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月は何も語らない  作者: 黒石迩守
#2/Amentia‐速水健司(五月十三日~十八日)
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8

 速水(はやみ)(けん)()は彼女に一目惚れした。


 彼女を見た時に、世の中には本当にそんなものがあるという事を、自分自身で思い知った。街で彼女を見た時に、見惚れたまま歩いていたから、ポリバケツに突っ込んでしまう程なのだから。


 忘れられる訳も無い、街で初めて彼女を見た時の事。もう健司にとって、その日は一種の記念日と化してきている。彼女の雰囲気や容姿は一目見た時から忘れてない。いや、忘れられる訳が無いのだ。

 もしかしたら、向こうもこっちの事を好きだったりするんじゃないか、とも思っている。一目惚れというのは、何だか遺伝子とかそういうもので、互いに魅かれ合うとかいう話を健司は聞いた事があるからだ。自分の遺伝子に彼女が魅かれる可能性というのは、十分にあると思っている。


「……へへっ」


 中学の帰り道に一人でそんな思索に耽っていると、思わず顔がにやけてしまう。

 彼は十五歳。

 所謂、『思春期』というあれこれと考えてしまう年齢だった。あの出遇いを『運命か?』と問われれば、彼は即答で『イエス!』と答えただろう。


 頭の中で、健司はここ最近、ずっと彼女の事ばかり考えている。彼女の笑顔や、怒った顔や泣き顔……。色んな事を頭の中で考えては、更に顔はにやける。

 そのせいで授業中に怒られているのを、中学の同級生は馬鹿にするが、彼からすれば馬鹿なのは向こうの方だ。彼女の事を知れないなんて、不幸な奴等だなっ! ――そうは思っても、健司は彼女の事を教えるつもりは更々無いのだが。


 だが、彼は一つだけ悩んでいる。


 以前に遇ってから、彼女と一度も遇えないのだ。この街の何処かに住んでる事は確かなのだが、遇えない。判っているのは、彼女が山瀬高校に通っているらしいという事だけだ。以前見た、あの制服には間違いが無い。近所で山瀬高校に通っている人が、あの制服を着ていた。

 適当に街を彷徨っても見つけられない。彼女の行動でも判れば別なのだろうが、街で一回遇っただけでそんな事が解る訳も無い。


 そう、だから――もっと直接的に捜すしか無い。

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