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<第26話>結婚を前提に、おつきあい?

 何回思い出しても、キュンキュンしちゃう。


 私のあごにかかった、拓途の手。軽くチュッとしただけなのに、拓途ってば、緊張しちゃったのかな? 指にギューッと力を入れて私のあごを抑えつけるから、けっこう痛かったよ。


 もしかして、拓途はキスが初めて? 唇が触れた瞬間、『んっ』って声がもれた。あれは、すごくピュアな感じがして、かわいかったな。


 思春期の男の子だもん。そりゃ緊張でガチガチになっちゃうよね。でも彼ったら、おかしいんだよ。武士の果たし合いみたいな怖い顔で、キスしろってせがんできて。


『そっちから、せっ……Aするまで、帰さねーぞ』


 しかも上手く言えなくて、途中でどもっちゃった。うふふっ。かーわいい。


 それにしても、拓途みたいなイマドキの若い子が、キスのこと『 A 』って言うなんて、びっくりしちゃった。恋のA、B、Cなんて、すっかり死語だと思っていたよ。


 『 A 』は、キス


 『 B 』は、大切なところをじかに触るのを許して


 『 C 』は、最後まで許す


 昔の若者は、超・超・超うぶだったからね。『キス』なんて言葉、使うのが恥ずかしくて、そういう風に言い換えていたなあ。

 

 でも彼とのキス、思い出すだけで、恥ずかしくて身もだえしちゃう。ダメダメ! もう想像しちゃダメ! 私は、枕に顔を押しつけて、ニヤニヤ笑っちゃいそうなのをこらえた。


 やだっ。ひとりで興奮してもだえたりしたら、娘のはるが起きちゃうよ!


 はるは今、お昼寝中。ついさっき寝付いたばっかりで、私は、はるの隣にゴロンと添い寝しているところ。


 ちなみに、ここは自分の家じゃないの。今日は仕事がお休みで、はるを連れて母の家へ遊びに来ているんだよね。


 母は再婚していて、私と弟のケースケが住むアパートとは、別の場所で暮らしている。母の家は、うちのボロアパートから車で5分くらいの、山手の住宅街にあってね。バラの生垣と白い壁がすてきな一軒家なの。


「奈津」


 ふすまの向こうから、母がひそひそ声で、私を呼んだ。


「何?」


 私が小声で答えたら、静かにふすまが開く。


「そろそろ、お茶にしない?」


 母の手には、ケーキ屋さんの白い箱。やった! 駅前の洋菓子屋さんの箱だ! あそこの苺ショートケーキは、大・大・大好物なの!



「奈津、夕飯も食べて行けば? アジを南蛮漬けにしたから」


 母がおしゃべりしながら、キッチンで紅茶を淹れている。その横のダイニングテーブルで、私は、ショートケーキをお皿へ取り出す。


「そうしたいけど……用事があるし帰らなきゃ」


 私は嘘をついて断った。


 母の作る南蛮漬け。うーん。そっちも私の大好物なんだよな。食べたい。でも、夕方までには家へ帰らないとね。


 だって、ここの家で15才の姿になったら困るもん。母がびっくらこいて腰抜かしちゃうよ!


 おばさんの私が、女子高生にドロンと変身するようになって3週間ぐらい経つ。どうしてなっちゃうのか、まだ原因がわからないの。日によって、変身する日としない日があるし。どうなるか予想がつかなくて本当に困り果てているんだよね。


 とにかく変身しちゃうときは、いつも夕方なの。それだけは確か。今は15時を過ぎたばっかりだから、お茶を飲んだあとに、はるを連れて帰らないと。


「あら、用事ってなあに? 年下の彼とデートかしらね」


 母の顔がパッと輝く。


「えっ! お母さんどうしてそれ……」


 私はびっくりして、訊き返す。


 拓途と色っぽい雰囲気になったのは、ここ数日のこと。それなのに、どうして母が知っているの?


「ケースケに聞いたわよ」


 母の嬉しそうな顔。


「ずいぶん年下の人と、お付き合いしているんでしょ」


「ケースケが?」


 そうだ! 私、弟のケースケに、年下の男友達がいるのって話したんだわ。彼が高校生だとは、言っていないんだけれどね! あれは――2週間ぐらい前だったっけ? あのときは、拓途と私の関係はまだ友達で、つきあうなんて考えられなかったけれど、ケースケが、勝手に彼氏だって誤解しちゃって。


 でも、もしかしたら、ケースケのあらぬ誤解が、現実になっちゃうのかも。


「うーん、まだどうだかわかんないよ。つきあおうっていう話も出てないし」


 私は、慎重に答える。


 拓途は、私との関係をどう思っているのか、まだわからないしね。私とキスしたいって思うくらいだし、好いてくれているのかな? つきあいたいって思ってくれているの?


「やあね。隠さなくてもいいわよ」


 母が、私の肩を軽く小突く。


「はるも、彼にとっても懐いているのね。はるはその方のこと『パパ』って呼んでいるんでしょ? さっきはるに聞いたわよ。『ぱっぱのお寿司あーんした』ってね」


 はるが話したの? いつの間に? 拓途とはると3人で回転寿司に行ったのは事実だけれど、母の中で、大きな誤解が発生している気が……。


 はるの言う『ぱっぱ!』は、『パパ』って呼んだんじゃなくて、カッパ巻きの『かっぱ!』が上手く言えていないだけだから! それ事実とぜんぜん違うから!


「よかったわ。奈津は、離婚してまだ半年でしょ。こんなに早く、いい方とご縁があって」


 母の心底ホッとした顔。


 まさか、結婚を前提におつきあいしていると思い込んじゃったかな? でも、こんなに幸せそうな顔されたら、今更、それは間違いだなんて説明しづらいよ!


「はるは家で預かるから、たまにはゆっくりデートしていらっしゃいね」


 母は、完全に誤解しちゃったみたい。ううっ、どうしよう。

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