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騎士と魔女の誓約  作者: 泉伊織
学院の殺人鬼
2/20

始まりの予感

読んでくれたら嬉しいです

 煌びやかな王城の廊下を早歩きでいく。

壁には等間隔に絵画や宝石、鏡などが掛かっていた。

目的の部屋に着く、がその前に窓に近寄り反射した自分を見る。

そこに映るのは黒髪ストレートで少し垂れ目の取り立てて特徴のない優男然とした顔があるのみ。

身長は男の平均より少し高いくらい。黒い軍服の下には包まれている。鍛えられた抜かれた身体が

身なりをチェックした俺は扉をコンコンコンと三回ノックをする。


「入りなさい」


 入室許可が降りると僕は扉を開け中に入る。


「失礼します」


 部屋の中は机にソファとセンターテーブル、本棚があるのみ。

 ここは第一都市王都アレス。アレスドラ王国の王城その一室の近衛騎士団団長の執務室だ。

 中で待っていたのは赤い髪をした俺と同じデザインだが、色違い赤い軍服を着た女性アイリスだった。

 俺は机の前まで行く。


「よく来てくれたわ」

「あんたに呼ばれたんだから来るのは当たり前だ」

「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。

「それで、何の用?家じゃなくて執務室ってことは、それなりのこと?」

「いまから話すわ。でもその前にそこのソファに座って、少し長くなるから」


 俺は座り心地抜群のソファーに座る。地面が沈んだのかと思う程ふかふかだ。


「何か飲む?」

「それじゃあ、コヒーをお願いしようかな。砂糖は五個くらいで」

「入れすぎじゃない?体壊すわよ」


 母親のようなことを言うアイリス。まあ、実際アイリスは俺の母ようなものでもあるから、なんとも思わないが。

 俺の目の前のセンターテーブルにコーヒーを置くとアイリスは対面のソファに座って足を組む。

 その仕草は貴族の令嬢もかくやというほど上品だ。


「そうね。端的にいうとアイトにはこれからラフォール学院に入学してもらうわ」

「すまん。ちょっと意味が分からないんだが」

「君にはこれからラフォール学院に入学してもらうわ」

「いや、言ってることは分かる。理解が出来ないんだ。分かってて言ってるよな」

「うふふ、ごめんなさい。久しぶりにアイトと話すとなって、つい楽しんじゃってるわ」


 茶目っ気の含んだ笑顔を浮かべるアイリスはとても可愛かったが今はそんなことはよくて。


「なんで俺がラフォールなんかに入んなきゃいけないんだ?」

「犯罪組織ミラのファミリアのリーダー通称ギラがラフォールに潜んでいるという情報を手に入れたのよ」

「何?それは本当か?」


 にわかには信じがたい。

 ミラのファミリアとは五十年も前から存在し国家転覆を目論む犯罪組織だ。

 構成員の数、本拠地と一切を謎に包まれている。

 唯一、分かっていることといえばリーダーの名前がギラという事。だが、これは恐らく仮名だと考えられている。

 過去に何度か大きな事件を起こしていて、この国の犯罪全てに関わっているとまで噂されている。


「ええ、おそらく本当よ、偽じゃないわ。もちろん極秘だから他言無用でお願いね」

「それは分かっている」

「それで上と協議した結果、ラフォール学院への潜入とギラの暗殺という命令が君には下ったわ」

「ちょっと待ってくれ!」


 アイリスから発せられた衝撃の言葉に腰を浮かして詰め寄る。


「そんなの無理だ!荷が勝ちすぎてる。他に適任な奴はいるだろ!」

「いいえ、アイト以外にはいないわ」

「確かに俺は強くなった。それでも俺はまだ、あんたを超えてない。まだまだ、あんたから学ぶことは沢山ある。ラフォールなんかに通ってる暇はないんだ」

「そんなことないわ。もうアイトは私から十分に学んだ。それにラフォールだから学べることもあるはずよ」

「それはっ………」


 苦々し気に俯く。

 図星だ。

 俺はまだまだ未熟だが、それでもそこら辺の近衛騎士では手も足も出ないだろう。

 俺はもう誰かから学ぶのではなく、日々の生活、環境、経験から試行錯誤して強くなるステージまで来ているのだ。


「それにラフォールにはグレイスも通うわよ」


 その名前が出た途端、心臓がキュッと締まり脈拍が数段階速まる。

 呪いが幾度と俺を追いかけて噛みつき、殴り、打ちつけ、蝕み、食む。

 悪夢が名前と同時に脳にこびりついて離れない。


「まだ克服してないようね」


 アイリスは出来の悪い愛しい子供を見守るような目で俺を見る。

 それを、その顔と声を見て聞いて俺は平静を取り戻す。

 額を触るとべっとりと冷や汗をかいていた。


「いい、機会だわ。この際ラフォールで過去も断ち切ってきなさい。アイトならやれるわ」


 俺のなかでも何かが灯った音がした。

 俺も過去に恐怖して今を生きるのはうんざりしていた。

 ラフォールで何もかもを振り払うのは無理かもしれないけど、そろそろ折り合いをつけなければと思う。


「分かった。行くよ、ラフォールに」

「引き受けてくれて嬉しいわ。でも、上が求めているのは、あくまでもギラの暗殺よ。君の過去がどうとかは一切興味がないわ。そこは忘れないで」

「ああ、大丈夫だ。俺も騎士だからな」

「うふふ、一丁前にカッコつけちゃって。それじゃあ、騎士様にはもう一つお願いしようかしら」

「お願い?」


 アイリスから発せられるお願い、無茶苦茶に不穏な響きだ。


「暗殺作戦の特性上、君にはあまり目立つようなことはしてほしくないわ。

 ギラに警戒されて、逃げられるのは避けたいわ。上はこの作戦でギラを消そうとしてる。

 そこで君には私の封印魔術で制限を受けてもらうわ。今の君の実力だと絶対目立ってしまうからね」

「なるほど。なら、ラフォールの中でも真ん中ぐらい、冴えないような奴がいいか」

「まあ、そうね」

「よし、それなら早速やってくれ」

「ええ」


 アイリスは俺に人差し指を向ける。


「『”我が血は鎖__

 心を縛り身体を締め付け魂を潰す__

 記憶を冷やし思考を熱す__“』」


 人差し指の先に正十二面体の魔法陣がが浮かび、詠唱を終えると座っている俺の左胸に侵入する。

 アイリスとは長いこと一緒にいるが初めて見た魔術だった。

 それでも何となく予想がつく。

 結界術のエキスパートたるアイリスは、その派生系である封印魔術も扱える。

 アイリスは恐らく俺の身体能力と魔術痕を自身の魔力で概念的に鎖へと変え縛っているのだろう。


「どうかしら調子は?」


 尋ねられ、俺は拳を握ったり開いたり、腕を上げたり下げたりして確かめる。


「効いてる。すこぶる調子が悪い」

「そう。成功ね。いま私が施した痕跡閉鎖魔術は君の心臓を覆っているわ。服を脱いだら分かると思うけど、心臓の部分に紋様があると思うわ」

「一ついいか?もしギラと戦闘になったらどうすんだ?ギラは仮にもこの国の悪の親玉だ。制限されてる今の俺では絶対に勝てないと思うぞ?」


 ギラは仮にもこの国最大の犯罪組織ミラのファミリアのトップだ。

 知略に長けているのか、力を得意とするのか、もしくはどちらもか。分からないことだらけだが、とにかく手加減をして勝てるような相手ではないのは確かだ。


「心配しないでいいわ。一言『”ソルブ”』と胸に手を当てながら言ってくれれば解除されるわ」

「オーケーだ」


 俺が頷くとアイリスは組んでいた足を解き立ち、机に歩く。背筋はピンと伸びていて一つ一つの動作に隙がない。

 俺もソファーから立ち上がり執務机を挟んで対面に立つ。


「近衛騎士団団長アイリス・ユーデルフォートは近衛騎士団ゼロ番隊隊長アイト・フローラルハートに作戦命令を下す。

 命令内容はラフォール魔術学院に潜入しこの国の最大の狂気ミラのファミリア、そのリーダーギラの暗殺を命ずる。

 作戦の成功を願う」

「はっ」


 俺は跪き頭を垂れて腰に差さった剣を両手で掲げる。


 ####################################



 エヴァレットが執務室を去った後。

 私は椅子に深く座り息をつく。

 目線をソファのエリア、センターテーブルに移すと一口も付けられていない、コーヒが目に入った。

 まったくと思い椅子から立ち上がりカップを取って、また座る。

 捨てるのは勿体無いと思い、飲んでんみると………………甘い!


「何よこれ、甘すぎだわ。流石にこんなのを日常的に飲んでたら身体を壊すんじゃないかしら」


 アイトの甘党にも困ったものだわ。

 そんなことを思いながら残ったコーヒーを飲みながら、窓から空を見上げた。

 頭に浮かんでいるのはアイト。

 あの夜に彼と出会ってから、ずっと見守ってきた。

 だから言える。


「いまの君は父君にも勝るとも劣らない力を持っている」


 最後の一口を飲み干した。

 ぬるくて甘い味がした。


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