<第13話>仲良くなれるかも?
「だし巻き作れるのが、すごいって褒めてくれたの、なつが初めてだ」
「だし巻き?」
そういえば彼は、だし巻きを作るのが上手いって、プチ自慢をしていたな。
でも、だし巻きを作るのが難しいと知っているからって、なぜわたしが呼び捨てにされるのか、さっぱりわからん。何だコイツ! さっきわたしを『天然』扱いしたくせに。あんたの方がよっぽど意味不明だよ!
「同世代はみんな、だし巻きと卵焼きの違いすらわかってないし、そんな話、学校じゃできなくて」
彼の横顔が、寂しそうに曇った。
何だ? 急にしおらしくなって。友達のいない寂しい子アピールか?
「そういう話すると、『空気読めない人』みたいに見られそうだし。だから、まあいいやって思って、ゲームの話に適当に合わしてる」
彼は、苦笑いする。
ああ、そういうことか。彼は高校に入ったばかりで、腹を割って話せる親友が見つからないんだね。
「なつとなら、そういう話を、ネトゲの装備と同じくらい普通に話せそうだし」
彼の言う『ねとげのそうび』という言葉がさっぱりわからん。話の流れからして、ゲーム用語かな。
よっしゃ! お姉さんが励ましてやろうじゃないの。彼はいちいちムカつく発言が多いけれど、悪い子じゃなさそうだ。
「ご飯なんて、座れば自動で出るのが『普通』と思う人もいるもんね。その、出てくるまでがどんだけ大変か、知ってるのはいいことだよ。ゲームが強いより、ずっと大事」
昔の自分を思い出して、彼をちょっと応援したくなっちゃった。
じつは、わたしも母子家庭で育ってね。両親は、わたしが中学校へ入る前に離婚して、結婚で家を出るまでの10年間は、母と弟の佳祐と3人で暮らしたの。
わたしが中学生の頃は、夕飯のおかずは、温め直せばいいところまで母が作ってくれた。でも、高校に入ると、毎日そういうわけもいかなくなって。わたしの学費のために、母はもう一つ仕事を増やして、夜も小料理屋でアルバイトを始めたの。
揚げたてほくほくのコロッケを作るのが、けっこう難しいなんて、自分でやってみるまでは思いもしなかったな。初めてコロッケを作ったときの失敗を思い出すと、笑っちゃう。
「何、笑ってんの?」
彼がわたしに訊いた。
「思い出しちゃった」
「何を?」
「わたしが初めてコロッケを作ったときにね。揚げ油の温度が低すぎて、せっかく丸めたコロッケのタネが、油の中でぐずぐずに溶けちゃって」
今ではもう笑える話になったよ。ただあのときは、バラバラに崩れたじゃがいもを見ると、うちは元の4人家族には戻らないんだっていう思いが、なぜか急に胸に迫って、わたしは涙がこぼれそうになったの。
「一から自分で作らなくても店で買えばいいのに、そのときは、どうしても、揚げたてアツアツのやつを家で食べたくて」
「それわかる。無性にできたてが食いたくなる感じ」
彼も嬉しそうに、話に乗っかってくる。
もしかしたら彼も、ラップなんてかかっていない、ほかほか湯気の立った料理に憧れていた? それで必死に練習して、だし巻きを作れるようになったのかも。できたてほかほかご飯のあったかみを、よく知っているもの同士、わたしと彼は、意外と仲良くなれるかも。
「コロッケの話してたら、めっちゃ食いたくなった」
彼は、頭を抱える。
「わたしも」
わたしまで、ほくほくのじゃがいもが恋しくなった。
【ミニ拓途視点】
やばい、めっちゃドキドキする。
頭を抱えるふりして、俺は作戦を練ってた。
俺が妄想してた通り、なつといい感じになってきたんだ。俺の妄想、じつは予知夢か? っていうくらいに同じでさ。なんか怖いくらい。
『誰でも呼び捨てにするの、わたしはイヤ』
なつが、さっき言ってたんだけど。それって、他の女は呼び捨てにすんなって意味だよな?
『なつをずっと見てたくなる』
って感じのことを俺が言ったときも、なつは照れたみたいで、めっちゃ赤くなった!
この流れなら、誘えそうな気がするんだよ。
休みの日に、ふたりでどっか出かけるデートにいきなり誘うと厳しいかもしんないけど、このあとコロッケ食いに行くぐらいだったら、OKくれるかも?




