<第10話>悩んでも、しょーがない!
プハーっ。やれやれだわ。
私は、風呂上がりにノンアルチューハイで一杯やっていた。
肩にかけたバスタオルで、ガーッと頭を拭く。髪ボサボサで、パジャマ代わりのTシャツもヨレヨレ。でもそんなの誰も見ちゃいないし、楽ちんなのが一番だよね!
娘のはるを寝かしつけたあと、自分もお風呂に入って、ようやく片付けを済ませたら、もう日付が変わるくらいの時間になっちゃった。弟のケースケも、先に寝ているし。誰にも邪魔されずに、ひとりダラダラ飲んだくれるひととき。サイコーだわ!
そこへ突然、スマートフォンの充電を促す警告音が鳴った。うるさい音だ。はるがせっかく寝ついたのに、目を覚ましちゃう。私はあわててスマートフォンをつかみ、充電器に乗せる。スマートフォンは、しばらく操作していなかったから、画面がスリープ状態でまっ黒だった。それが解除されて、RINEの“とーく画面”が現れる。
< はるがお風呂上がるから話せない ごめんね
と、私が最後に送ったメッセージのあとに、彼からの返事が届いている。
>いきなり終了かー
>まあ しゃーないよな また明日!
メッセージはそこで終わっていた。
私はスマートフォンの画面に触れて、彼との会話を読み返す。
そうだ。晩酌なんてしちゃいられない。女子高生へ変身したのが、夢なのか現実なのか、謎は、まだ解決していないもん。
35才の私の身体が15才に変身したなんて、すんなり信じたら、頭おかしい人だよ。夢だよね、普通に考えれば。でも、あの男の子からRINEメッセージが届いた。やっぱり現実なの?
私は、RINEの画面を操作して、あの男の子のプロフィールをチェックする。彼と会ったのが現実だという証拠が、何かあるかも。
プロフィールには、『拓途』という名前しか書かれていない。それと、犬の写真が載っているだけ。ゴールデンレトリバーのおでこに、眉毛がいたずら書きされている。のほほーんとした顔つきが、あの男の子にちょっぴり似ている気がした。でも、彼本人の写真じゃないし、何の証拠にもならないな。
明日また海へ、あの男の子と会った防波堤沿いの道へ行くしかないかな? 彼は毎日、あそこを通ると言っていた。この目でもう一度、あの子が現実にいるんだって確かめたい。
彼は、女子高生の姿になった私しか知らない。35才のおばさんがウロウロしていても、気にしないよね。知らんぷりしてすれ違えばいい。明日は、自転車通勤だ。どちらにしろ、あそこを通った方が近道になる。
「ふぁ」
心が決まったら、あくびが出た。
とにかく、今日はもう寝よう。あの夢のようなできごとに日常をひっかき回されて、もう疲れた。私はRINEの画面を閉じて、はるの眠る和室へと向かう。




