拓途視点【その5】 キス寸前
「おいしかったね」
なつが笑った。満腹で、幸せオーラ全開の顔。揚げたて熱々のコロッケを、口尖らしてフーフーしつつ食ってた顔も、かわいすぎた。うんうん! 俺も幸せだ!
なつが、唇ペロッとなめた。それで、俺のことじっと見てる。公園のベンチで、ふたりきり。あの唇は、どんな味がするんだろ?
「あれ?」
なつが、いきなり顔近づけてきた。俺はびっくりしちゃって、思わず後ろへ引く。ああ、俺、何もったいないことしてんだ! 前へ出ろよ、前へ!
「パン粉がついてるよ」
「えっ」
……あ、そういうことですか。なつは、俺の顔にパン粉ついてたから、じーっと見てたんだ。なつとキスするところを、ちょっと想像しかけたぞ。アホだな。何を期待してんだろ。俺は、めっちゃ恥ずかしくなって、手で口を拭く。
「違う、ほっぺだよ」
なつは、シャツの袖をちょいちょいと引っ張る。あの、それ、心臓ズキューンってなるから、止めてもらえません?
「こっち?」
俺は、頬をゴシゴシこする。顔中が、真っ赤になってる気がする。なんか恥ずかしい。
「そっち側じゃないよ、逆だってば」
なつは、俺の顔をちょんとつつく。あ、ダメ。俺、たぶん今、顔が真っ赤だ。
「ほっぺ、柔らかいね」
なつが、首かしげてニコッとした。
うわー、止めてくれ。ほわんとした笑顔。ホント止めて。照れるから。
「ここも触っていい?」
なつが、手伸ばしてきた。
えっ、何だろ? なつの方から、俺の首にピタって抱きついてくるんだけど。うわー、ちょ……何すんの?
「なんか気になっちゃうんだよね。君みたいな子は」
なつの手が、俺の胸らへんに下りてきて、制服のネクタイをキュッと引く。首がグイッと引っ張られたんで、めっちゃ顔が近くなって、キス寸前っていう距離。
これって、わざと? なつは、俺とキスしてもいいって思ってるってこと?
うっわ、どうしよ。キスなんてしたことないし、基礎からわかんない。目つぶる? 角度どうする? 右から攻める? 左から? そして俺の手は、いったいどこに置けばいいんだ!
頭ん中ぐちゃぐちゃで、俺は、どうしていいかわかんない。




