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第14話 地上世界

「数ヵ月ぶりの本物の陽の光だ! 風が気持ちいいね」


 【星渡りの塔】を出ると、高台から広がる街並みが見える。

 石造りの建物が視界の奥まで埋まり、都市全体を囲む防壁も壮大だ。

 防壁の外側では風車が回り、田園風景も続いている。人がたくさん通り過ぎていく。


 ――魔塔都市ラティシア。


 七魔塔の一つ【星渡りの塔】を守護する巨大都市だ。


「わぁあ、何度見ても綺麗です……! この身体だといつもより新鮮です!」


「私様は見慣れていますので特に普通です。都会っ子ですから」


「ここが地上、ロロアの住む世界なのね……」


 三者三様の感想が、隣から漏れ聞こえてくる。

 トロンにも高台からの光景を見せてあげたかった。


 ……ううん、これからいつでも見せられるんだった。


 高台を下りると大きく賑わう通りに出た。冒険者ともすれ違う。

 まずは近くの冒険者ギルドを目指そう。手に入れた魔石を換金したいし。


「おい……あれを見ろよ……」

「マジかよ、正気か……?」


 道中、僕たちは注目されていた。どうしてだろう?

 気にはなったけど、こちらから尋ねる勇気は持てなかった。

 勘違いならただの自意識過剰だし。いつもの悪口だったら聞かない方がいい。


 ちなみにライブラさんは「可愛い私様は悪目立ちしますから」と。

 僕の上着の中に隠れていた。ときどき羽が胸に擦れてくすぐったい。

 

 興奮するエルが転ばないよう手を繋いであげて。

 アイギスさんはまだ一緒に行動してくれるみたいだ。


 いつお別れになるのかわからないけど。

 後悔しないよう、この一瞬を大事にしよう。


「あ、あのぉ……後ろの方々は……どういったご職業で?」


 ギルドに入って、受付のお姉さんが顔を引きつらせながら話しかけてくる。

 長い耳が特徴的なエルフ族。その白い肌が強い赤みを帯びていた。

 

 震える指先で、エルとアイギスさんを指している。主に下半身を。


「あっ」


 魔塔では色々あって、それどころじゃなくもう見慣れてしまったけど。

 よく考えたら、エルとアイギスさんはシャツ一枚だった。下になにも履いてない。


「ど、どうしよう!? やらかしちゃったよ!」


 視線の理由に気付いて僕は焦る。魔塔探索後にありがちなミスで。

 長期間俗世と切り離されるから、地上の常識をたまに忘れてしまうんだ。 


「あう……私も、トロンと一緒に盾に戻るんだった……!」


 羞恥心からアイギスさんがしゃがんでいる。


(ちなみに私様は気付いていましたが、あえてスルーしました。アイちゃんの貴重な瞬間をこの目で記憶するために! ですが、ここからではよく見えません。おのれ、私様の可愛くて可憐な肉体……!)


 一番反応しそうなライブラさんは上着の中だ。

 そして、エルは何食わぬ顔でずっと僕を見上げていた。


「エルはこのままでも平気です!」


「よくありませんっ! そこで大人しく待っていてくださいよ!?」


 エルフのお姉さんが急いで着替えを持ってきてくれる。

 エルは子供用を、アイギスさんは胸が大きくて窮屈そう。


「過酷な魔塔探索後の冒険者が、精神的に不安定になる事情も仕事柄理解できますが。せめて休息時間を挟んでから、ギルドを訪れる際は最低限の常識をですね――」


「ご、ごめんなさい」


 当たり前の常識を当たり前のように説明され怒られた。

 服の代金は、アクアドラゴンの魔石で立て替えてもらおう。


「あ、あの。この流れで出すのも申し訳ないんですが、これの換金をお願いします」


 探索の成果である大きな魔石をカウンターに置く。

 すると受付の奥からも、驚きを表す声が届いてきた。


「こ、この大きさにこの輝きは、フロアボスの魔石ではありませんか!」


「二十五階で討伐したアクアドラゴンの魔石です。どれくらいの価値になりますか?」


「少々お待ちください! えっと、二十五階層は……まだ討伐隊は組まれていない……? ってことは、単独パーティでの討伐!? こ、こんなレアケースは初めてです! まずは上司に相談しないと!」


 エルフのお姉さんがギルド内を忙しく往復している。

 それからしばらくして、上司の方と一緒に戻ってきた。

 

「どうぞ、こちらをお納めください。アクアドラゴンの討伐報酬になります」


 渡されたのは金貨だった。一枚、二枚――十枚――四十枚!?

 僕が本来クルトンたちから貰うはずだった報酬は、大銀貨五枚で。

 金貨一枚は大銀貨十枚分だから……八十倍。とんでもない報酬量だった。

 

「お、多すぎませんか?」


「とんでもありません! アクアドラゴンは複数パーティによる討伐が推奨され、前回は総勢五十人で挑み、数人の犠牲者を出しながら辛うじて勝利したのです。こんなの前代未聞ですよ!」


「先程は偉そうに説教してしまい申し訳ありませんでした……! 私たちはまだラティシアに転属したばかりでして、これほど優秀な冒険者様だとは露も知らず失礼を! その、よろしければお名前だけでも」


 上司の人とエルフのお姉さんが丁重に頭を下げてくれる。

 僕の悪評を知らない人に名乗るのは、いつか失望されそうで怖い。

 

「アイギスよ、しかと覚えておきなさい。アクアドラゴンは私がぶっ飛ばしてやったの」


 僕が返答に悩んでいると、アイギスさんが代わりに名乗ってくれた。


「それで、私たちにかまけて仕事を放置していいの? 怒られた時の言い訳に使わないでよね」


 続けて人を寄せ付けない雰囲気を漂わせ、冷たく追い払う。


「お、おっしゃる通りです! 私たちはここで失礼します!」


 上司の人とエルフのお姉さんは急いで持ち場に戻っていく。


「ありがとうございます、アイギスさん」


「困っているなら素直に頼りなさいよ。盾は常に前へ構えるものよ?」


 アイギスさんがそう言って、隣に立ってくれる。

 大きな背中が心強くて、僕は何度も助けられている。


「えっと、あいぎすさんとお別れじゃないんです?」


 エルが純粋に疑問符を浮かべていた。

 

「あっ、そ、そうよ! ここでお別れなのよ、簡単に私を頼られても困るのよ! 困るのよ……?」


 ゆっくりと離れてしまった。ああ、急に心細く。

 

(アイちゃん、今さら過去の発言を撤回できず。されど本心ではロロアさんの傍にいたくて、思考がおかしくなってますね……)


 僕たちはそれぞれの距離感を維持しつつ、報酬金を持って引き返す。

 大金を持ちながらのんびりしていたら、怖い人たちに絡まれてしまう。


「よお、嘘吐きロロア。騒ぎがここまで聞こえていたぜ、アクアドラゴンを倒したんだってな? 例の本当かどうか疑わしい、ユニークスキルのおかげか?」


 遅かった。酔っ払いの男たちに囲まれてしまった。


「どうせ他のパーティから盗んできたんだろ? 白状しろよ、お前のような臆病者がまともにパーティの仲間として認められる訳ないだろ!」


「あん?」


(あぁ……いけません。盾の本能から、アイちゃんの機嫌がすこぶる悪化しています)


「ライブラさん……その、動かないで、くすぐったいです……あはは」


 絡まれている最中だというのに、思わず僕は口元が緩んでしまう。


「ロロアてめぇ、なにがおかしいんだ!」


「わっ!」


「あるじさまっ!」


 突然男が殴りかかってきて、僕は尻餅をついた。

 拳は空を切って、アイギスさんの目の前の壁にぶつかる。


「よくもロロアに手を出したわね……!」


「ぎゃあっ」


 アイギスさんが華麗な回し蹴りで、粗暴な男を蹴り飛ばす。

 着替えの後で良かった。シャツ一枚だったら大変な事になってた。


「ひっ、なんだこの姉ちゃん、馬鹿みたいにつえぇぞ!?」


「汚らわしい下賤な人間が、私に触れるなっ!」


「お前には触れてねぇよ! 俺たちはロロアに用があって――ぐぎゃっ!?」


「馴れ馴れしく名前を呼ぶな、消えなさい! 失せなさい! 爆ぜなさい!」


「酷いです、許せません!」


(みなさん地上に出てからテンション高いですねぇ、私様もこの流れに乗るべきでしょうか?)


 容赦なく追い討ちをかけ、男二人は顔中に痣を生やし転がった。

 生きてるよね……? エルが傷口に水を落として、追い拷問していた。

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