拓途視点【その13】 わかるよ、君の声
あれ? 今、なつの声しなかった?
『拓途!』
って呼ばれた気がして、自転車止めた。
なつが、こんなとこにいるか? 気のせいだろ。いるはずない。
俺がいるのは、スーパーのまん前。といっても朝早くて、開店してない時間だし。
姉のサツキが、そこで働いててさ。俺は、サツキの忘れものを届けに来た。それで、今、自転車で、そのスーパーへ着いたところだけど。
ここにいるのは、おばさんがひとりだけ。今、俺を見てニコッとした。たぶん店が開くのを待ってんだろな。
俺は、自転車を停めて降りた。自転車のかごから、紙袋を取る。この中に、サツキの忘れものが入ってるから。
「拓途」
また呼ばれた。この声、なつだ。鼻にかかってる声。なつが俺を呼ぶときは、『たくとおーっ』って、語尾がちょっと跳ねるんだ。絶対にそうだって!
どこだ?
「なつ?」
キョロキョロしてなつを探そうとしたら、ちょいちょいっと、パーカーの袖を引っ張られた。
「そう! 私だよ。わかってくれたんだね」
俺に話しかけてるのは、さっきニコッとしたおばさん。
「あっ、えっ?」
うわっ、何だ? このおばさん。あんたのこと知らねーって。意味わかんなくて怖っ。俺は、超高速で手をひっこめた。
「突然で、びっくりした? 私、サツキちゃんと一緒に、ここのスーパーで働いてるの」
おっ、おおお! そういうことか。この人、サツキが言ってた『神崎さん』か? 同じ店で働いてる人で、年は30代くらいだっていってたもんな。
だったら、なつの親かもしんないじゃん! ホントにそうだったら、やべーよ。今、俺めっちゃびびって手を避けたし、印象最悪だった? 彼女の親に、初対面で嫌われたらどーすんだ! ちゃんと謝っとかなきゃ。
「あ、ああ、あの、ごめんなさい。……俺、状況わかってなかったんで、手を避けちゃって」
俺は、あわてて頭下げる。
「あははっ、あせっちゃうね。私も、こんな状況で会うと思わなかったな」
明るくてサバッとした人だ。しゃべりやすい。笑い方もほわんとしてて、なんか癒されるし。声だけじゃなくて、そういうとこ全部、なつに似てる。
この人、絶対になつの親だな。訊いてみよ!
「あの、なつとは親子ですよね? 妹のはるちゃんも……」
この人がなつの親なら、妹のはるちゃんも、当然そーだろ。
「あっ、ごめんなさい。それ! 訂正しとかなきゃ!」
おばさんが、大声出した。
えっ、何? 俺、しゃべってる途中なんだけど。
「私とはるは、親子です。はるは、私の『 妹 』じゃなくて、『 娘 』なの」
おばさん、申し訳なさそうに俺を見る。なんか文句言いづれーぞ。
「……わかりました」
俺の言い方、おかしかったか? はるちゃんが、おばさんの『 妹 』だとか、俺は言ったつもりないけども。まあでも、なつだって天然で、ちょいちょいヘンなこと言うしな。親子だし、そういうとこも似てるんだろ。
「ねえ拓途! 今日は一緒に、晩ご飯、食べに行こうよ。お給料が出たばっかりなの」
お、おう! なつの母ちゃん、俺とは初めて会ったっつーのに、めっちゃフレンドリーだな!
「娘も一緒に。ね、いいでしょ?」
キラッキラした目で俺を見上げる、なつの母ちゃん。
なつも、こういう目で俺のこと見るんだよな。
「娘は、拓途のこと、大・大・だーい好きなの。会いたい会いたいって、毎日ずっと言ってるよ」
なつがそんなこと言うの? 俺の前じゃ、『大好き』なんて1回も言ったことないのにさ。へへっ、そーか。なつって、家じゃ、俺に『会いたい』とか言いまくるようなキャラなんだ。ふーん。まあ、かわいいとこあんじゃん!
「なつも来るんなら、いいっすよ」
「あったりまえでしょ!」
なつの母ちゃんが、俺の肩をバシッと叩く。
「待ち合わせは19時くらいで、はるを預けてる保育園の前でいい? 帰りは、家まで車で送るからね。自転車には乗らずに、歩いてきてよ」
なつの母ちゃんがニコッとした顔、めっちゃなつに似てる。
彼女の親がしゃべりやすいキャラの人で、ホントよかったよ。




