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第20話 公爵家の剣

「私の母方の公爵家で代々受け継がれている、【宝剣ストームブリンガー】です。この剣のおかげで私はCランク冒険者として成功を収めました。魔塔は未だに一つも制覇できていませんが……」


 さっそく【情報板(ライブラボード)】を確認する。


―――――――――――――――――――――――――――――

 宝剣ストームブリンガー☆5.0


・風刃

・闇刃

・飛翔

・生命吸収

・黒嵐

・???

―――――――――――――――――――――――――――――


「☆5.0の国宝級……僕の力の効果範囲内ですね」


 国宝級なら愛用品に関わらず、双方合意の上で【擬人化】が発動する。

 【アイギスの神盾】と一緒だ。公爵家の宝剣だけあって潜在スキルも強そう。


「☆5.0なら私の方が上ね、よかった」


 隣でアイギスが安心したように息を吐いた。


(アイちゃん、自分の立ち位置を奪われないか心配だったようですね。それが他人の所有物であっても)


 盾と剣じゃ用途が違い過ぎると思うけど。

 アイギスは僕の中で常に一番であり続けたいみたいだ。

 

「【擬人化】を使うのは構わないのですが、理由だけ聞かせてもらってもいいですか?」


 新しい命の器を生み出すのだから、僕には相応の責任が生じる。

 レイリアさんは悪い人には見えないけど、この子をどうしたいのか知りたい。


「ロロア様は私の、【王女の激励】についてどこまでご存じでしょうか?」


「えっと、同じパーティ内の、仲間と認識した人を強くする力ですよね? 長く一緒に居ればいるほど効果が累積していって、最大で二倍近くの身体能力を得られるとか。負荷も少なく、支援スキルの中では最高峰であると伺っています」


 故に彼女を仲間にすれば、世界最強のパーティが作れる。

 国内だけでなく、国外の冒険者からもアプローチを受けているとか。


 数あるユニークスキルでもわかりやすく強い力だ。


「ロロア様の、その認識で間違いはありませんが。一つ補足しますと、私のスキルは他者の強化です。その恩恵に私自身は与れません。唯一の欠点と言えましょうか」


 ああ、そうか。【王女の激励】だから自分は対象外なんだ。


「つまり強化された仲間に、仮に悪人が紛れ込んでいたりすると。貴女は不利に追い込まれるのね?」


「はい……あくまで対象者は私の認識で定まります。パーティを組みながら激励を与えない事は即ち、その方を仲間と認めず突き放す事です。魔塔探索ではパーティ内の信頼維持が何よりも重要で。よって無条件にスキルを施す必要が生まれてしまうのです」

 

 それでレイリアさんはパーティを組まないんだ。いや、組めないというべきか。


「私が王族ながら護衛を連れていないのもそういった理由からです。たとえ最初は信頼していた方でも、人は力を得ると変わります。過去私はそれを何度となく見せつけられました。血の繋がった家族であっても――私は孤独である事を身内からも望まれているのです」

 

 王族だからこそ見えない敵も多いだろうし。

 彼女もユニークスキルの扱いで困っているんだ。


「でも、どうして魔塔に登らないといけないのです?」


 エルが聞き辛い疑問を代わりに投げかけてくれた。


「ガーベラ王家は【星渡りの塔】を創り上げた偉大なる七賢人ヒーリカ様の血を引く家柄。自らが管理する魔塔を攻略できずとあらば、先人の方々に顔向けができません。王家の者は二十を超える前に必ず魔塔を踏破する責務が生じるのです。私も今年で一八になります。残された時間も僅かになりました」


 魔塔攻略にはパーティの練度にもよるが、年単位の時間を要する。

 何度も繰り返し挑戦し、情報と経験を集めて。実力だけでなく運も必要になる。

 二年は長いようで短い。チャンスはあと二回あるかどうか。お姫様が焦るのも理解できる。


「地上世界では面倒な仕来りもあるものね」


「おひめさまも大変そうです……」


「もぐもぐ……ますた、ごちそうさま、です」


 昼食を食べ終えたトロンが満足げな表情をしていた。僕はその口を拭いてあげる。

 レイリアさんはその様子を羨ましそうに見ていた。信頼できる仲間への憧れ、だろうか。


「私はきっと【王女の激励】を宿したその時から。不治の病、人間不信を患ってしまったのです。信頼できるのはいつも傍で支えてくれたこの宝剣だけ。どうか私に、心を許せる友人を、生み出してもらえないでしょうか?」


 ◇


 【擬人化】を発動するのに、酒場だと目立ってしまうので場所を変える。

 レイリアさんから良い場所がありますと、案内されたのは王族専用の隠れ家だった。


 寝泊まりができるよう設備も揃っていて、冒険者に必要な物資も潤沢。

 王家に仕える使用人の姿はなく、彼女一人でこの場所を利用しているらしい。


 人間不信もここまで徹底していると感心する。

 本音を言えば、僕もあまり信用されていないんだろう。


「それでは【擬人化】を使いますね」


 床に置いた【宝剣ストームブリンガー】に向かってスキルを発動する。

 白いシルエットと化した人影に変化する。アイギスさんがすぐさま布を被せた。 


「みなさん、おはようございますです! よい天気ですね! あれっ突然真っ暗になりました!?」


 元気よく挨拶をしてくれたのは、エルと同じくらいの女の子だった。

 輝く宝石のような黒髪に灰と翠のオッドアイ。薄い眉に優しさをにじませる。


「挨拶はいいから、すぐに着替えて。ここは危険な妖精が潜んでいるから」


「ああっ、アイちゃんもったいない! ブリちゃんの小振りな丸二つを私様のデータに残しておきたかったのにっ!」


 素っ裸のストームブリンガーさんをアイギスが連れていく。

 上着ポケットから抜け出していたライブラさんが一人嘆いていた。


「あ、あの、そちらのフェアリーさんもロロア様の……?」


「元は【情報板(ライブラボード)】のライブラさんです。お気になさらないでください」


 突然現れた変態妖精さん――絶滅危惧種であるフェアリーの姿にレイリアさんも驚いていた。


「ふぅ、ひとまずこれでいいでしょう。変わった衣装だけど似合うじゃない」 


「ありがとうございますです! レイリア、どうでしょうか? 似合いますですか?」


 事前に用意された、何故かメイド服を着せられたストームブリンガーさんが戻ってくる。

 所有者のレイリアさんに飛びついた。嬉しそうに胸に顔を埋めている。抱き合っていると姉妹のよう。


「か、可愛い……この子が、あのストームブリンガー? 本物の、生命を息吹を感じる……【擬人化】は私の【王女の激励】とは比べ物にならない……生命を創造する、神の領域のスキルなのでは……?」


「長いのでストブリでいいですよ、レイリア。人の身体は暖かいですね」


 成功して良かった。他人の所有物であっても、許可が出れば発動できる事が証明された。


 まだ【擬人化】が目覚める前も、よく同じ事を頼まれて失敗したから。

 嘘吐きロロアと呼ばれる切っ掛けにもなっていて。これで克服できたかな。 


「どことなくエルエルに似ていますね。誕生した国や時代が近いのでしょうか?」


「エルもあるじさまにギュってしたいです!」


「変態妖精にギュってしてあげたら喜ぶわよ?」


「やめてください潰れてしまいます」


 古代のアイテムは擬人化すると幼子になる法則があるんだろうか。

 子供を神聖化する風習が昔はあったらしいし、その名残があるのかな。


 偶には男性の擬人化も見てみたいけど、それはライブラさんが嫌がりそう。


「ロロア様、心から感謝申し上げます。この御恩は一生忘れません!」


「私も、レイリアを支えたいとずっと思っていましたです。身体を与えてくれてありがとうです!」


 レイリアさんとストブリさんから何度もお礼を伝えられる。


「僕はスキルを使っただけなんで、そこまで褒められると照れてしまいます」


「生涯の友を得ました。これで見ず知らずの他人と行動する必要もなくなった……安心しました」


 ストブリさんと手を繋いで、レイリアさんが笑顔になる。

 僕のせいで、レイリアさんの人間不信を克服する理由がなくなってしまったような……。


 本人がそれを望んでいるのだから、他人がどうこう言う必要はないか。


「依頼の報酬として、この隠れ家をロロア様に差し上げます。自由に使っていただいて構いません。消耗品は定期的に使いの者に補充させます。清掃も同じく。管理面でロロア様のお手数はお掛けしません」


「えっ……いいんですか?」


 僕たちは今のところ魔石の報酬で、安宿で暮らしているのだけど。

 ここは王族の隠れ家だけあって立地も最高だし、内装も比べるのも失礼なくらい。

 

「隠れ家は他にもありますので。埃を被らせるのも勿体ないです。是非貰ってください」


「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます!」


 こうして、僕たちは自分たちの拠点を手に入れたのだった。

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