覗き込む時の癖は出なかった。俺は少し残念な気持ちになりつつお釣りを手渡す。彼女はスタスタと店を出て行った。


「香穂ちゃん見た?あの人メガネで隠れてたけどめちゃくちゃ美人だった」

 俺が香穂ちゃんに言うと



「ちょっと!イッチ!その人荷物忘れてるじゃん!!」


 カウンターには俺が彼女に差し出したビニール袋がそのまま置いてあった。



「うぇ!?やばい!ちょっと行ってくる!」


 俺は慌てて店を飛び出した。



 ここが入り組んだ路地とかじゃなくてよかった。幸いにも大通り沿いに店を構えていたのでだいぶ距離はあるが彼女の後ろ姿を見つけることが出来た。


 俺は全力疾走で彼女の後を追った。


「すみませーん!お客さん荷物忘れてます!」


 俺が叫ぶと彼女は立ち止まり振り返った。


「あ、本当ですね。すみません。ありがとうございます。」

 彼女は淡々と言う。


「いや、見失わなくてよかったです」

 俺は汗だくになりながらも呼吸を整えて言った。


「あの、大丈夫ですか?これどうぞ」

 彼女は花柄の可愛らしいハンカチを差し出した。


「……ありがとうございます」


 俺が受け取ると彼女は

「それでは」

 と、言って颯爽と去って行った。耳がほんのり赤くなっていた。ニコリともせず表情が硬かったのは荷物を忘れていたことが恥ずかしかったからなのかもしれない。




「あ、ハンカチいつ返せるかな……」


 まあよく店に来る人だしその時でいいか。


 ハンカチには「かおり」と、ひらがなで刺繍がしてあった。







「ハンカチに刺繍なんて可愛い人だね」


 文芸部部室にて明と笹原さん、それに安森先生と井戸端会議中だ。


「でも、本当にその人安森先生に動きがそっくりでさー。見せてやりたいくらいだよ」


「じゃあ、もしかしたらその人は僕の彼女かもしれないね。夫婦はいろいろと似てくるって言うし。ま、僕はプロポーズして断られたんだけどね。ハハハハ」


 笑い声が虚しく響く。


「先生、笑えないです」


 先生の渾身の自虐ネタに笹原さんが突っ込んでくれた。ありがとう。




「いや〜でも本当に久世くんのバイト先、僕の家に近いからすれ違ったりはしてるかもね」


「へー。会ったら挨拶しなきゃな。彼女の写真ないんですか?」


「えー!見せて好きになられたら困るしなー!」

 俺も嫁のこと好き過ぎる自覚はあるが、この人もそうとう彼女のこと好きだよな。


 プロポーズは断られてるけどな……。



「じゃあ少しだけだよー」

 そう言って先生は携帯の待ち受けを見せてくれた。待ち受けが彼女だったことに少しの衝撃を受けたが俺も前世では貴美子フォルダーを作って、しょっちゅうそこに入れている画像を見ながらニヤニヤしていた口なので人のことは言えない。


 今生でも、もうすでにスウフォルダーを作っているのは秘密だ。



 そして、まあ御察しの通り、安森先生の彼女こそが「()()()」さんだったんですね。




 そうとわかれば早速ハンカチを返しに行こう。安森先生に頼んでもよかったけど、借りたのは俺だからね。ちゃんと自分で返しに行きますよ。


 一度家にハンカチを取りに帰ってから先生の自宅へ向かう。その頃にはかおりさんも仕事を終えて帰宅してるだろうと先生は言っていた。



 だが俺は、先生の自宅に着く前にかおりさんを発見することができた。



「かおりさん!」


「え、何で私の名前……」

 かおりさんは怪訝そうに俺を見た。突然見知らぬ高校生に話しかけられたらこの反応は当然だ。

 俺は慌てて安森先生との関係を説明した。


「隆幸の生徒さんだったのね」


「はい。この間は荷物の忘れ物に気づかなかったばかりかハンカチまで貸して貰って……すみませんでした」


「忘れ物をした私がいけないんだから気にしないで」

 彼女は相変わらずら無表情で答えた。恥ずかしかったとかではなく、彼女は元から表情筋が硬いようだ。


「あのそれで、ハンカチお返しします」

 俺はキレイに洗ったハンカチを差し出した。


「わざわざありがとう」




「あー!2人で喋ってる!僕も入れてよー!」


 業務を終えて帰ってきた安森先生が合流した。


「隆幸、おかえりなさい」

 かおりさんが微笑んだ。先生の前では笑うらしい。


「ただいま!……どう?久世くん!うちのかおり!!美人でしょ?」


「ちょっと、何聞いてるの?おかしなこと言わないの」

 少し怒った風に言ってはいるが本気ではない。


「えへへ。ごめん」

 先生も先生でかおりさんを前にするとデレデレになってしまうようだ。


「もう、恥ずかしいこと言わないで」

 そう言ってかおりさんは先生の手に触れた。

「うん!ごめんね!」

 先生は終始嬉しそうだった。


 プロポーズを断ったって言っていたからもっとかおりさんは冷めた感じなのかと思っていたが、そうではないことは彼女の先生を見る眼差しでわかる。



「ごちそうさまでした」

 ハンカチを返すというミッションもクリアしたことだし俺はお暇しよう。

 それに無性にスウに会いたくなった。




 きっとかおりさんの笑顔が少し貴美子に似ていたからだ。


 少し時間は遅いけど会いに行ったら喜んでくれるかな?








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ