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第13話 素直になれない

 負傷したクルトンたちをそのまま放置して、僕たちは地上を目指す。

 現在二十九階の奥地、アイギスさんの退魔結界のおかげで探索は順調だ。

 結界を掻い潜ってくる強敵相手は、肉体を得たトロンが撃ち抜いてくれる。


「ところでアイちゃん、例の三人組を置いて行く途中で姿を眩ましていましたが、何かご用事でも?」


「アイちゃん言うな……ちょっとした野暮用よ。気絶している奴らの手足を折ってきたの。万が一生き残られて復讐を企てられても困るでしょう? この事はロロアには内緒にしておいてよ。あの子きっと人を殺めるのに慣れていないのよ。いつも虐げられる側だったから、逆の立場になると戸惑うの」


「盾として主人を傷付けた相手に容赦ないですね……まぁその甘さも私様は人間らしくて好ましく思いますが。ロロアさんのようなお人好しの方が、力を得た途端態度を急変されても反応に困りますし」


「敵の返り血を浴びるのは武具の役目。それと、まだロロアをマスターと認めた訳じゃないから」


「そこまでしておいて強情な。……余計な情報を与えないというのには賛同します。あのようなゴミの末路にいちいち意識を奪われるのは、ロロアさんの貴重な時間がもったいないですから」


「何よ、淡々としているようにみせて。その言い方だと貴女も随分とご立腹だったって事じゃない」


「当然でしょう。奴らのロロアさんに対する嫌がらせは、私のデータに深く刻まれているのですから。何度やり返しても気が済みませんよ」


 後ろの方でライブラさんとアイギスさんが内緒話している。

 仲が良いのか悪いのかわからないけど、一緒に行動する事が増えた。


「……もぐもぐ」


「とろんさん、前を向かないと危ないですよ?」


 のんびり屋のトロンが転ばないようエルが手を繋いでいる。

 僕はその反対側でパンをトロンの口に入れてあげる。食いしん坊だ。

 

「というか、さっきから言いたい事があるんだけど……」


「アイちゃんが何やらお怒りのご様子です」


 ライブラさんを肩に乗せて、アイギスさんがやってくる。


「トロン、貴女食べ過ぎよ! あれだけ余裕があった食料がもうすっからかんじゃない!」


「ごめん……なさい。……ぐぅ」


 鞄が重みを失い、外観だけになっている。

 食べ尽くしたトロンはお腹を擦り地面を見つめていた。


「どうか怒らないであげて。それだけ道中活躍してくれたんだから」


 エルが水龍の魔力水を蓄えているので、トロンは魔力切れを起こさない。

 ただ弾として変換するのにエネルギーを消耗するらしく、燃費が悪かった。

 トロンは戦闘のたびにお腹を空かせてしまう。今もぼんやり涎を垂らしていた。


「ほらトロン。そんな顔をしていたら、せっかくの美人が台無しだよ?」


「もぐもぐ。ますたーおいひいです」


 残しておいた僕の分の朝食を分けてあげる。

 トロンは指についた欠片まで丹念に吸い取っていく。

 身体は大きいのに小さな子犬みたい。尻尾が似合いそう。


「……本当、貴方って甘々ね。自分の分まで分け与えて、人が道具を優先してどうするのよ」


「僕にとって道具は半身だよ。大切に扱いたいと思うのは本心だから」


「……っ!」


「おや、今の直球は素直になれないアイちゃんには効果覿面のようで」


「うるさいわよ、ライブラっ!」


 おー怖い怖いと呟きながら、ライブラさんが僕の肩に避難する。


「あるじさま、エルのをどうぞ!」


 エルが乾パンをちぎって口元まで運んでくれる。

 身長が足りないので爪先立ちだ。一生懸命伸ばしてる。


「それはエルの分の朝食だよ」


「エルは小さいですから、もうお腹は一杯です!」


 その瞬間、彼女のお腹は抗議の音を鳴らした。

 恥ずかしそうに「違うんです!」とあわあわ慌てだす。


「――ほらエル、口を開けなさい」


「はむぅ」


 アイギスさんが自分の分の食べ物を、エルの口に押し込んだ。


「ロロアも、我慢なんてするものじゃないでしょ? 貴方が最初に倒れたら私たちも共倒れなのよ」


「はぐっ」


 そしてエルの乾パンを奪い取り、有無を言わさず僕の口に放り込む。


「……まったく私は何をしているのでしょうね。慣れ合いをする為に肉体を望んだんじゃないのに」


「えへへ、エルたち仲良しさんです!」


「微笑ましい光景です。今の記憶を原版(オリジナル)の方にも保存しておきましょう」


「なかよし……おいし」

 

 そうして会話を楽しんでいる間に、ついに僕たちは三十階に辿り着いた。


 入ってすぐ地上へ帰還できるギルド管轄の転移ゲートが見える。 

 周辺には天幕が張られていて、この先の上層を目指す冒険者の姿も見えた。

 

「……ますた、ますた」


「トロンどうしたの? ちょっと体調が悪そうだけど」


 僕の腕に掴まって、トロンが痙攣を起こしている。

 足元から白いシルエットに変わっていた。それが全身まで及び。


 最後には魔導銃となって地面に落ちてしまった。


「みんな大変だ、トロンが元の姿に戻っちゃった!」


「あるじさま、落ち着いてください」


「ご安心を、ただの省エネモードです。一度手に入れた肉体は失いませんから。トロちゃんは空腹が限界に達すると元の姿に戻るようですね。食事の時間になればまた顔を出してくれますよ」


「犬みたいね……」


 ライブラさんの補足を聞いて僕は胸を撫でおろす。

 【改造型魔導銃トロン】を拾い汚れを拭きとっていく。


「あるじさま、やっと地上ですね。頑張りましたね!」


「うん、エルやみんなのおかげだよ。感謝してもしきれないよ」


 一人で見捨てられた時は、こんなにも仲間に巡り合えるだなんて。

 夢にも思わなかった。人生で一番辛かったけど、一番幸せにもなれた。


「いい話のところを邪魔して悪いけど、地上に出たら私は私に相応しい使い手を探すわ。貴方たちと協力するのも今だけよ。そう……今だけ。ロロアは安全になるのだから、盾の役目もこれで終わり」


 アイギスさんは反論を許さず、僕たちの前で宣言する。


「そうなんだ……地上に着いたら、アイギスさんとはお別れなんだね……?」


「……エルは寂しいです、せっかく仲良くなれたのに」


 僕もとても寂しい。別れたくない。

 だけど、引き留める理由がなくなるんだ。

 彼女には明確な目標がある以上、邪魔はできない。


「もうっアイちゃんは構ってちゃんなんですから♪」


 暗い雰囲気の中、僕たちは地上へのゲートを通る。

 何故だかライブラさんだけは、上機嫌に笑っていた。

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[一言] アイギスはツンデレと
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