<第24話>お互い油断しまくり
【お知らせ】
うら若き乙女が、女子高ノリのような大胆な行動をしますが、どうか温かく見守ってくださいませ。そういうのが苦手な方、ごめんなさい。
「ああっ、神崎さん!」
サツキちゃんが、私の方へダッシュしてきた。
勤め先のスーパーへ出勤して、女子更衣室に入ったとたん、20代の乙女が、白ブラウス一枚の姿で、ずんずん迫ってくる。うぎゃー、朝からなんてことを! 着替えの途中なのか、スカートを履いていない!
「朝からこんな格好でごめんなさい。お願いがあるんです」
サツキちゃんは、目をうるうるさせて、私の手を握る。
「えっ、何?」
「制服のスカートを、家に忘れちゃって」
サツキちゃんは、頬を赤くしてうつむいた。
彼女は、このスーパーの社員さんだ。私みたいなパート勤めだと、私服にエプロンするだけでいいけれど、社員は、制服のブラウスとスカートに着替えなくちゃいけないんだよね。
「事務室で予備のスカート借りようと思ったのに、サイズがどれもブカブカで」
サツキちゃんはウエストが細いし、制服はサイズ直しをして着ていたっけ。
「しょうがないから弟に電話して、店の前まで持ってきてって頼んだんですよ。今日はあいつ、高校休みなんで」
「弟さん?」
私はびっくりして訊き返す。彼女には、弟さんがいたんだ。初めて知ったよ。
サツキちゃんが20才ぐらいだから、弟さんは、まだ高校生なのね。今日は土曜だし、お休みで家にいたのかな?
「家近いんで、弟はすぐ来ると思います。でも私は、これから開店準備しなくちゃいけないし、待ってる場合じゃなくて」
そろそろ8時15分だし、たしかにフル回転で準備しないと、9時ちょうどの開店には間に合わない。
「でも……開店前とはいっても、その格好で大丈夫? パンツ見えちゃわない?」
「やだなあ。ちゃんと下は履いてます」
サツキちゃんが、突然バサッと、ブラウスのすそを持ち上げた! おおお!
――と、思ったらその下には、ホワイトデニムのショートパンツ。ものすごく丈が短いから、何も履いていないのかと思って、ドキドキしたよ!
「大丈夫ですよ。カーディガンを腰に巻いて、お尻は隠しますから」
サツキちゃんは、えへへ、なんて、いたずらっぽく笑う。
もしかして私、軽くからかわれているのかも。
「神崎さん、そういう訳ですみません。私の代わりに、スカート受け取ってもらえますか?」
「うんOKだよ。弟さんは、どんな子?」
私は、彼女の弟さんと初めて会うし、念のため、特徴を訊いておこうと思った。
「え? 神崎さんまさか、うちの弟、知らないんですか?」
サツキちゃんは、びっくりしている。何なの? その『うちの弟、知ってて当然』みたいな反応は!
「うちの弟、神崎さんのお子さんを知ってるって、言ってましたよ?」
彼女は、不思議そうな顔をする。
「あいつ本人が言うには、『はるちゃんが公園で泣いてるところを助けたら、亀みたいにめっちゃ懐かれた』らしいです」
「亀?」
えええ! 犬や猫じゃなく、亀? うちのかわいい娘を、亀呼ばわりするなんて、ひどい! 私は、は虫類って苦手なの。はるは、あんなに目つき悪くないよ!
「亀って、だいたい懐きませんよね? うちの弟、よくヘンなこと言うんで。たぶん、浦島太郎が助けた亀に連れられて……っぽいことが言いたかったんじゃないかと思います」
☆
スーパーの入り口の前で、私はそわそわしながら待っている。
高校生の男の子で、娘のはるが懐きまくった相手といえば、ひとりしか顔は浮かばない。
拓途? 嘘でしょ? 彼が、サツキちゃんの弟?
もし本当にそうだったら、どうしよう? 私、まだ拓途には、35才のおばさんに戻ったところを見せていないのに。
まさか今日、彼におばさんの姿を見せるとは予想していなかったし、白の綿シャツにジーンズなんて、油断しまくりの格好で来ちゃった。
これを、モデルとか女優みたいにスタイルのいい人が着たら、『うわーシンプルで素敵!』ってなるよ。でも私は、チビだし、足もむちむちで太いし、カッコ悪いんだもん!
ううっ、泣きたい。おしゃれな服を着てくるんだった。それに、こんなことになるなら、気合いを入れてお化粧すればよかった!
昨日も、拓途におばさんの姿を見られるのがどうしても怖くて、『ごめん、やっぱり恥ずかしい! 続きはまた今度!』なんて言ってダッシュで帰っちゃった。でも、今日は逃げられないよ。サツキちゃんのスカートを受け取らなきゃいけないんだもん。
覚悟を決めなきゃ、私!
今更、恥ずかしがったって遅いんだ!
私が元の姿に戻るところ、きっともう拓途に見られちゃっているはず。いつ見られたのかは、さっぱりわからない。でもそうじゃなきゃ、15才の女子高生の正体が、じつは大人だって思うわけがないでしょ。
『高校生だって、ほぼ大人だろ? たいして変わんないし』
昨日、拓途が言ってくれた。あんなにあったかくて優しい子だもん。おばさんの姿を見たくらいで、冷たくなるはずないよ!
私はこぶしをギュッと握って、前を向いた。そのとき。
大通りの向こうに、1台の自転車が現れた。そのまま信号待ちをしている。
いつもの制服姿じゃない、私服の拓途。
グレーのパーカーに、Tシャツと紺のスウェットパンツ。ボサボサの頭をだるそうに掻いている。学校お休みだし、もしかしてさっきまで寝ていた? 寝間着の上に、パーカーだけ羽織ってきたのかな。気を抜いてボーッとした顔も、やっぱり拓途らしくていい。
――そうだよね。カッコ悪くていい。チビのおばさんでも、それが私だもん!
「拓途!」
私は叫んで、手を振った。




