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拓途視点【その9】 彼女ホイホイ大作戦☆パート2

「ふうっ」


 俺は、ゆっくり息を吐いた。やべ。めっちゃ緊張してる。


 なつと仲直りができるかどうか、俺の演技力にかかってる。ゆうべ、カナちゃんに教わった作戦どおりにやるんだ。一発勝負。上手くやんなきゃな。


 制服のネクタイゆるめて、自転車のハンドルをグッと握った。右足しっかりペダルにかけて。大丈夫。いつでもサッと走り出せる。


 今は、夕方。学校の帰りに、俺は自転車に乗ったまま、なつを待ってた。なつが妹を預けてる保育園の前だ。それで、なつが妹を迎えに来たとき、こういうセリフを言うことになってる。


「おっ、生きてたな」


 まずは、ニヤッと笑うんだ。口の端っこをちょい上げて、悪っぽい感じに。


「連絡よこさねーから、生きてんのかどーか、見に来てやった」


 そして、なつの頭をポンポンっと叩く。


「あんまり心配させんな」


 ここで、風みたいにサッと去る。自転車に乗って。


 それが、カナちゃんの立てた『彼女ホイホイ大作戦』。筋書きどおりに俺がやったら、なつがあわてて連絡してくるって、カナちゃんはドヤ顔だったけど……。


 大丈夫か? こんなんで、なつと仲直りできんの? えらそーなこと俺が言ったら、なつはめっちゃ怒るんじゃないか? 向こうからホイホイ連絡してくるなんて信じらんないな。


「ふうっ」


 俺はもう1回、息吐いて、気合い入れ直した。とにかくやるしかない。俺がこのまま何もやんなきゃ、なつとは連絡取れないまま、自然消滅かもしんないぞ。嫌だ、そんなの絶対。


 ぶんぶん首振って、もう1回、自転車のハンドルを握り直した。そのとき。


「キャーーーー、キィーーーーーッ」


 すぐそばの公園から、叫び声がした。耳ふさぎたくなるくらい、キンキンうるさい。女の声? いや、ちっちゃい子どもの声かも。


 何だろ? 公園で、何か事件でも起きてんのか? そのくらい、やばそうな感じのする叫び声。


 だけど俺、保育園の前で、なつを待たなきゃいけない。なつが来たら、『ホイホイ大作戦』をやりきって、風のようにかっこよく帰るんだ。そうしないと、なつは二度と連絡くれないかもしんないんだ。今夜も、鳴らないスマホ握ったまま、布団ギュッと抱きしめて寝んのか?


「キィィーーーーーーーー、アーーー」


 悲鳴はもっとデカくなる。


 どうする? 様子見に行くか? 通り魔とか、襲われたら命やばいやつかもしんないな。関わんない方がいいだろ。でも、もし……子どもの誘拐だったら?


 誰かが危ない目にあってるのに、それ放っといて、俺がなつを待ってたって知ったら、なつは俺を『かっこいい』って言うか? そんなやつと話したいと思うか?


 待ってちゃ、ダメだ。


 俺は、自転車飛ばして、公園へ走った。

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