第59話 魔導ゴーレム
翌日、試験二日目の早朝から大きな動きがあった。
仮眠を終えて窪みから外を確認すると、集団が通り過ぎるところだった。
「くそっ、初日から時間を無駄にした。こうなったら上位勢を狙うしかない!」
「これだけの数を揃えておけば、狙撃も有効には働かないだろう!」
「大差で一位を取ったロロアを倒せば、俺たち全員にもまだチャンスが生まれるぞ」
「あのガキめ。瓶で頭を殴りやがって。仕返しをしてやる!!」
初日に倒された復帰者八人がパーティを組んでいたのだ。
ポイント数がゼロから再開なので、協力関係を結ぶしか逆転できない。
その時点で一位は諦めないといけないけれど。妨害に徹しようとしている。
「当然だけど、恨まれているなぁ……しばらく潜んでおこう」
こちらとしてもポイントがない相手と戦う理由がない。
しかも倒しても、最終日にまた人数を増やして襲ってくる。
失うものがなにもない相手ほど怖いものはない。
この試験中では魔導ゴーレム以上の、一番厄介な相手だ。
他の生存者たちも息を潜めているはず。二日目は耐える時間かな。
「やっぱり初日に稼いでおいて正解だったね」
初日で宝箱はある程度回収され尽くしている。
ここから先、上位勢のポイント数に大きな変動はないはず。
下位同士が勝手に争って、少ないポイントを奪い合う構図だ。
「あとの懸念材料は、二位と三位がぶつかり合う事だけど」
現在の二位がクロスト。三位がルガンという冒険者らしい。
どちらもEランクで、ルガンさんは僕に声を掛けてくれた人だった。
ご丁寧に顔の特徴が【情報板】に詳細に書かれてある。
僕の場合は、十三歳という特徴だけでバレてしまっている。
初日から稼いでいるという事は、本気でDランクを目指しているんだ。
二位と三位はいずれぶつかり合うと思う。そうなると……僕も危ういかも。
最終日に彼らのポイントが合算されると、追い付かれるかもしれない。
独走だからといって油断はせず、隠れながら残された宝箱を探し出そう。
――そうして二日目の前半は停滞した状況が続いた。
復帰者パーティが巡回する中、洞窟内を慎重に移動する。
途中で宝箱は一つだけ見つけた。中身は3ポイント。合計101に。
「シュゥ……シュー」
地底湖近くで煙が排出されている。小型の魔導ゴーレムだ。
前回倒したものは黒色だったけど。今回は雪のように真っ白だ。
特殊な機能でもあるのだろうか。
背中を向けている隙に音を立てず近付く。
「あれ? 反応が鈍い。既に誰かにやられちゃったのかな」
「シュウシュー」
触れると煙が止まった。地面に倒れて動かなくなる。
魔導生物を模したゴーレムは、動力源に魔石を使用する。
この子は、魔石の能力に回路の耐久性が追い付いていないんだ。
「あれ……この子の魔力は、身に覚えがあるぞ」
生物に宿る魔力は、指紋のように同じものにはならない。
この子の魔力には覚えがあった。どこかで出会ったはずだけど。
しかも数年前とかではなくつい最近の話だ。誰の魔石だろうか。
「うーん。一つだけ色が違うのも変だし。試験とは関係ないような」
収納棚を探すも見つからず。白い札が入っていない。
試験用のゴーレムじゃなさそう。どうも迷い込んだらしい。
「こんなところに放置していたら、他の冒険者に壊されそうだ。保護しよう」
僕は白いゴーレムを抱えて移動する。重いけど我慢だ。
不利になるのはわかっている。だけど放置はできないんだ。
「シュウシュ」
「君だって、なにかを成す為に生まれたんだもんね」
本来の役割から外れた子が、
無意味に壊されるのを見ていられない。
エルたちだってきっと助けたいと思うだろうから。
安全な場所を探しに引き返そうとすると。
「見つけたぞ! 一位のロロアとかいう子供だ!」
「うわっ、最悪だ。見つかっちゃったよ」
復帰者パーティの一人が大きな声をあげる。
次々と地底湖の辺りに人の足音が増えていく。
「ぎゃあ!?」
「怯むな、奴は連射はできないぞ!」
「【魔法壁】を使え!」
一人を魔導銃で気絶させるも、その後ろから新手が。
スキルで魔法障壁を何重にも展開してくる。魔導銃の天敵。
同時に大量の投剣と魔法が。人数とスキルでのゴリ押しだ。
アイギスを構えながら後ろに下がる。白いゴーレムを守らないと。
「反撃する暇がないよ……クリエイト!」
【創造の樹杖】で強固な木製の砦を創造する。
すぐに火属性魔法で燃やされるが、時間は稼いだ。
白いゴーレムを抱えようとすると、肩に手を乗せられた。
「だ、誰ですか!?」
振り返ると、見覚えのある人物。
「ロロア、手を貸してやる」
目の前に現れたのは現状三位のルガンさんだ。
武器を背負ったまま、手のひらをこちらに向けている。
「群れる奴らから逃れたいんだろう?」
「助かります……!」
理由はわからないけど。ここは素直に助けてもらおう。
白いゴーレムを二人で担いで大岩の後ろに。敵との距離はまだ近い。
「よし、ここで静かにしておけよ――【幻影人】」
ルガンさんと同じ形の影が外に飛び出ていく。
幻術系のスキル。しかもかなり珍しい自立型のものだ。
「いたぞ! ロロアじゃないが、二位のルガンだ!」
「奴のポイント数も高いぞ。追いかけろ!!」
逃げる影を追って復帰者パーティが離れていく。
安全を確認してほっと一息を付く。ゴーレムも無事だ。
やっぱり人が使うスキルは厄介だ。魔物と違い多様性があり過ぎる。
「これで少年は、俺に貸し一つだな」
「そうですね。ありがとうございます」
お礼を伝えると、ルガンさんは顎を擦りながら僕を見下ろす。
「俺はまだ君の事を深くは知らないが。信用に足る人物だと考えている。ゴーレムを助けようとしていたところから見ていたが、君は随分と優しい。悪く言えば甘い性格のようだ」
「そう言われても仕方ないとは思います。だけど、それが僕の生き方ですから」
白いゴーレムを撫でながらハッキリと答えると。
ルガンさんはにやりと口元を動かす。
「そんな甘い少年に提案があるんだ。ここは俺たちも、協力しないか?」




