第55話 国王との謁見
「ロロア殿、こちらでしばらくお待ちください」
「あと三分ほどで準備が整いますので」
王宮を案内してくれた騎士の方々が離れていく。
あと数分で国のトップに君臨する人と顔を合わせる。
「普段通りの恰好でいいらしいけど。礼儀作法とか大丈夫かな」
冒険者として活動して、国王陛下と謁見なんて普通は考えない。
手持ちの服で一番綺麗なものを着てきた。アイギスにも見てもらった。
「とても似合っているわよ。これで文句を付けられるなら、私が逆に叱りつけてやるわ」
そう言って足先から頭の天辺まで、僕の身嗜みを気にしてくれる。
「アイちゃんの最近の良妻っぷりには私様も感服です。胸が大きいと器も大きいのでしょうか」
「うぅ……怖いよぉ。眩しいよ。溶けちゃうよ。しくしく」
「こくえんさん、エルがついていますから落ち着いてください!」
人数に制限があるらしくコクエンとエルはお留守番だ。
謁見の間に入るのは僕とアイギス、それからライブラさん。
「しかし実の息子二人を拷問したあとなのですが、私様たちは無事に戻れますかね?」
「最悪の場合は戦争ね。襲われたらライブラも本気を出しなさいよ」
「私様の実力ならば国を滅ぼすのに一晩も掛かりませんが。戦争にすらなりませんよ」
王宮内でも平然と物騒な発言をする二人に安心感が。
国を滅ぼすなんて冗談だと思うけど。冗談だと思いたいけど!
「ロロア殿お時間です。扉の前までお願いします」
騎士の人に呼びつけられる。背筋を伸ばして前を歩く。
「あるじさま、頑張ってください!」
「ご主人様……お早いお帰りをお待ちしています……」
◇
入場を告げる声が響き渡る。
重厚な扉が開かれる。白い光で満ちていた。
謁見の間にはたくさんの上級貴族が並んでいる。
国王のご子息たちに紛れてレイリアの姿も。
赤い絨毯を渡って、切れ目の前で僕は片膝を付く。
「面を上げよ」
(偉そうに……)
「ライブラさん、静かに」
声を掛けられ、僕は壇上の椅子に座る人物を見る。
髭の生えた貫禄のある男性、ドルバドン国王陛下だ。
その隣には王妃様かな。優しそうな女性が座っていた。
「そなたが魔塔都市ラティアで噂になっているという冒険者ロロアか」
「はい。陛下のご認識の通りでございます」
「私の想像した人物とは大きく異なるな。……頼りなさそうな。まだ十二歳の子供と聞いておるが」
「……は?」
ピキッっと、後ろでアイギスの殺気を感じ取れる。
護衛の騎士たちがざわついているけど。我慢して欲しい。
「そなたがフォルネウスを討伐したという話は、嘘偽りない報告なのだな?」
「決して僕だけの力ではありません。後ろに並ぶアイギスや、この場に居ない子たちの協力もあってこその結果です。ユニークスキルがなければ、僕は見た目通りの子供でしかなかった」
「ユニークスキルとな。そうか! それならば納得できる。して、どのような力なのだ?」
「アイテムに人の肉体を与える【擬人化】と呼ばれるものです」
周囲の人たちがより一層ざわつきだす。
王都では僕のスキルを知らない人が多いんだ。
「な、なんと。それでは無限に兵を生み出せる。【王女の激励】に匹敵する可能性ではないか!」
「それが条件がありまして……そう多用できるものではありません」
僕が自分のスキルを詳しく説明すると。
ドルバドン国王陛下は愉快そうに笑い声をあげる。
「面白い。後ろのアイギスという者も元は盾であったと。私の目には本物の人間にしか見えないが」
「レイリアの可愛らしい使用人も、私があの子に預けた宝剣なのですね」
国王様も王妃様もアイギスやストブリを見て感心する。
ひたすらに力を求める大賢者の血筋には、受けがいいらしい。
「聞けばレイリアの恩人でもあるらしいな。あの子が王宮に戻って、その変わりようには驚かされた」
「ええ、本当に。以前は他人と話をするだけでも辛そうにしていたのに。今では立派に王女としての務めを果たそうとするくらいに成長して……」
「はい。父上、母上。ロロアはとても勇敢で、優しくて、あの方以上に素敵な男性はいません」
「レイリアったら。貴女の気持ちはよくわかったわ。ふふ、あとでお祝いをしないとね」
「母上……!」
王妃様の言葉に。レイリアの顔が朱に染まった。
堅苦しい感じは一切なく。和やかな空気が流れていた。
「――父上、畏れながら申し上げます」
空気を破壊する男の声が。また何人目かの王子だ。
「この者は先日、二人の王子に危害を加えた疑いがあります。兄上たちを痛めつけて、物言わぬ人形に変えたのです!」
その事実を知って、謁見の間に集う貴族たちが声をあげる。
僕に向けて敵意が、主に王子たちとその配下の騎士たちのものだ。
「最初に手を出したのはそっちでしょうに……ライブラ、準備はいいかしら」
(流石に隠し通すのは難しいですか。剣を向けられた時点で【情報受信】を使います)
困った事になった。僕を中心に殺気が飛び交っている。
このままだと、ライブラさんが本気で国を滅ぼしかねない。
「で、ですがそれは兄上がロロアの命を不当に――」
ドルバドン国王陛下が片手をあげて騒ぎを静める。
「……レイリア、わかっておる。ロロアよ一つ尋ねたい。我が息子たちと剣を合わせたという話だが。して、どう思った」
「それは……実力の話でしょうか?」
国王陛下が頷かれる。感想を聞きたいんだ。
どうしよう。当たり障りのない言葉を返すべきか。
「わかりません。剣を合わせるどころか、落とされていましたから。ただ、本人の実力だけでは【星渡りの塔】を踏破できるとは思えません。他の冒険者と比べる事すらも烏滸がましいでしょう」
正直に答える事にした。それが国にとっても有益だろうと思ったから。
「ぶ、無礼な……」
「王子を馬鹿にするとは、我が国の王家を愚弄する気か!」
「やはりこの者を許してはなりません。父上、どうかこの愚か者に罰を!」
僕の発言を好機とばかりに王子たちが騒ぎ出す。
「くくっ、わはははは、そうか。そなたからすれば、まだまだ未熟であるという訳だな。忌憚のない言葉しかと私の胸に届いたぞ。どれだけ取り繕ったとしても力とは誤魔化し切れぬものだ」
「えっ……父上? どうしてですか、奴は大罪人で……!」
「黙れ!」
ドルバドン国王陛下からの厳しい視線が王子たちに向けられる。
「大賢者スフィーダ様の名を背負う者がむざむざと戦いに敗れたあげく、父の権力に頼るとは何事か。恥を知れ! 不服を申すのであれば口ではなく結果で示すべきであった。我が不肖の息子に対する此度の一件は不問とする。これ以上みっともなく騒ぐようであれば、容赦なく縁を切るぞ」
「そ、そんな……!」
父親の言葉を聞いて王子たちが顔を青ざめる。
「ロロアよ。私はそなたが気に入った。この国で昇格試験を受けるのか?」
「はい。そのつもりです」
冒険者は登録段階ではどこにも属さないフリーの扱いを受けるけど。
最初に昇格試験を受けた場所が正式な所属国として判断される。
つまりこの国で昇格試験を受ければ。
ガーベラ王国を代表する冒険者の立場になる。
「そうかそうか。ならばこの国の新たな英雄の誕生を祝わねばならんな! くくく、隣国の連中にこれ以上大きな顔をされずに済む。若く将来性のある人材はどこも不足しているからな。自慢ができるぞ」
ドルバドン国王陛下は嬉しそうに手を叩いていた。
その様子からも、幼少期のレイリアを冷遇していた人物とは思えない。
きっと良くも悪くも実力主義の人なんだなと思った。
現に成長したレイリアの意見にもしっかり耳を聞き入れている。
「宴の前に、そなたにはレイリアを救ってもらった礼をしなければならんな」
「父上。それは私の方から。未来の英雄殿に直接お渡しします」
ドレス姿のレイリアが僕の前までやってくる。
「ロロア、こちらを受け取ってください。【創造の樹杖】です。この子を私だと思って貴方の傍に」
「……ありがとうございます。もちろん、大切に扱わせてもらいます」
僕がその杖を受け取る事で。謁見は無事に終わりを告げたのだった。
◇
「ふぅ……緊張した」
謁見が終わってからも、大規模な宴が開かれて。
僕は主役として色んな人たちと挨拶を交わしていた。
緊張からか、名前はまったく覚えられなかったけど。
国王様と王妃様とは何度か会話を交わす機会を得られた。
話の流れで僕が孤児であると語った時に、
国王様から息子にならないかと誘われた時は驚いたけど。
レイリアと王妃様が大反対していたのが今も記憶に残っている。
改めて、褒美として神聖金貨を二枚も受け取ってしまった。
フォルネウスの魔石分と、今後も王国に貢献するという契約金。
「一枚につき、金貨百枚分。商会の大口取引で扱われる硬貨ですね」
「これでトロンの改造代は余裕で支払えるわね」
「まずイーグルさんがお釣りを返せるかが問題だけど」
個人の取引ではとても使いにくい。
あとで金貨百枚に変えてもらえないかな。
「あるじさま、これからどうするんですか!」
「このまま引き続き王都に残って、まずは昇格試験を受けるよ。次に目指す魔塔が最低でもDランクじゃないと最上層まで登れないからね。あっ違った、次は最下層か」
「ガーベラ王国のお隣の国にある魔塔都市クランバル【地下深淵の塔】ですね。地中深くに埋まる塔を百階から下っていく。一風変わった魔塔です」
「【星渡りの塔】から四十階も増えています!」
「暗くてジメジメした場所は私めにとっては楽園です。うぅ、眩しいのはもうやだ」
新しい目標を前にみんなもやる気が漲っているけど。
まずは僕の冒険者ランクをGからDまで上げないといけない。
大変だけどここで躓いたら王様の期待を裏切ってしまう。頑張ろう。




