<第18話>意図がちっとも伝わってない
とにかく、私の正体がおばさんだってバレないよう、学校のことから話を変えたい。
RINEの画面をじっと見つめる。すると、ゴールデンレトリバーの写真が見えた。彼が送ってくれたメッセージの横へ、顔写真の代わりについているアイコンだ。
< 犬 かわいいね
>犬?
彼は、何のことかわからなかったみたい。
< アイコンの犬
< 眉毛 かいてある
ゴールデンレトリバーのおでこに、アーチ型の眉がいたずら書きされていた。ほのぼのした感じが、彼によく似ているの。
< 飼ってる犬?
犬の話をしていれば、嘘はつかなくて済むぞ。我ながら、いいところに気がついた!
>うちの犬じゃない
>親戚のオバさんが飼ってる
彼は、私の作戦にまんまと乗せられて、犬のことを話し出す。
何とかごまかせた。よし、いい感じだぞ! 私は、ノンアルチューハイをぐっと飲み干す。その瞬間、彼から続けてメッセージが届く。
>なつは 犬好き?
>オバさんちの犬 触りに行くか
>隣町で 近くなんだ
私は、ノンアルチューハイを吹き出しそうになって、ゴホゴホと咳き込む。
そう来るとは思わんかったぞ! 自分で張った罠にあっさり捕まるなんて、私ってば、バカバカ! 読みが甘すぎた。
私が15才の姿に変身してしまうのは、何が原因かわからないし、思い通りに変身をコントロールするなんて無理。彼と会う約束なんてできない。
どう断ろうか迷っているうちに、彼から次のメッセージが来てしまう。
>土曜は 空いてる?
まずい展開になった。
土曜は仕事だし、用事があることにして断ろうかな。でも、別の日にしようと言われちゃったら、答えに困るし。
< そんなの 悪いよ
私は、遠慮している風を装って、断ろうとしたの。
>大丈夫
>たまには 女の子でも連れて来いって オバさんに言われてるし
彼は、わかって言っているの? たぶんわかってないぞ。彼は、かなりの天然ちゃんだもん。お姉さんが教えてあ・げ・る。それは、つきあっている『彼女』と遊びにおいで、という意味だよ。
< 私を 彼女だと思われていいの?
私はやんわりと注意した。そんな風に思われたら、困るのは彼なのに。
今日の夕方に、15才へ変身した私と一緒にいたせいで、『彼女ができた』と誤解をされちゃったの。そのとき、彼は真っ赤になって、ずいぶんあわてた様子だったもん。きっと、私のことを『彼女』だと思われるのが、迷惑なんだよ。
あらぬ誤解をしたのは、彼の友達のお母さん。おばさんとは、うっかり勘違いをしやすい生き物なの。なんてね。そういう私も、おばさんだったよ!
>いいよ! いい! ぜんぜん いい!
彼から、なぜか、すごく軽いノリの返信が届く。
そのあとに、“すたんぷ”がついている。うさぎのイラスト。うさぎが嬉しそうに、『OKAY!』と書かれたボードを、頭の上へ高々と挙げていた。
彼は面白がって、ふざけている?
< 私とつきあってると思われるよ いいの?
私は呆れつつ、返信する。
もしかしたら、彼には、好きな子がいるのかもね。おばさんの余計なおせっかいかな。でも、万が一、彼に恋人がいるなんてデマが広まって、そのせいで、彼が好きな子と上手くいかなくなっても困るし。
>なつは男いるの?
彼はのんきに、私の心配なんかしている。私につきあっている相手がいるとか、どうでもいいのじゃ!
< 彼氏? いないよ そっちは大丈夫?
>うわ なんか照れる
彼は、好きな子のことを思い出して、照れちゃったのか。いいね、いいね! 少年! 初々しくて、かわいいな。
>土曜は どこで待ち合わせする?
彼が、妙なことを訊いてくる。
私は、彼の誘いを断っているのに、意図がちっとも伝わっていないのね。彼は、15才の私を連れて、親戚のおばさんのお宅へ行くつもりでいるみたい。私の書き方がよくなかったんだな。
< 土日は ずっとダメ 忙しいの
私は、ズバッと断る。まさか仕事に行くとも言えないし、ダメな理由は、適当にごまかすしかない。
>そうか
>ごめん なつの都合もあるよな
彼のその返信のあとに、“すたんぷ”がつく。茶色いクマのイラスト。悲しそうにうつむいて『SORRY……』とつぶやいている。
< ごめん 行けそうなときは言うね
私は申し訳なくなって、心にもないことを書いちゃう。
>うん
>いつか絶対 行こうな
ようやく彼が納得してくれた。
私は、ホッとした。ふと緊張がゆるんで、あくびが出る。
< 眠くない?
>ぜんぜん
彼から、超高速で返事がくる。
< 私 眠るの好き
今日は本当に疲れた。早く布団に入りたいよ。夕方に、彼と猛スピードで自転車を飛ばした。あれがけっこうきつかった。
>なつは 寝るの好きなのか
>海でも めっちゃ寝てたしな
話を止めたいのに、彼はまったく気づいてくれない。
私は、昨夜もいろいろあって、ほとんど眠れなくて。そのせいで、今日の夕方は、海岸で座ったまま居眠りなんかしちゃった。
< 今 このまま寝ちゃうかも
私は、眠りたいとアピールする。
今はとっくに23時を過ぎて、日付が変わりそうな時間。まぶたが重たいよ。横になりたいな。やっと眠れるっていう開放感を、早く味わいたい。
>そう?
>俺 コーフンして寝れない
>うれしすぎて
興奮? 彼は、何がそんなに嬉しいの? おかしいと思ったけれど、眠くて眠くて、もう限界だ。
< 私も嬉しいな
続けて、『お布団に入れたら』と、書こうとしたのに、指に力が入らない。ついに目も開けていられなくなって、そのまま――視界は真っ暗になった。




