試合開始2
何万人いるのだろうか。数えることもできないほどの人数だ。その大人数の歓声が、武闘場の中心に注がれている。
武闘場の会場を見ると、そこは足元に真っ白な砂が敷き詰められた空間だった。遮蔽物も何もない円形の空間だ。まるで、逃げ隠れすることは許さないと言われているようである。
その会場の真ん中に、ラムゼイやマーティン達が立っていた。ラムゼイ達は拳を握り、片手を挙げて歓声に応えている。
「見てください! あれこそが、我が国最強の戦士達! 一人で百人を相手にすることだってできる、無敵の戦士です!」
歓声を浴びるラムゼイ達を見て、ここまで案内してくれた青年が感動とともにそう述べた。ファンそのものである。
だが、青年が兵士だから憧れているというわけではないだろう。この歓声を聞く限り、本当に国民の多くが憧れるヒーローのような存在に違いない。
「……これは油断なりませんね」
それだけの存在なのだ。そう思っての注意喚起だったが、グレン以外は誰も表情一つ変えずに足を踏み出した。
「時間が惜しい」
面倒くさそうにオーウェンが会場に足を踏み入れると、すぐにフェルターとストラスが順番に会場に入っていく。
「……煩わしい。歓声など消すだけだ」
「驚かせてやるとしよう」
やる気に満ちた二人が肩を怒らせて歩いて行き、グレンも背中を丸めつつ歩いて行った。
「仕方ないのう。頑張るとするぞい……」
溜め息混じりにそう呟いて歩いていくグレン。その小さな背中に苦笑しつつ、シェンリー達に手を振った。
「それでは、行ってきます」
その言葉を聞き、シェンリー達がそれぞれ返事をしてくれる。
「き、気をつけてください!」
「頑張ってくださいね!」
「やり過ぎないようにしたほうが良いぞ」
「……大変だから、怪我しないでね」
四人のそんな言葉に、苦笑しつつ頷く。すると、最後にモアが口を開いた。
「……本当に危険な時は負けを認めることができます。無理はしないようにしてください」
そう言うモアの表情には、心から心配している様子が見てとれた。ブッシュミルズ皇国の戦士への信頼は絶対的だが、私達が傷付くことも望んでいない。
モアは優しい人だ。
「はい。分かりました」
そう応えて微笑み、皆に背を向ける。
通路の奥の扉には青年が立っており、片手で片方の扉を開いて待っていた。
「ありがとうございます」
お礼を言って通り過ぎ、会場へと足を踏み入れる。砂はかなり粒が細かく、靴越しでも柔らかな感触だと分かった。深く沈むわけではないが、多少吹き飛ばされても大怪我にはならないだろう。
周囲を囲む壁は高く、全て分厚い石造りだ。物々しい雰囲気の中、会場の中心ではラムゼイ達とオーウェン達が一列になって向かい合っている。
ラムゼイ達は揃って笑みを浮かべて余裕を見せており、オーウェン達は揃って無表情に違い表情をしていた。
対象的な二組を興味深く眺めつつ、オーウェンの隣に立った。
「アオイよ。今回はやはり陛下が戦うと決めた。次回は是非戦ってもらいたい」
「再戦ですね」
「次は負けん」
そんなやり取りをして、どちらともなく笑い合う。ラムゼイは本当にわかりやすい性格だと思った。
その時、一際大きな歓声が武闘場を揺らす。その声を聞き、ラムゼイ達は背後を振り返った。
釣られてラムゼイ達の向こう側に視線を向けると、そこにはマッシュの姿があった。
目を引く白銀の鎧。ラムゼイよりも重装備だが、動きにくさは感じさせずに腕を組んで立っている。手には冗談のように大きな両刃の剣を握られていた。
「待たせたな、皆の者」
マッシュがそう言って笑みを浮かべると、ラムゼイ達は一様に片膝を突いて頭を下げる。それに倣って跪いてみると、マッシュが頷いて空いた方の手を挙げた。
「これより、特別な勝負を始める! しかし、良い勉強になるかと思って声を掛けたが、まさかこれほど集まるとは思わなかったぞ!」
マッシュが笑いながらそう告げると、武闘場には歓声と笑い声が響き渡った。
どうやら、この大勢の観戦者はマッシュの声掛けがきっかけらしい。それにしても、僅か一、二時間でよくもこんなに集まったものだ。
そう思っていると、マッシュはこちらを見下ろしながら言葉を続けた。
「今日の相手は、あのフィディック学院の戦士達である! 現在、最強の魔術師と称されるグレン学長と上級教員のアオイ! そして、そのアオイの師であるオーウェン! さらに、フィディック学院の教員であるストラスと、ラムゼイ侯爵家嫡男のフェルター! 相手としては申し分ない強者達である!」
マッシュが大声で我々の紹介をした。その言葉を聞き、好奇心を孕んだ視線がこちらに向けられた気がした。
特に、ラムゼイの子として紹介されたフェルターだ。あのラムゼイの子という言葉に、誰もが期待感を持ち、歓声を強くした。




