試合開始
控室の中の武器や魔術具を見て、オーウェンが口を開く。
「……中々面白いな。強い魔術ではないが、高度に効率化できている。それに、身体強化の魔術はないぞ」
「え? そうなのですか?」
オーウェンの言葉に驚いて聞き返した。オーウェンは壁に掛かっていた丸い盾をもって歩いてくる。直径は三十センチ程だろうか。薄くて軽そうだが、盾としては頼りなく見える軽量のものだった。
「これは瞬時に風のシールドを展開する魔術具のようだ。簡単な初級魔術と同程度の魔力で発動するが、効果は使い方次第では中級の魔術も防ぐことができるだろう」
そんな説明を聞き、成る程と頷いていると、後ろからストラスが手を伸ばした。盾を見たいのかと思って手渡すと、ストラスはじっくりと観察し、口を開く。
「俺はこれを使うことにしよう」
「え? あまり強くはありませんよ?」
ストラスの言葉に首を傾げながら聞き返す。それに息を漏らすように小さく笑い、愛用している杖を取り出した。
「どうせこれ一本でいくつもりだったからな。充分だ」
「……分かりました。それでは、怪我はしないように気をつけてくださいね」
そう告げると、ストラスは目を瞬かせ、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「……なんで戦うことになったのかと思っていたが、これは何がなんでも勝たないといけないな。俺だってフィディック学院の教員であるというところを見せてやろう」
それだけ口にすると、ストラスは盾を手にして笑った。どうやらやる気になったらしい。とはいえ、ストラスを過小評価したことなど無いし、ましてや弱いと思ったこともない。
その部分はきちんと伝えておこうと思ったのだが、タイミング悪く控室の扉をノックする音が響いた。
振り向くと、先程の門番の兵とは違う青年の兵士が顔を見せた。
「準備は整っておられますか?」
「あ、はい……皆さん、大丈夫ですか?」
そう声を掛けると、オーウェンとストラス、フェルターが無言で頷く。そして、グレンは眉尻を下げて困ったような顔で口を開いた。
「もうやるのかの? 皆、やる気満々じゃのう」
グレンはそう呟くと、そっとこちらを見てきた。何かして欲しそうな顔で待っているが、意図が掴めない。
「……? グレン学長も大丈夫ですよね?」
そう尋ねると、グレンは曖昧な表情で顎を引いた。問題ないということだろう。
「こちらも準備は完了しました」
改めて、青年にそう答える。すると、青年は今の会話から参加者を把握したらしく、微妙にがっかりしたような顔で頷いた。
「……承知しました。それでは、こちらへ。見学の方も通路から見ることができるようになっていますが、どうしますか? 二階席もまだ空いていると思います」
「二階席? あぁ、さっきの観戦席か」
青年の言葉にロックスが反応する。そこへ、ハイラムが首を左右に振って答えた。
「遠くに座ってると治療できないから、通路からの観戦を希望するよ」
ハイラムはそう言って肩を竦める。そんな発言に、ロックスが鼻を鳴らして笑った。
「なんだよ。完全に治療班だな? 癒しの魔術の使い手だと自覚してきたのか?」
「そ、そんなんじゃないさ。ただ、また無茶ぶりされそうだったからね」
ロックスに揶揄われてハイラムはいつになく動揺する。もしかしたら、少しずつ癒しの魔術に自信を持ち出しているのかもしれない。
ちょっとずつでも、ハイラムは変化しているようだ。
そんなことを考えつつ微笑み、ハイラムに声を掛ける。
「それでは、今回はハイラム君に気絶だけでなく、切り傷や打撲、骨折も治してもらいましょう」
そう告げると、ハイラムは両手を挙げて文句を言った。
「ほら! 気がつけばこんなことになるんだから、遠くに行けないんだよ!」
大袈裟に文句を言うハイラムに、ロックスが声を出して笑った。
「はっはっは! それだけ実力がついたってことだろうよ!」
ロックスは他人事のようにそう言って笑った。ちょっと冗談っぽく言っていたが、内容に間違いはない。意外とロックスも皆を見ているのかもしれない。
「……それでは、全員で武闘場に向かうということで間違いないですね?」
二人の会話を聞いていた青年はもう一度だけ確認して、通路の先に向かって歩き出した。
「こちらへどうぞ。会場へご案内します」
そう言いながら先を歩く青年に、慌てて皆で付いていく。
「……あまり歓迎していないようですね」
青年の背中にそう声を掛けると、少しだけ間を開けて青年は横顔をみせ、答えた。
「正直、もっと強そうな人を想像していました。我がブッシュミルズ皇国が誇る戦士達が戦うのだから、それ相応の強者が来たのかと……」
残念そうにそう呟くと、通路の先にある黒い両開き扉の前に立つ。扉は格子状になっており、顔を近づければ会場を覗くことができた。
会場を覗こうとすると、青年は溜め息を吐いて扉の片方に手を押し当てる。
「本当の戦士の戦いを見ることができる。そう思って、皆も会場に見学に来たのです」
「皆?」
青年の言葉に聞き返すが、その声は歓声に掻き消されてしまう。青年が扉を開けた先には、満員と言っても良いほどの数の観戦者が観戦席を埋めていた。




