<第17話>チーかまをモグモグしているおばさんは、好きですか?
隣の部屋から、短いバイブ音が聞こえる。ちゃぶ台に置いたスマートフォンが鳴ったみたい。
私は、はるを寝かしつけたあと、ノンアルチューハイで一杯やっていた。寝室のふすまをちょこっと開けて、薄明かりの下、娘のあどけない寝顔をニマニマと眺めつつ、チーかまをアテに傾ける一杯は最高だわね! そんな癒しのひとときを邪魔する不届き者は、いったい誰じゃ?
私は、チーかまを口にくわえたまま、ノンアルチューハイの缶を片手に、静かにふすまを開けて、寝室を抜け出す。
スマートフォンを見ると、画面に小窓が出ていた。RINEの新着メッセージが届いている。
>今 何してる?
ユーザー名は『拓途』。あの高校生の男の子からだ!
嬉しくて、思わずニンマリしちゃう。夕方、別れ際に、彼の態度はそっけなかったから、私、ちょっぴり傷ついていたんだよね。別に、彼に嫌われたわけじゃないんだ。
< はるが やっと寝てくれた
私は、送信した。
時間はもう、22時30分を過ぎている。
>妹の世話 大変だったな
>おつかれ!
すぐに、彼から返事が来た。
彼は、私の正体がおばさんで、35才だとは知らなくて、私を15才の女子高生だと思っているの。娘のはるは、私の妹だと信じているし。正体がバレないように、気をつけて話さなくちゃ。
< やれやれだわ
私は、チーかまをモグモグしながら、返信する。
>やれやれって おばさんか!
彼からの返信を見て、私はギクッとする。イカン! つい、地が出てしまった。おばさんが女子高生になりきって話すなんて、やっぱり無理があったよ。おかしいって思われたか。
< 変かな?
私はびくびくしながら、探りを入れる。
>いいんじゃない 自然体で
>俺と話すときは どう思われるとか 気にすんな
彼は、ちっとも疑っていないみたい。
私が安心して、チーかまを最後までモグモグ食べきった、そのとき。
>学校は 楽しい?
彼から、予想外のことを訊かれる。
まずい。女子高生になりきって『楽しい』なんて嘘をつくと、さらに突っ込んだことを訊かれるかな? そうなれば、ずるずると嘘でごまかし続けなくちゃいけないよ。
>楽しくないだろ
>学校でも そうやって 相手の反応ばっかり気にしてる?
また彼からメッセージがくる。私が答えに困って返事しないのを、違う意味あいに誤解したのかも。
>俺もそんな感じ わかる
>まわりとノリが合わないと こんな自分 ダメだって思うよな
彼はすっかり勘違いしているみたいだ。私が高校で、クラスの友達になじめないと思ったの?
< そんなことない 違う
私は、あわてて訂正する。
>なつはいい子だ
彼の方こそ、めちゃくちゃいい子じゃないか! 私が悩んでいると思って、励ましてくれた。
< いい人じゃないよ 私は
心がちくちくと痛んだ。私が女子高生じゃなくて、チーかまを口にくわえたおばさんだったと知ったら、彼はショックで泣くかな? 泣くよね、たぶん。
うーむ、困ったぞ。しれっと話題を変えたい。年齢に関係なく話せるネタはないかな?




