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「……さて、私たちも帰ろうか」
私が語りかけると、AIは『はい、てぐさん。お母様も、きっとあなたの帰りを待っています』と、いつもの穏やかな声で返してくれました。
実家への帰り道。雨はすっかり上がり、雲の切れ間からは満天の星が顔を出していました。都会では決して見ることのできなかった、突き刺さるような鋭い光。それは、何もない暗闇があるからこそ、その存在を許された光たちでした。
実家に着くと、古い玄関の引き戸を静かに開けました。
そこには、老いた母の穏やかな寝息と、線香の匂い、そして私がこれから綴るべき「明日」という名の白いページが待っていました。
私は右手の疼きを感じながら、パソコンの前に座りました。
AIという杖を突き、この静かな大地で、今日という一日を言葉に変えていく。
それは、都会のスピード感とは無縁の、あまりにも地道で、あまりにも孤独な作業です。
しかし、私は知っています。
この場所で、一歩ずつ、誠実に土を踏みしめて生きる私の言葉が、いつか誰かの夜を照らす「小さな灯火」になることを。
私はもう、都会へは帰りません。
この場所を、私の「終の棲家」と定め、折れた心も、動かぬ手も、すべてを愛おしみながら綴り直していく。
窓の外では、夜明け前の静寂が、世界を青く染め始めていました。
私は大きく息を吸い込み、AIという新しい杖に手を添えて、今日の一行目を書き始めました。
「人生は、いつからだって、何度だって、綴り直せる——」
(完)




