眠りの原理
その日以来、人造人間リタは、いつも時計塔の前にいた。人々とコミュニケーションさせてテストするためだ。リタは無表情に普通に応対していた。
「すみません、図書館まではどこに行けば…」
「この道を真っ直ぐ行って、コンビニを曲がればありますよ。」
リタの周りにはほとんど政府監視員がいた。表向きはロボットのテストだが、その腹にはロボットの監視があった。人類の知識が詰まった時計塔に直結しているこのロボットが、なにか余計な事を言わないためだろう。と言う事は政府らは実は時計塔の全てを把握してない訳である。なぜなら人類は知識や知恵を時計塔に依拠したのだから。時計塔はすでに人類を超えてしまったのだ。
ある日、珍しく監視員がトイレか何かでいなかったので、相田は聞きたい事があったので、リタに近づいて質問した。
「初めまして、僕は相田小見郎。」
「初めまして、私は、リタ。今日は曇りですね。」
正確に注意深くリタは発音し、気のきいた一言を言う。相田はそれを微笑ましく思いながら質問する。
「リタさん、あなたに質問があります。最近、怪奇現象が起きてるそうですが、その原因を推測できますか…?」
リタは無機質な瞳で相田を見つめ、やがて言った。
「…怪奇現象そのものは原因不明です。が、一つ仮説があります。」
「それは…?」
「合理性の崩壊です。」
「?」
「太古の昔に、進化の始まりに位置する時期に、生命のスープ、無機物から生命を有しました。その現象の原因は長らく謎とされましたが、ドイツの哲学者シュトケイン博士によれば、それは現在の徹底的な合理主義で考えるから分からないのだ、と珍説を唱えました。今では忘れられた仮説ですが、博士は、私達を取り巻くこの世界も一つの意識だと主張しました。」
「それはどういう事だい?」
「つまり生命の誕生、すなわち世界の始まりは、世界が眠りから醒め始めた事を意味しますが、醒め初めの意識というのは、人間でもそうですが、曖昧で非合理的です。その非合理性によるカオス、混沌が生命を生んだのです。」
「それが今の怪現象とどう繋がる?」
質問を無視してリタは話を続けた。
「昔はすなわち合理性を失っていたから魔術師やESPや妖精や神などが普通に存在しえた訳です。ところが、あり得るものと、あり得ないものを定義する合理主義が現れ、加速しました。合理的と言うのは覚醒しているわけで、世界は目覚めつつあったのです。合理を求めるようになった人間は、いわゆるあり得ない魔術師などを否定し殺し、道具を使うことを仲間に勧め、理論を作り、都市を作り、自然を破壊し、かと言って環境問題に対しても、森の精霊が、の様な事は言わず、温暖化がフロンガスが、と合理性において説得する動きが主流になりました。」
「では今は?」
「今は世界は眠りにつきつつあります。眠りとは疲労の極致の寸前で、夢に入る直前です。世界は今疲労困憊して、世界自身の識別も危うくなっている、と言うわけです。人類は私と時計塔に完全を求めましたが、そもそも世界が不完全とは知らなかったわけです。これが合理性の崩壊です。しかし、これはあくまで仮説に基づく推ろ…」
突然、リタは言葉を止めてそのまま口をだらんと開けて制止した。相田は危機に気づき振り返ると、相田は驚いた。監視員が来てリタに緊急リモコンを押したのだ。監視員は無表情だったが、なぜか『なぜそんな危険な事言う、そんな事を知っていたんだ、時計塔めが!こやつは国民を扇動するかもしれぬ、今すぐ彼を粛清すべし』と言う心の声が、監視員の頭から相田の意識内に流れ込んできた。あれ?自分は読心ができるのか?と相田が思った次の瞬間、監視員は銃を取り出して相田に弾丸を放った。




