剣聖
まさかのブッシュミルズ皇国側の五連敗という結果に終わったが、最後の戦いが見応えがあったのか、マッシュによる勝利者宣言に拍手喝采が巻き起こった。
その歓声の中、ラムゼイ達もこちらに向かって歩いてくる。
「陛下、大丈夫ですか」
「利き腕の肩を……!」
マーティン達がマッシュの怪我を見て焦っていた。それを見て、癒しの魔術を行使する。マッシュの肩が淡く光り、血が止まる。
「すみません。治療をしておきましたが、鎧の方は……」
そう言って穴が空いた肩の鎧を指差した。それにマッシュは肩を揺すって笑う。
「うむ、大丈夫だ。治療してもらえるとも思っておらんかったからな。鎧は修復できるか確認しておこう」
そう言うマッシュに、オーウェンが眉根を寄せる。
「……確か、その鎧も魔術具だと言っていたな。どのような魔術だ? 場合によっては、我々が修復出来るかもしれん」
そんなオーウェンの言葉に、マッシュは顎を引いて穴の開いた部分を手で叩いた。
「うむ。ここは水の魔術が封じられた魔法陣が描かれている。他にも火と風、土の魔術も瞬時に行使できるようになっているぞ」
「……さらに、身体強化の魔術か。中々面白いな」
オーウェンがそう呟くと、マーティンが眉間に皺を作って睨む。
「陛下になんという口を……」
「良い」
怒りを露わにするマーティンに、マッシュが片手を挙げてそう告げた。それに深く一礼し、マーティンは口を噤む。だが、その目はオーウェンの顔から離れない。
剣呑な空気になったことに溜め息を吐きつつ、尋ねた。
「これで、古都の魔法陣を調査する権利は得られましたか?」
そう尋ねると、マッシュは目を瞬かせた。
「む? あぁ、そういえば……確か、そんな話だったな。すっかり忘れていたぞ」
マッシュはそう言って笑い出す。それには思わず苦笑いしかできなかった。
「やはり、陛下は戦いたいだけでしたな」
その言葉を聞き、ラムゼイが苦笑しつつ頷いてそう呟く。それで腕まで飛ばされたのだから、勘弁してもらいたいものだ。
「全員が敗北したのだ。まさかこんなことになるとは思わなかった。他にも望みはないか? できる限り叶えてやろう」
と、マッシュは口にした。それに、オーウェンが一番に答える。
「おお! それなら、魔術具を全てみせてくれ!」
「全てか?」
「全てだ」
オーウェンのその言葉に、マッシュは難しい表情で皆を振り返る。ラムゼイに目を止め、首を傾げながら尋ねた。
「全ては難しいが、王家が持つものは開示しよう。ただ、他の貴族が持つ物に関しては直接聞いてみなくてはならんな」
「ふむ、ケアン侯爵家は構いませんぞ」
ラムゼイが答えると、マーティン達も同意する。
「我々も問題ありません」
その言葉を聞き、マッシュは頷いて振り返った。
「……どうやら大丈夫なようだな。では、明日にでも準備するとしよう」
「ありがとうございます」
そんなやり取りをして、お互い退場することとなった。観客達からの止まぬ歓声の中、揃って通路へと向かう。
「アオイさん!」
「大丈夫ですか!?」
エライザとシェンリーが飛びついてきた。どうやら、かなり心配させてしまったらしい。
「大丈夫ですよ。どうしても剣で勝ちたくて、無茶をしてしまいましたが……」
そう答えると、二人は涙目で首を左右に振る。
「無茶し過ぎです! 心臓が止まるかと思いました!」
「怖かったです……」
心配してくれた二人に「すみません」と謝っていると、今度はロックスとハイラムが口を開いた。
「陛下もやり過ぎだ。まぁ、アオイが肩を突き刺したから多少溜飲は下がったが……」
「……腕を繋げろって言われるかと思ってハラハラしたよ」
二人はそれぞれが呆れたような言葉を口にする。ロックスは何故か怒っているが、どうしてだろうか。
首を傾げていると、モアが真剣な顔で皆の顔を順番に見て口を開く。
「……驚きました。まさか、皆さんがこれほど強かったとは……特に、アオイさん」
皆の顔を見ていたモアが、視線を止めて私を見た。
「剣王とまで称された陛下に剣で勝利するとは、想像を絶する実力でした。恐らく、アオイさんはブッシュミルズ皇国で剣聖と呼ばれることになるでしょう」
モアがそんなことを言い、周りで聞いていたロックス達が騒ぎ出す。
「また新しい異名が増えるのか!?」
「学院の魔女以外にもあったっけ?」
ロックスとハイラムが面白がるようにそんなやり取りをし、ストラスとグレンが顔を見合わせた。
「……学院のイメージはどうなるのか」
「心配じゃのう……」




