<第21話>ホイホイ作戦は、成功? ヒーロー拓途、フニャフニャーっと登場!
「キャーーーー、キィーーーーーッ」
娘のはるが、大パニックを起こしている。
どうする? まさか、はると一緒にいるときに、15才に変身しちゃうなんて!
何なんだ、このフェイント攻撃。
昨日、保育園にはるを迎えに来たときは、変身しなかった。だから、もう女子高生に変身しなくなったのかって、すっかり思い込んでいたし。
「はる、大丈夫だよ」
わたしは、はるの頭をなでて、なだめようとした。
「キィィーーーーーーーー、アーーー」
はるは余計におびえて、悲鳴を上げる。
そうだね。怖いよね。さっきまで、ママとふたりっきり。公園で遊んでいたのに、振り向いたら突然、ママの姿は見えなくて、知らない女子高生がグイグイ迫ってくるんだもん。
「ヒィィー! ママーッ」
はるは、泣き叫んで、姿が見えない母親のわたしに助けを求める。
15才の姿になったわたしは、はるを怖がらせるだけ。守ってあげられない。
ううっ、困った。わたしも泣きたい! どうすれば、はるを安心させられる?
突然、ガシャーンと大きな音がする。わたしが顔を上げると、公園の入り口に、倒れた自転車とヒョロッとした人影が見えた。誰かが、自転車で転んだ? ……と思ったら、すぐ立ち上がった!
「なつ!!!」
あの高校生の男の子がこちらへ走ってくる。彼は、制服のブレザー姿だ。学校帰りなんだろう。
「何だよーここにいたのか」
フニャフニャーっとした笑顔で、近づく彼。
「何で連絡くれないかなー。心配するだろー」
くしゃっと目尻を下げる彼。
わたしの心は、ふわりと温かくなる。ほっとしたせいか、涙が出そうになった。
「いつから来てた? 俺、さっきから、保育園のとこにいたんだけど」
今日も彼は、昨日と同じく、保育園の下で15才のわたしを待ってくれていたらしい。
「あの……さっき、来たばっかり」
わたしは、とっさにそう言った。
もっと早くから来ていたんだけれど、15才の姿になったのは、ついさっきだし。
30分くらい前から、保育園の前にあるこの公園にいる。今日は職場のスーパーが暇で、早く上がらされたのだ。お迎えがいつもより早かったんで、公園ではるを遊ばせていた。その間に、彼が保育園の下へ着いたのかも。ちょうど入れ違いになったんだね。
「えっ! 気づかんかった」
彼は、しくじった! と言わんばかりの顔をする。
わたしはさっきまで35才のおばさんの姿だったから、もし出会っていても、彼は気づいてくれなかっただろうな。
「あの子が、はるちゃん?」
彼はわたしに訊いた。
「うん」
わたしはうなずく。
彼は、はるの前にしゃがんだ。
「どうした。何泣いてんだ」
彼が話しかけると、はるはびっくりした顔になる。
「ママ」
はるが大泣きした。
「そっか。ママがいないのか。どうして泣く? 姉ちゃんがいるだろ」
彼が言うと、はるはぶんぶんと首を振る。
はるの目にいっぱい溜まった涙。はるは、女子高生のわたしが、すごく怖かったんだね。
「なつ、暗い顔すんな」
彼は、わたしを励ますように、ニカッと笑った。
「よし、ママを探しに行くぞ!」
彼がいきなり、はるを抱き上げる。
はるはびっくりした顔で、彼を見た。でも、そのあとは嫌がりもせず、彼の胸にぴったりくっついて甘えている。
なぜだ? はるは彼と、今初めて会ったのに、ちっとも怖がっていない。
女子高生になったわたしを見たときは、おびえてキーキー泣いていたのに。
「さあ、ママはどこだろ?」
頬を上げて、ほんわかと笑う彼。はるのちっちゃな手が、彼のほっぺにぴたぴたと触れる。
そうか、笑顔だ。
相手をほっとさせちゃう笑顔。それが、はるをピンチから救ってくれた。
はるを抱っこして公園中を飛び回る彼は、ヒーローみたいにキラキラしていて、カッコいい。
「ママは、あそこにいるかな?」
「あっちじゃないか?」
はるに話しながら、ジャングルジムの中やベンチの裏を、わざとらしい仕草で覗いてみせた。そして彼は、はるが落ち着いてから、砂場へ座らせる。
「あとで、姉ちゃんがママのところに連れて帰ってくれるって。もう少しここで遊んでな」
はるは、キョトンとした顔で彼を見上げた。もう泣くことはすっかり忘れたみたいだ。
彼は、わたしのそばへ走って戻ってきた。
「イエーッ、はるちゃん、機嫌なおったー」
彼がおどけて、顔のわきへ片手を上げる。ハイタッチかな?
「ありがとう。助かったよ」
わたしは、パンッと手のひらを合わせる。すると、彼がわたしの手をギュッと握った。
「えっ?」
わたしは、驚いた。イマドキの若い子は、ハイタッチじゃなくて、手をつかむの? わたしみたいなおばさんが知らないうちに、いろいろ進化してるのね! いやー、知らなかったわ。
わたしもさっそく真似して、彼の手をギュッと握り返す。
「え……っと」
彼は、わたしの手を握ったまま、目を泳がせている。なぜ? またもや、不審な行動!
相変わらず、彼は天然ちゃんだなあ。一緒にいると、ほのぼのする。




