表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/61

<第18話>意図がちっとも伝わってない

 とにかく、私の正体がおばさんだってバレないよう、学校のことから話を変えたい。


 RINEの画面をじっと見つめる。すると、ゴールデンレトリバーの写真が見えた。彼が送ってくれたメッセージの横へ、顔写真の代わりについているアイコンだ。


 < 犬 かわいいね


>犬?


 彼は、何のことかわからなかったみたい。


 < アイコンの犬

 < 眉毛 かいてある


 ゴールデンレトリバーのおでこに、アーチ型の眉がいたずら書きされていた。ほのぼのした感じが、彼によく似ているの。


 < 飼ってる犬?


 犬の話をしていれば、嘘はつかなくて済むぞ。我ながら、いいところに気がついた!


>うちの犬じゃない

>親戚のオバさんが飼ってる


 彼は、私の作戦にまんまと乗せられて、犬のことを話し出す。


 何とかごまかせた。よし、いい感じだぞ! 私は、ノンアルチューハイをぐっと飲み干す。その瞬間、彼から続けてメッセージが届く。


>なつは 犬好き?

>オバさんちの犬 触りに行くか

>隣町で 近くなんだ


 私は、ノンアルチューハイを吹き出しそうになって、ゴホゴホと咳き込む。


 そう来るとは思わんかったぞ! 自分で張った罠にあっさり捕まるなんて、私ってば、バカバカ! 読みが甘すぎた。


 私が15才の姿に変身してしまうのは、何が原因かわからないし、思い通りに変身をコントロールするなんて無理。彼と会う約束なんてできない。


 どう断ろうか迷っているうちに、彼から次のメッセージが来てしまう。


>土曜は 空いてる?


 まずい展開になった。


 土曜は仕事だし、用事があることにして断ろうかな。でも、別の日にしようと言われちゃったら、答えに困るし。


 < そんなの 悪いよ


 私は、遠慮している風を装って、断ろうとしたの。


>大丈夫

>たまには 女の子でも連れて来いって オバさんに言われてるし


 彼は、わかって言っているの? たぶんわかってないぞ。彼は、かなりの天然ちゃんだもん。お姉さんが教えてあ・げ・る。それは、つきあっている『彼女』と遊びにおいで、という意味だよ。


 < 私を 彼女だと思われていいの?


 私はやんわりと注意した。そんな風に思われたら、困るのは彼なのに。


 今日の夕方に、15才へ変身した私と一緒にいたせいで、『彼女ができた』と誤解をされちゃったの。そのとき、彼は真っ赤になって、ずいぶんあわてた様子だったもん。きっと、私のことを『彼女』だと思われるのが、迷惑なんだよ。


 あらぬ誤解をしたのは、彼の友達のお母さん。おばさんとは、うっかり勘違いをしやすい生き物なの。なんてね。そういう私も、おばさんだったよ!


>いいよ! いい! ぜんぜん いい!


 彼から、なぜか、すごく軽いノリの返信が届く。


 そのあとに、“すたんぷ”がついている。うさぎのイラスト。うさぎが嬉しそうに、『OKAY!』と書かれたボードを、頭の上へ高々と挙げていた。


 彼は面白がって、ふざけている?


 < 私とつきあってると思われるよ いいの?


 私は呆れつつ、返信する。


 もしかしたら、彼には、好きな子がいるのかもね。おばさんの余計なおせっかいかな。でも、万が一、彼に恋人がいるなんてデマが広まって、そのせいで、彼が好きな子と上手くいかなくなっても困るし。


>なつは男いるの?


 彼はのんきに、私の心配なんかしている。私につきあっている相手がいるとか、どうでもいいのじゃ!


 < 彼氏? いないよ そっちは大丈夫?


>うわ なんか照れる


 彼は、好きな子のことを思い出して、照れちゃったのか。いいね、いいね! 少年! 初々しくて、かわいいな。


>土曜は どこで待ち合わせする?


 彼が、妙なことを訊いてくる。


 私は、彼の誘いを断っているのに、意図がちっとも伝わっていないのね。彼は、15才の私を連れて、親戚のおばさんのお宅へ行くつもりでいるみたい。私の書き方がよくなかったんだな。


 < 土日は ずっとダメ 忙しいの


 私は、ズバッと断る。まさか仕事に行くとも言えないし、ダメな理由は、適当にごまかすしかない。


>そうか

>ごめん なつの都合もあるよな


 彼のその返信のあとに、“すたんぷ”がつく。茶色いクマのイラスト。悲しそうにうつむいて『SORRY……』とつぶやいている。


 < ごめん 行けそうなときは言うね


 私は申し訳なくなって、心にもないことを書いちゃう。


>うん

>いつか絶対 行こうな


 ようやく彼が納得してくれた。


 私は、ホッとした。ふと緊張がゆるんで、あくびが出る。


 < 眠くない?


>ぜんぜん


 彼から、超高速で返事がくる。


 < 私 眠るの好き


 今日は本当に疲れた。早く布団に入りたいよ。夕方に、彼と猛スピードで自転車を飛ばした。あれがけっこうきつかった。


>なつは 寝るの好きなのか

>海でも めっちゃ寝てたしな


 話を止めたいのに、彼はまったく気づいてくれない。


 私は、昨夜もいろいろあって、ほとんど眠れなくて。そのせいで、今日の夕方は、海岸で座ったまま居眠りなんかしちゃった。


 < 今 このまま寝ちゃうかも


 私は、眠りたいとアピールする。


 今はとっくに23時を過ぎて、日付が変わりそうな時間。まぶたが重たいよ。横になりたいな。やっと眠れるっていう開放感を、早く味わいたい。


>そう?

>俺 コーフンして寝れない

>うれしすぎて


 興奮? 彼は、何がそんなに嬉しいの? おかしいと思ったけれど、眠くて眠くて、もう限界だ。


 < 私も嬉しいな


 続けて、『お布団に入れたら』と、書こうとしたのに、指に力が入らない。ついに目も開けていられなくなって、そのまま――視界は真っ暗になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ