第8話 マスター(仮)
「私はまだ、貴方をマスターと認めた訳じゃないから。そこだけは勘違いしないで」
アクアドラゴンを討伐して、亡くなった冒険者の遺品を整理していると。
アイギスさんがそう宣言してくる。言葉は冷たいけど一緒に穴を掘ってくれていた。
「うん、わかった。僕は強制するつもりはないよ」
人骨を丁重に埋める。トロンの持ち主さんもこれで報われただろうか。
落ちていた装備品はトロン以外は損傷が激しく、一緒に埋葬する事にした。
「なっ……私の価値を知りながら、手放すのに躊躇なし!? 正気なの!?」
「アイちゃんは素直になれない系ヒロインですか? 今時それは流行らないですよ」
「初対面の時から妙に馴れ馴れしいのよ、そこの小さい変態妖精!」
僕もライブラさんが偶に何を言ってるのかわからなくなる。
「あるじさまにはエルがついていますから!」
「健気で便利屋で世界一可愛いライブラ様もお忘れなく」
「……こんな小さな子たちに守られて、貴方は何とも思わないの?」
「うぐっ」
アイギスさんに指摘され、僕は口ごもる。ごもっともな話で。
エルは寧ろもっと頼ってくださいと、両手を上下に振ってるが。
第三者から見て、今の僕は小さい子たちに介護されてる冒険者だ。
「私たち武具はね、人に扱われて初めて完成するものなの。巡り合った使い手が、どのような道筋を辿っていくか。その過程がいずれ神話として語り継がれていく。アイテムそのものも進化していくの」
それは僕がエルの価値を高めたいと思うのと同じ願い。
擬人化した子のスキルに空白があるのも進化の余地があるから。
「私は私をこの世に生み出してくださったお父様の願いを叶えたい。神話へと至る世界一の盾になるの。今後も貴方にそれが務まるかしら? 私の願いを託せる人物に成長できる?」
彼女は僕に英雄になれと言っているんだろうか。
背中を向けて立ち去るアイギスさんを、僕は黙って見守るしかなかった。
エルはこちらを見上げくすくすと笑っている。ライブラさんもにやけ面だ。
「あいぎすさんは、あるじさまに期待しているみたいです」
「どうだろう? 拒絶された気がするけど」
他に選択肢もなく【擬人化】を使ってしまったけど。
国宝級の武具を扱うに相応しいのは英雄と謳われるような人物であって。
彼女の言うように、僕のような凡人は触れる事すら烏滸がましいのだろう。
あっでもアイギスさんは今後も、と言っていた。完全に見放された訳でもない?
「エルたちは誰かに使われる為に生み出されました。大切に布に包まれ、棚の奥に飾られるのも悪い気はしないですけど。それでもやっぱり、誰かのお役に立ちたいという気持ちの方が強いです!」
「あのまま水龍の住処で骨と共に放置されるのを喜ぶ変態ではなさそうですしね。アイちゃんも本心ではロロアさんに感謝していると思いますよ。端から期待していない人に、自分の想いは打ち明けません」
二人がそう言ってくれるのなら。僕も落ち込まずに前を向こう。
「そうだ、アイギスさんにお礼を伝えておかないと!」
アクアドラゴンの討伐もそうだし、お墓作りも手伝ってくれた。
厳しい人だけど、冷たい人じゃない。ちゃんと礼儀を尽くしたい。
◇
「……あ、アイギスさん」
水龍の住処で、彼女は難しい顔をして右に左に往復している。
何をしているんだろうか。非常に気になる、様子を見てみよう。
「私、偉そうに言い過ぎたかしら……? あの子、落ち込んでいないわよね……?」
アイギスさんは立ち止まると、ジッと濡れた地面を見つめている。
そこはアイギスの神盾が隠されていた空洞だ。骨によって埋もれていた。
「血が付いてる。私を見つけ出すのに、怪我を負ったのね。……頑張ったじゃない」
そういえば、ここまで夢中になってて自分の怪我を忘れていた。
意識すると痛みが、あとで消毒しないと。傷口から病気になるかも。
「はっ――しまったわ。私、肉体を与えて貰ったお礼をまだあの子に伝えていない! これじゃあ、ただの恩知らずで嫌な奴よ……どうしよう。今さら戻っても遅いわね」
「そんなことないですよ!」
潜んでいた僕はアイギスさんの元へと飛び出す。
「ちょ、ちょっと貴方――いつからそこに!?」
「フロアボス相手に一歩も引かない姿はとてもカッコよかったです! 流石は神話級に近い盾なんだなと思いました。僕、今まで色んな装備を見てきましたけど、アイギスさんが一番綺麗でお強いです!」
「そ、そうかしら? ふーん。貴方は、武具を見る目があるわね。私はお父様の最高傑作なのよ」
とても嬉しそうにして、アイギスさんが指を合わせている。
「嫌な奴だなんてとんでもない! 僕の方こそ勝手に肉体を与えてしまって、ごめんなさい!」
「いいのよ。私もこんな場所で朽ち果てる訳にはいかなかったから。その、とても、ありがたいと思ったのよ? 本当よ……? だから――」
「……ありがとう」「ありがとうございます!」
お礼の言葉は同時だった。
「どうして貴方がお礼を伝えるのよ」
「アイギスさんに助けて貰ったのも、手伝って貰ったのも嬉しかったですから!」
「…………」
アイギスさんは僕の目を真剣に見ていた。綺麗な琥珀色だ。
「教えて、貴方の名前は?」
「あれ、エルやライブラさんから聞いていませんか?」
「貴方の口から聞かせて欲しいの」
「ロロアです! 巷では嘘吐きロロアと呼ばれてますけど……そちらは好きじゃないですね」
アイギスさんは僕の冗談を華麗にスルーして、手を握ってくれた。
「ロロア、人間が怪我を放置したらダメでしょ? 早くここを出て治療しましょう」
そうして僕たちは一緒に、外で待っていた二人の元に戻る。
手を握っているところを見られ、何故かライブラさんがジト目に。
「うわぁ、アイちゃんちょろ」
「貴女とは一度拳で語り合う必要がありそうね……!」
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