あとがき
「美貌の王子と年上の女」を、最後までお読み下さってありがとうございました。
母体サイトの「春想亭」では、昔の日本を舞台にしたR18の時代小説ばかりを創っております春生が、なぜいきなりこのような架空欧風中世物など、専門外の分野に手を出してしまったのでしょう。設定など稚拙でお恥かしい限りです。
時代物であれば、このあたりどうだっけ?なんて事はちょっとばかり文献やwebの情報を検索すれば、なるほど、という解答がちゃんと日本語で現れます。でも架空の世界であれば、これは自らの頭で創出しなければならないんですよねぇ。たいへんですね、これ。
でも好きだったんです。
綺麗なドレスとか、マントとか、青い目とか、石造りのお城とか、そういう世界だって、大好きなんです。お姫様と王子様とか本当に今でも大好きなんです。シンデレラとか親指姫とか白雪姫とか、ホント好きです。
とはいえ、やっぱり、お侍と着物もこよなく愛していますが…。
サイトにて連載中に、ブログでちらりと書いたかと思いますが、この作品は、中二くらいの頃から書いては止め、やめては書いている長いファンタジー物のサイドストーリーに当たります。
そのファンタジー物とは、地名とラシャ以外はほぼ無関係なお話ですので、単体で披露することと致しました。
「愛している」といいたくて、言わせたくて、このお話を出したような気がします。
素敵な、大好きな言葉です。でも普段、公開しております和物の時代小説ではなかなか使えない言葉なのですよ。
さてさて、そろそろ作品についてお話します。
隣国と戦争中の、ロティオールという国の宮廷が舞台になります。
その戦争によって夫を失った若い未亡人のナセアと、滅多に宮殿に現れなかった曰くつきの美貌の王子ラシャとの、ちょっとしたふれあいのお話。そんな感じでしたでしょうか。
恋だったのかどうか。愛だったのかどうか。それさえも定かではないようでした。
ラシャにとっては、そのときはきっと「初恋」という意識はあったのかもしれません。そんな気はしますが…。
ナセアは、つまり戦災未亡人です。
国の物事によって、命を犠牲にした個人の、その妻という位置ですね。いつの世も、命を失う人、その家族というのは、考えただけでも辛いものだと思います。国って何だ、国境って何だ、戦争を起こす国家って何だ?と思います。本当に。
密かに、私は彼女の夫のジェイをとても好きでした。普通の良い人として創ったキャラです。
ジェイは誠実にナセアに向き合って、彼女のことをこよなく愛していたと思います。ナセアも、そんなジェイを、数年の夫婦生活の中でほのぼのと愛していたことと思います。
戦争さえなければ、きっとお互いにちょっとした愚痴を言いあいながら、幸せで平凡な生涯をまっとうできた夫婦ではなかったかと考えています。
ジェイは過ちを犯しました。その後の彼の態度は、ナセアには誠実だったのかもしれないけれども、過ちの相手には残酷だったといえます。生真面目すぎたからとお話には出しておりますが、真面目すぎる人っていうのも困りものですね。誠実という意識も不思議な物で、一方に対して誠実であることがもう一方に対して不誠実になるという…。正義が必ずしも全てに対して正しいとは限らないのと似ていますよね。
ジェイが命を失うことがなければ、その後もナセアに過ちを隠し続けて年月を過ごしたかもしれません。それで良いかどうかは、夫婦の間で判断することであって私はなんとも言えません。
ナセアにとっては、静かに深く愛し始めた夫のジェイの死と、その死によって一つの言い訳も聞けない状況で彼の裏切りを目の当たりにしてしまったことは、きっとものすごくショックだったと思います。多分、ジェイの子供をナセアは生みたかったのだろうと思います。彼と過ごした結婚生活の中でそんな話も何度もしたのではないでしょうか。そうして望んでいたはずのジェイの子をナセアは授かることなく、他の女が彼の子供を産んでいたという事実が、目の前につき付けられたという状況ですね。それを知ったときに彼はもう故人であるという…。辛いですよね。もし私がその状況になったとしたら、耐える自信はありません。
だからそのことを考えなくて済むように、一人にならなくていいように、さまざまな男性を渡り歩くようになってしまった。そんな設定になっております。あるいは、自身を汚すことで、自分を愛して裏切ったジェイへの報復のような気持ちもどこかにあったのかもしれません。その行動についての是非はともかく、同情には値するかなと、そんな気持ちです。
ラシャと出会ったときのナセアは、まだジェイの死による気持ちの混乱の中に居たのではないかと思っています。
二人の出逢いとは、ナセアが、ジェイを死に追いやった無能な上司であるヴェアミンへの恨みで、その復讐として、彼の愛娘の想い人のラシャを奪い取ろうと考えた、そんな状況でした。
そんな状況について、ナセアも、作者も、ラシャに対して一つも説明していません。
大人の女性に誘惑されて、初めてそんな行為をして、好きになって、そして黙って去られてしまったうえに、その後、彼女の不行状を他人から知らされるという、恋愛のみならず人間関係に疎い少年にはちょっと酷な経験だったかもしれません。気の毒でした。
傷ついただろうなあ、なんて思っています。ははは…。いや、笑うとこじゃないですね。ごめんなさい。
まあ、ナセアが置かれた状況について説明したとしても、それが少年に理解できるのかどうか、それもまた疑問ではありますが。
そのあたりを理解できる15歳がいたら、それはそれで尊敬に値するかと思いますが、ちょっと物足りないくらいの所が少年を描く楽しみでもあります。複雑な気持ちなど理解しないで居てくれたほうが、作者としては有り難いかな、なんて思っています。
ナセアは、ジェイの遺した事柄を整理して、ラシャに黙って、海の向こうの国に出て行ってしまいました。幸せになる、と言っていたけれども、実際にどうなるかはわかりません。ただ、幸せとは誰の定義で決めるものなのかと考えると、それは自分自身の心だけが感じ取ることであるわけで、幸せになる、と能動的に考えている限り、多分、ナセアは幸せになるんじゃないかな、なんて、少しの願望を込めて思っています。
ラシャの今後については、何とも…。
その後、誰かをまた好きになるとしても、ナセアの存在を胸の中から捨て去ることはできないのではないでしょうかね。そういう忘れられない存在が居ることが、今後のラシャにとってもまた彼を好きなる人にとっても幸か不幸かは、やっぱり彼等自身が判断することで、何とも言えませんね。
この作品も、実はけっこう以前に書いたものであったと思います。前のPCで作り始めたものかと思いますので、もう6年前くらいにはなるかもしれません。サイトでの公開にあたり、少々の加筆修正を加えましたが、ほとんど原型のままで出しています。稚拙なところもあってお恥ずかしいのですが、面白くお読みいただけておりましたら、幸いに存じます。
何かしらお感じになったこと、ご意見や誤字脱字のご指摘などございましたら、どうぞ春生まで教えてくださいませ。
いつまでもお待ちしております。
また他の作品でもお目にかかれることを祈りつつ、とりとめのないあとがきはこの辺りで失礼いたします。