第60話 疑惑
「協力ですか……」
ルガンさんの提案に僕はすぐには頷けない。
感謝はしているけど、試験を捨てる事はできないから。
現在一位の僕は、誰かと組む利点が少ないのだ。
強いて言うなら復帰者パーティと有利に戦える事くらい。
それも一人で身を潜めていれば済む話だし。
二人組になると、余計に見つかりやすくなるだけだ。
「まず、どうして僕なのでしょうか?」
普通に考えて、僕と組んでもルガンさんだって得しないはずだ。
それなら二位のクロストさんと組んだ方が、逆転を狙いやすくなる。
「その疑問はもっともだが、俺は昇格試験よりも重要な用事が出来てしまったんだ」
そう言ってルガンさんが厳しい表情になる。
「俺は見たんだ。クロストの野郎が【神技書】を大量に持ち込んでいたところをな」
「【神技書】ですか」
【神技書】とは一般に流通しているスキルの取り外しに使う道具で。
それなりの値は張るが、汎用スキルの使い手なら必ずお世話になる品だ。
ユニークスキル持ちの僕には縁がない道具だけど。
ルガンさんが一体何を懸念しているのかが見えてきた。
「……予備スキルとして運用しているだけなのでは?」
人には一度に付けられるスキルの限界数が決まっているから。
それ以上のものを扱う為に【神技書】を持ち込むのはありえる話だ。
「実はこれはEランクの一部の者の中で囁かれていた噂だが。奴には疑惑があったんだ。【忘却】を悪用して他人のスキルを強奪しているのではないかと。もちろん疑惑でしかなかったが。俺は試験初日から注意深く観察していた。そして、今回の試験にも奴は【忘却】スキルを持ち込んでやがった」
【忘却】は相手の記憶を任意で消す、
戦闘ではあまり使い道のないスキルだった。
まず条件として対象の意識を奪わないといけない。
意識を奪った時点で相手のポイントは回収できるのに。
限られた装備枠に【忘却】を入れているのは確かに怪しい。
「それではクロストさんは……?」
「ああ、奴は能力喰らいだ。昇格試験という環境を利用してやがるんだ」
試験中は合法に冒険者を攻撃できるので。
殺しさえしなければ【忘却】で安全に奪える。
あまりに卑怯な手口だ。被害者は盗まれた事にも気付けない。
「もしかして僕に声を掛けてくださったのも」
「能力喰らいがクロストだけとは限らんからな。奴が【忘却】を使う以上、一人では危険だった。君は【擬人化】というユニークスキルの所有者なのだろう? 復帰者が騒いでいるのが聞こえていたぞ」
「はい。僕には他人のスキルを奪う理由がありませんから」
ユニークスキル持ちは汎用スキルを扱えないので。
ルガンさんは僕が能力喰らいの味方でないと判断したんだ。
「わかりました。僕も能力喰らいとはもう何度も戦っています。お役に立てると思います」
「若いのに何度も死線を乗り越えた戦士の面構えだな。内面の甘さを許容できる強さがある」
冒険者の生命を不当に脅かす犯罪者を放っておく訳にはいかない。
「しかし証拠もなく告発する事はできませんよ。【忘却】スキルだけでは疑惑の域を出ない」
僕はクロストさんとの面識がないから何とも言えないけど。
せめて現場を押さえないと言い逃れされてしまう。逆にこっちが加害者に。
「作戦ならあるぞ。向こうが試験を利用しているんだ、こっちだって利用して合法に追い詰めればいい。簡単な話だろう?」
◇
「ルガンを見つけたぞ! こっちだ」
「よくやったぞ」
「今度こそ捕まえろ!」
大声を出す人影が、地底湖の方まで走っていく。
それに釣られて復帰者パーティが戻って来ていた。
もちろんこれは罠だ。僕は天井で待機している。
【幻影人】を使い、ルガンさん本人の声で誘導したのだ。
復帰者パーティは元は仲間ではなく、一時的に組んでいる浅い関係だ。
パーティに入っていないルガンさんの声も、仲間のものだと勘違いしている。
「えっと、魔法障壁スキルの所有者はあの二人だね」
まずは厄介な盾を使う冒険者を狙って雷光弾を放つ。
悲鳴をあげて一人が吹き飛んだ。続けて二人目に照準を。
「しまった、これは罠だ!? ロロアが潜んでやがるぞ!」
「逃げろおおおお!!」
慌てて出口に向かおうとするところにルガンさんが現れる。
大剣を握って、臆病風に吹かれた冒険者たちを睨み、威圧する。
「おっと。悪いがこれ以上集団で暴れられると仕事の邪魔なんでな。しばらく眠ってもらうぞ」
「くそっ、ルガン、お前ロロアと組みやがったな! 三位の癖にみっともないぞ!」
「いけないのか? お前たちだって同じだろうがよ」
近付いてきた二人を一振りで薙ぎ払う。
流石三位の実力者。僕も負けじと後方から狙撃。
「早く進めよ! ロロアに背中を狙われているんだぞ!?」
「ルガンが邪魔して逃げられないんだ!」
「あいつら、魔法障壁を使える奴を最初に狙ってきやがった!」
連携も何もない群れるだけの集団は打たれ弱い。
一人ずつ確実に意識を奪い、十分も掛からず全滅させた。
天井から木の梯子を伝い地面に下りる。
「やるな、ロロア。この腕前でGランクはもはや詐欺だ。さっさとこの試験でDランクになっちまえ」
笑いながらルガンさんは気絶した冒険者たちをまとめていく。
「ですが、ルガンさんだってDランクを目指していたんじゃ?」
「別に試験は今回限りじゃないんだ。俺は次の機会に回す。ここは若い才能に道を譲るとしよう」
とてもありがたい話だけど。
僕としてはルガンさんとも競い合いたかった。
それに彼も、本心では惜しいと思っているはずだ、
……邪魔をしてくれた能力喰らいには、キツイお返しをしないと。
「さてと。これで準備は整った。あとは奴の決定的な瞬間を捉えるだけだ」




