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第6話 階層の支配者

 フロアボス――それは魔塔の特定層に生息する大型の魔物だ。

 通常の生物と異なる魔導生物であり、朽ちても遺骸が残らず魔石に変化する。

 人だけでなく魔物にすら襲い掛かる凶暴性で、ナワバリ内を常に巡回している。


 本来高い階層に進むに従い魔物の強さが段階的に上がっていくが、フロアボスに限っては例外であり。低層階のボスであっても最上位の強さを誇り、念入りに対策、準備をした複数パーティでの討伐が推奨されている。


 その特性から、侵入者を拒む塔の守護者としての意味合いが強く。

 一定周期で復活するので、冒険者からは賢者の試練とも呼ばれていた。


「おや、二十五階層のフロアボスであるアクアドラゴンが、こちらに近付いていますね」


 ライブラさんからそんな情報がもたらされる。

 僕たちは飲み水を求めて泉へ向かっている最中だった。


「困ったな、ここもナワバリなんだ。あともうちょっとお出かけしていて欲しかったけど」


 ライブラさんが加わってからも、何度かアサシンゴブリンの襲撃に遭い。

 道中、水を全部飲み干してしまった。仲間が増えたことで単純に消費量が増えたのだ。


 別の階層でも水を確保できない訳じゃないけど。そこに確実性はない。油断は大敵。

 【情報板(ライブラボード)】が知らせてくれるものの中には、過去の情報も含まれている。冒険者があまり立ち寄らない階層では情報が更新されず、実際は水源が枯れていたなんて事態も起こりえる。


 フロアボスが生息する階層は危険であるからこそ、多くの熟練冒険者たちが地形を念入りに調べてくれている。ただ通過するだけなら、むしろ他の階層よりも安全に抜けられたりする。当然、水源の場所も詳細に記されていて信頼できる。


「別の場所を探すしかないか」


「あらら、その暇はなさそうです。アサシンゴブリンも一緒に逃げてきましたね。三秒後接敵します」


 ガサッと、背後の茂みが大きく揺れる。大量のゴブリンたちが一斉に飛び出してきた。


『グギャギャギャギャ!!』


「あるじさま、急いで逃げましょう!」


「そういう大事な話は先に伝えてよライブラさん!」


「すみません、まだ新しい肉体に慣れてなく。原版(オリジナル)との交信に不備が……」


 ライブラさんを上着ポケットに入れて、エルと一緒に駆け出す。

 森を抜けると、一面に大きな泉が広がっていた。ついでに泉の主も。


 翼を畳んで、巨大な龍が先回りして地面に着地したところだった。


「グギャオオオオオオオオオオオオ!」


「うわっ、アクアドラゴンが正面に待ち構えてる!?」


 先手を取られて、強烈な横薙ぎ尻尾攻撃が迫る。当たれば即死の威力。

 僕は慌てて姿勢を屈めて隙間を抜ける。背後のゴブリンたちが吹き飛んだ。


「ロロアさんは回避能力がお高い。ですが、エルエルが間に合わず飛ばされましたね」


「えっ、エルは直撃したの!? 大丈夫!?」


 不死身の器を持つからか、そもそも回避する癖が付いていないみたいだ。

 僕の視界には、身体を回転させながら木々を薙ぎ倒していくエルの姿が映った。


「め、目が回りますぅ……」


 砂煙の中、シャツ一枚のエルが足元をよろけさせ戻ってくる。

 アクアドラゴンが追撃の爪を押し付けた。エルが巨体に潰され見えなくなる。


「ロロアさん、ここはエルエルに任せて逃げるとしましょう」


「逃げるって、襲われてるエルを置いて……?」


「当然です。ロロアさんは私様たちにとっての王です。尊き命を失う訳にはいかないのです」


 ライブラさんは冷静な声色で僕を説得する。


「ご安心を。エルエルは不死身ですから、水龍が飽きたあとにでも合流すればいいのです」


「…………」


 言われるがままに逃げて、本当にいいのか。自分自身に問いかける。

 身体は不死身でも心はどうだろう。エルは僕をあんなにも慕ってくれている。

 

 一人取り残される彼女の心情を思うと――僕は我慢できそうにない。

 孤独の辛さを理解している僕が、それを誰かに与える存在になるなんて。


「……ッ!」


「ちょっと、ロロアさん!? 引き返してどうするのですか!」


 僕は背中を見せずに前へと駆け出す。

 当たれば即死の尻尾を左右に動いて避ける。


「階層を支配する大物(フロアボス)の住処では宝物が見つかるんだ! そこには相応のアイテムが眠っているはずだよ。現状を打破するには、目覚めた【擬人化】に賭けるしかない!」


「何故倒そうとするのですか! 無謀な試みですよ、現状は逃げる方が効率的です!」


「怒った水龍の執念深さを記録し忘れているよ。奴はきっと諦めない!」


 ライブラさんは、これまで蓄えた情報を元に助言してくれているけど。

 生還した人が残した情報に偏っている。死因についてはあまり精査されていない。


 それから大事な個の感情も抜けている。

 アクアドラゴンは縄張りを侵され怒っているんだ。


 逃げても匂いを辿られて、この先も延々と追いかけてくるはずだ。

 その行動が非効率だとしても、僕もそうだし、魔導生物にだって感情がある。

 

 何事も情報通りには動いてくれない。

 そうだ、僕はエルを置いて逃げるだなんてできないんだ!


「これが生物の生の感情……さっそくデータを更新しなくては!」


 ポケットの中でライブラさんが瞳を輝かせていた。


 泉の奥には、水が流れる大きな鍾乳洞があった。

 アクアドラゴンの住処にはアイテムがたくさん転がっている。


 討伐に失敗した冒険者の人骨や、荷物持ち(サポーター)の遺骸。

 着ている装備の質もバラバラで、骨の状態からしてかなり昔の人だ。


 まず目についたのは魔導銃。亡くなった冒険者の傍に落ちていた。


―――――――――――――――――――――――――――――

 改造型魔導銃トロン☆2.8


・魔力吸収

・雷属性変換

・強化スロット×4

―――――――――――――――――――――――――――――


「今一番欲している武器ではありますが、☆2.8では【擬人化】に届きませんね」


「次だよ次!」

 

 ☆2.8でも高い価値はあるけど。今は保留にしておく。

 望みはそれ以上の、誰もが欲しがる国宝級の宝物なんだ。


「グギャオオオオオオオオオオオオ!」

 

 遥か後方では激しい炸裂音が続く。水龍の唸り声。

 エルがアクアドラゴンを足止めしてくれている証拠だ。

 

 小さな相棒に頼りっきりの僕には、今はこれくらいしかできないけど。

 できる事は全力でやり遂げる。それが彼女の信頼に応えるたった一つの方法。


 人骨に引っ掛かり皮膚が裂けても、爪が割れても。

 休まず手を動かし続ける。底の底、小さな窪みの奥。

 岩壁の切れ目に不自然な空洞を見つける、祈るように滑り込んだ。


「――ロロアさんの執念には恐れ入りました。……まさに賭けに勝ちましたね」


「願えば叶うものだね。見つけたよ! エル、今すぐ助けに向かうから!」


 僕はすぐさま目の前の神々しい盾に向かって――――スキルを発動させた。


―――――――――――――――――――――――――――――

 アイギスの盾☆5.1


☆1・魔法障壁

☆2・退魔結界 

☆3・自己修復

☆4・帯電体 

☆5・反射

☆6・???

―――――――――――――――――――――――――――――

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