15
目をつむったままぴくりとも動かず、ベッドに横たわるフィル・レアリゼを見つめ、母が身を震わせて涙を流す。
その後ろをせわしなく父が歩く。
このうえなく、顔色が悪い。
がちゃりと扉が開き、カルロス・ソレイユが飛び込んでくる。
「おじさん!フィルは!」
「カルロスくん!来てくれたか」
はじかれるようにカルロスを見た父と母がすがるように駆け寄る。
「フィル…」
横たわる彼女を見て、カルロスが息をのむ。
「昨夜から目覚めない」
父が絞り出すように告げる。
現在の時刻は学校も終わった夕方である。
いくら深い眠りであったとしても、身動きひとつしないのはおかしい。
「おそらくフィルは悪夢にとらわれている。しかし我々に夢わたりはできない…!」
握り締めたこぶしを父が壁に打ち付ける。
目覚めない娘を今朝見てから、何度繰り返しただろう。
夢わたりの能力はフィルに引き継いでしまって、もう使えない。
一縷の望みをかけ、日中睡眠薬を服用し、試したが、やはり能力は失われていた。
しかしフィルを助けるためには夢に入るしかない。
カルロスがフィルを見つめ、大きくひとつうなずく。
「俺が助けます」
「ありがとう、ありがとう。君が頼りだ」
父がカルロスの手を握り締め、母は泣き崩れる。
レアリゼ家とソレイユ家の仲は良好とは言えない。
けれども年齢が近いカルロスは、娘に意地悪をしながらも妹のようにいつも面倒を見てくれていることをレアリゼ夫妻はわかっていた。
そこで彼なら助けてくれると信じて、いや、たとえ断られても何度でもお願いするつもりであったが。
学校が終わり、連絡をすると、カルロスは駆けつけてくれた。
「おじさん、睡眠薬はありますか?今すぐ夢の世界に入ります」
カルロスはフィルによく似た水晶に空を映したような美しい水色の瞳で父を見つめた。
父が睡眠薬を差し出しながら、口を開く。
「ありがとう。お願いをしている立場でいうことではないが、万一、君に危険が及ぶようならすぐにやめて帰って来てくれ。君に何かあれば、我々も耐えられないし、ソレイユ家に顔向けできない」
「フィルは必ず連れ戻します」
カルロスは力強く睡眠薬をつかんだ。
「フィルは依頼以外の夢に入り込んでいる可能性がある。探すのが大変かもしれないが…寝ている人間が少ない、今がチャンスといえばチャンスだ」
依頼を請け負う小屋に確認しに行ったところ、昨夜の依頼は完遂されており、その証拠に依頼者が血印を押した紙には依頼が完了したことを示す文様が浮かび上がっていた。
そうなればフィルは依頼以外の夢でトラブルに巻き込まれている可能性がある。
好奇心が旺盛で、おせっかいなフィルにはありうることであった。
けれどもそうなると依頼の夢のように青白く光るなどといった目印が入り口にはない。
ひたすら悪夢をしらみつぶしに確認しなければならない。
そもそも異常をきたした夢に入り口があるのかどうかも不明である。
だが入り口があると仮定すれば、寝ている人が多い夜はその分夢の入り口が多いので探すのが大変だが、今の時間は寝ている人が少ないので、空間に存在する入り口は少なく、幾分探しやすいはずである。
「行ってきます」
カルロスが睡眠薬を口に含む。
「すまない、ありがとう」
父はカルロスをフィルの隣に寝かせる。
そしてカルロスはまぶたを閉じた。




