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第52話 馬鹿王子

「さてと、これからどうしよう。まだ時間はたくさん残っているけど」


「王都で人気の焼き菓子専門店がありますです。是非、堪能していってくださいです!」


「ふあぁ、美味しそう。でも、とろんさんが食べられないのは可哀想です」


「そこはみんなと合流してからの楽しみにしようか。今から観光名所を回ろう!」


「わかりましたです! お任せくださいです!」 


「あるじさま、楽しみましょう!」


 エルとストブリに引っ張られて、徒歩で色んな場所を見て回る。

 北の方には闘技場があって、多くの騎士たちが訓練に励んでいる。

 南に行けば旅芸人の舞台が、賑やかな通りにはたくさんの露店が並ぶ。


 何度か休憩を取りつつ、今度は中心部に向かう。その途中で――


(――ロロアさん、お気付きでしょうか)


「……うん、誰かにあとを付けられているね。これも有名税ってやつなのかな」


「申し訳ありませんです……こちらの不手際で、創造主様にはご迷惑ばかりお掛けして」


「気にしないで、すべての元凶は僕の噂を広める原因となった、ポケットの妖精さんだから」


(ええっ、私様の責任ですか!?)


 冗談だよと笑いかけながら。背中に意識を向ける。


 目に見える範囲で一人だけど、敵意を持った気配が複数。

 これでも魔物が蔓延る異世界を何度も生き抜いてきたんだ。

 

 素人の追跡を見抜けないほど、平和ボケはしていない。

 

「エル、一つお願いがあるんだけど」


「あるじさま? どうかしました?」


 尾行にまったく気付いていないエルが僕を見上げてくる。

 せっかくの楽しい時間なのに、この雰囲気を壊すのも嫌だけど。


「アイギスたちを探して、この辺りまで呼んで来て欲しいんだ」


 持参していた王都の地図を広げて印をつける。

 どうも相手の狙いは僕らしく、エルに悪意は向いていない。

 アイギスたちは事前にどこを巡るかを細かくメモに残してくれている。


 ストブリが居てくれるから、このままでも対処できそうだけど。

 盾の彼女にも一報を送っておかないと、プライドを傷付けそうで。


(正しい判断だと思われますよ。アイちゃんはそういうの気にする性格ですからね)


「わかりました。あるじさま、エルはお使い頑張ります!」


 エルが受け取ったメモを片手にアイギスたちを探しに向かう。

 その後ろ姿が見えなくなるまで確かめたあとに、移動を開始する。


 複数の悪意を引き連れたまま、王都の端にある旧工房区。

 瓦礫が散らばる人目のない場所で、僕たちは瞬時に姿を隠す。


「……アイツら、どこに行った!?」


 急に姿を消した僕たちを探して、一人の男が立ち止まる。


「よっと、僕に何の御用でしょうか?」


 上手く誘い込み、その背後を取る事に成功した。

 

「くっ、お前が……レイリアを唆したロロアとかいう下民か!」


 背の高い、煌びやかな服を着た人物が、僕を睨みつける。


「なっ、どうして貴方がこんな所に!?」


「もしかしてこの人、ストブリの知り合い?」


「レイリアのお兄様、リックス王子殿下です。王位継承順位は第三位。ユニークスキル所有者ではありませんが、九つのスキルを習得できる才能をお持ちの方です」


「あれ、確かレイリアのご兄弟は二十人を超えていると聞いたけど」


 第三位という事はレイリアの上の方のお兄さんかな。

 それにしては随分と若そうに見える。二十代前半くらい。


(ロロアさん、大賢者の血筋は何よりも力を重んじます。王の座に就くには生まれ持ったスキルや実績が重要なのです。魔塔を攻略するのもその前提に立つ為の儀式のようですね。順位はすぐ入れ替わるものだと認識してもらえれば)

 

 なるほど、親族間で争いが絶え無さそうな仕組みだと思う。


「王子様がどうして僕を尾行していたんですか」


「なに、気付いていたのか……!」


(あれで気付かない方がどうかしています。第三位の癖に弱そうですねぇ)


 ライブラさんの感想には同意見だけど、顔に出さないでおこう。


「魔塔都市で貴様と関わってから、レイリアは自分の意思を持ち始めた! 王宮に戻ってから別人と入れ替わったかのように活発的に行動するようになったんだ!」


「……? とてもいい話だと思いますけど。それの何がいけないのですか?」


「余計な事をしやがって。レイリアはあのまま引き籠ってくれていた方が都合が良かったんだ! ただ泣き喚きながら、【王女の激励】を発動するだけの存在でいた方が俺たちの役に立ったというのに!」


「な、何て事を言うんです! レイリアは殿下の妹君ですのに!」


「ガーベラ王家に家族の情など必要ない。力さえあれば、王位に就けるのだ!」


 心の中で深い溜め息が出る。苛立ちが身体を支配する。

 彼らがレイリアの心を傷付け、人間不信に陥れた元凶なんだ。


「どうせお前も【王女の激励】を利用して名声を得られたんだろう! 父上に会わせるまでもない。ここで本性を曝け出してやる!! フォルネウスを倒したのはまぐれだったと!」


「……どうしてそんなに焦っているのですか?」


 僕は純粋な疑問をリックス王子にぶつける。


「王子様もレイリアと同じ【星渡りの指輪】を持っているはずです。あとから必死に追いかけてきて、同じ舞台に上がった妹さんを褒めてあげる、それくらいの余裕は持って然るべきだと思うんです。――もしかして、本心ではレイリアに敵わないと感じているのでは?」


(ロロアさんも言いますねぇ。見てください、馬鹿王子の顔が真っ青ですよ)


「な、なななな……何を言い出すんだ! 俺がアイツより劣っているはずなんか……!」


 王子の後ろには物騒な装備を着込んだ男たちが控えている。

 雰囲気からして正規の騎士じゃない。最初から数の力に頼るなんて。


 レイリアが最上層に到達できたのは、ストブリの力も大きかったけど。


 それ以前に彼女はたった一人で冒険者として活動をしていた。

 人間不信という楔がある中で、スキルに頼らずに戦っていたんだ。


 【王女の激励】ばかり注目されているけど。本人の能力もかなり高い。

 

「そうか。指の証も実力で得られた成果じゃないんだね。自分は何もせず周りの人間を頼ったんだ。だから本物の強さを持つ妹の存在を恐れている。自分の地位を脅かされるのを恐れている」


「貴様あああああああああ!! それ以上を言うなあああああああ!」


「させません!」


 激昂したリックス王子の凶刃をストブリが止めていた。


「邪魔をするな使用人風情がっ!」


「使用人だからこそ、これ以上、王家の恥を晒させる訳にはいかないのです!」


「奴は偉大な賢者の血筋を侮蔑したのだぞ! この場で不敬罪に処してやる!!」


(最初からそれが目的だったのでは? とうとう自白しましたね)


 この国では優秀な冒険者を求めていると、事前に聞いている。

 僕が名指しで選ばれたのも。きっとレイリアの推薦があったからで。

 

 ガーベラ王国ではレイリアの立場が強くなっている。

 優秀なスキルに加えて能力もあり、王女の自覚も芽生えた。


 彼女の実力が正しく評価されるとなると。

 王位継承権も上位に食い込んでいるはずなんだ。


 だから彼女が推薦する僕という存在に目を付けた。

 この場で殺すなり、捕まえるなりして王との謁見を妨げる。


 そうしてレイリアに恥をかかせて、失脚を目論んでいるんだ。


「この者は王女を利用し、国を乗っ取ろうと企てている罪人だ。子供だからと手心を加えるな!」


 リックス王子に命じられて、取り巻きたちが武器を抜いていく。


(ここまで来ると憐れですねぇ。あの馬鹿王子は。喧嘩を売る相手の力量も見抜けないとは)


「それは、事前に【擬人化】を知っていないと仕方ない気がするけど」


 王子の視点では僕たちは子供だし。弱そうに見えているんだ。

 【王女の激励】がないと、何もできないと思われても不思議じゃない。


「もう……怒りましたです。創造主様、反撃しましょう!」


「いいの? 相手はレイリアのお兄さんで、王族だけど」


「こんな横暴は認めては国が滅びますです。責任は私が負いますです!」


 ストブリの身体が白く輝いて、剣の形へと変貌する。

 狙いが僕である以上、本来の姿の方が守りやすいと考えたんだ。


「な、何、レイリアの使用人が剣の姿に!? それは母上の、公爵家に伝わる宝剣ではないか!」


「せめて襲う相手の所持スキルくらいは調べておこうよ」


 僕は【ストームブリンガー】の柄を握り締める。腕に重みが掛かる。

 初めて本格的な剣を扱うけど、仕組みは【アイギスの神盾】と同じだ。


 彼女の心が、怒りの感情が伝わってくる。使い方は感覚で理解できるよ。


「王子様、僕も魔塔に挑戦する冒険者です。命を奪うつもりなら、相応の覚悟を持ってください。魔塔都市での僕の噂はご存じのはずですよ」


「四十人斬りの暴虐王ロロアか……」


「王子殿下、油断なされないように。ここは我らにお任せを!」


 苦手な称号だけど。この手の連中の威勢を挫くには都合がいい。

 王子の取り巻きは僕の悪評を知るのか、息を呑む音が聞こえてくる。


「たかだか宝剣一つで【王女の激励】なしに、この戦力差を覆せるものか!」

 

 リックス王子も部下に守られながら、最奥で剣を握り締めた。


 総勢三十人ほどの王子の手勢が旧工房区に揃っている。

 子供一人によくもこれだけ、暇な大人たちを集めたと思う。

 

 王子様の人望も悪い意味で厚い。この国の未来が心配だよ。


(さてさて、久々に私様の必殺技を使うタイミングがやってきましたか)


「また例の僕の声真似? 別にいいけど最後は合わせてね。僕だって偶には言いたい事があるんだから」


 ごほんっと一呼吸置いて、


『はっ、大賢者の末裔も堕ちたものだな。群れなきゃ何もできない、お坊ちゃましかいないようだ』


 ライブラさんが威勢のいい台詞を僕の声で吐き出す。


「貴様、貴様あああ、俺がこの場で斬り捨ててやる!! 犬の餌にしてやるからなぁ!?」


 リックス王子が頭から湯気を出して、赤く染まっている。 

 王子を侮辱され、取り巻きたちが動き出す。僕は宝剣を構えた。

 

『いいぜ、かかって来いよ。全員まとめて返り討ちにしてやる。この――』


「――卑怯者の馬鹿王子!」

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