二十八話 東方の国の女
「戻ってきたー」
影秋は門をくぐりながら、そう言った。
あの後、洞窟を調べずにもどってきたのだった。
門をくぐり、騎士団の人間から依頼達成証明書を受け取る冒険者達。
依頼は達成されたということらしい。
「なら俺も!金貨30枚!!」
そう喜ぶ影秋、何せ森まで行きオニギリを食べて山を登りゴブリンを数体殴っただけなのだ。
まるで遠足である。
依頼達成書をもらい急いでギルドに向かうことにした影秋はベリル達と別れた。
「報酬もらったら何しようかな~」
まだもらっていない報酬で何を買うか考え始める影秋であった。
そしてギルドに着いた影秋は
「これお願いします!!」
と、ウキウキしながら依頼達成証明書を出すのであった。
「確認いたします。」
そう返事をする受付、
しかし影秋はずっと何を買うか考えていた。
確認が終わり報酬を渡され、ギルドランクがDにアップしていたときすら影秋の頭の中は何を買うかで一杯であった。
(色んな物が食べられる!!今日南門のほうでおいしそうな屋台見つけた、あそこもいきたいな)
食べ物のことで、一杯であった。
更新の終わったギルドカードを受け取りそのままギルドを出る影秋。
ギルドをでてしばらく歩いたところでいきなり。
「うぐ!」
と口をふさがれ、そのまま担がれてしまった。
抵抗する影秋、思った以上の抵抗に焦る拘束者。
しかし、軽い体であった影秋は裏路地につれこまれてしまう。
「うぇっへへ・・・この前はよくもやってくれたなぁ?」
最初ギルドにきたときにいたあのひげもじゃだった。
モブも二人いた。最後の一人は拘束者だろう。
「お、おかしら!こいつ案外力が強くって・・・!」
「ふぐぅううううう」
「いてぇ!!手をかみやがゲフォア」
手を噛み、肘を即効入れた。
影秋が本気で入れた肘であったが、体勢が悪かったため威力がかなり落ちてしまった。
「がっは・・・げほっげほっ」
それでも十分だったのだが、
「い、いきなりなにするだー!」
こいつらから嫌な気配を強く感じていた。
それに、影秋は食べ物のことを考えていた。
それを邪魔されて割りと機嫌が悪くなっていた。
そうともしらずにひげもじゃが
「げっへっへ・・・お嬢ちゃん東方の国の子孫だったなぁ・・・確かタナカ、そうタナカだ!東方の国の子孫は高くうれるんだぁよ」
と説明するように言い始めた。
喚く影秋、その後ろで倒れて腹を押さえて咳き込むモブ、そして説明しだすひげもじゃ、場は混沌としていた。
「まぁ、東方の国の女ってのは具合がいい!俺達がまず味見するがねぇ!!げっへっへ」
と下種な笑いをし始める。
「俺は腹が減っているだけなんだ!!」
最早意味がわからない。
「お前ら!押さえろ!!俺が最初に味見する。」
と、モブに命令を出し、モブも下品な顔をしながら近づいてくる。
買い食いを邪魔された影秋は近づくそいつらを軽く殴ろうと思っていた。
そこにいきなり、
「しっ!」
と、モブを刀のような物の鞘で殴り無力化した乱入者が現れた。
ローブを羽織っており、顔はフードで隠れていた。
「てめぇ・・・なにもんだぁ!?邪魔するんじゃねぇ!!」
と、剣を抜くひげもじゃ、テンプレのような悪役である。
(焦るんじゃない・・・俺は腹が減っているだけなんだ!!)
と影秋が思っていたところにいきなり手をつかまれ、
「逃げるぞ!」
と、透き通るような女の声で言われた。
「ま、まちやがれぇ!!」
ひげもじゃが追おうとするが、
小さな破裂音とともに煙に包まれた。
煙玉である。
「げほ!ちくしょう!!」
と、言いながら動きまわり壁に激突したひげもじゃだった。
「ハァハァ・・・ここまでくれば大丈夫だろう。」
「えっと・・・とりあえずありがとう?」
己が助けられたような形になるのだと一応認識していた影秋はお礼を言う。
「いい、同郷のよしみだ・・・といっても100年前に滅んだ東方の国の子孫仲間と、言うことになるがね」
「東方の国・・・」
「自己紹介をしよう。私はタエコ・ヤマダだ」
と、言いながらフードを取った。
そこには燃えるような紅い長い髪の少女がいた。
目はつり上がっており、可愛いよりカッコいい感じだが美人なそれでいて
影秋の見た目と同じくらいの年齢の
「あ!こ、これはどうも・・・」
影秋は、いきなり現れた美少女にキョドっていた。
「君は教えてくれないのか?」
「お、俺は田中影秋だ。」
「タナカ・・・?それは苗じゃないのか?」
「ああ、名前は影秋だ。」
「カゲアキか・・・ふふ、男のような名前だな。」
当然だ、影秋の中身は男である。
「それにしても影秋、危ないところだったな。」
「え?なにが?」
「何がってお前・・・」
影秋は邪魔者を軽く殴って飯に行こうかと考えていたくらいである。
相手に殺意がなかったこともあり、影秋はまったく動じていなかった。
(早く食いたい・・・でもこの時間だし大人しく宿に帰ろうかなぁ)
腹が減っているだけだった。
「影秋・・・君は捕まって奴隷にされるところだったんだぞ!?」
「え、えええええええなんだってええええええええええええええええええええ」
「あの状況で気付いてなかったのか・・・。」
「お、俺奴隷にされかけたん・・・こえー」
「・・・」
もやは黙るしかないタエコ。
「それよりカゲアキ、君はどうして苗まで名乗っていたんだ?そんな危険なことをどうして?」
「え?危険だったのか?」
「東方の国の女は昔は高く売られてた。今じゃあほとんど知られていないが一部の下種な奴らがいまだに買おうとしやがる!!私達は売り物じゃないってのに!!!」
憎しみに満ちた顔だった。
影秋は、
「じゃあこれからカゲアキ・・・いや、アキって名乗ることにするわ。」
と、言ったのだ。
マイペースである。
「・・・そうだな・・・そうしたほうがいい」
「情報ありがとうな!お礼になんか食いにいかないか?おごってやるよ!!」
と、暢気に誘う影秋。
それをみて、
「ふふ、面白いなアキは・・・」
と、笑うタエコだった。