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兄さんは私の嫁  作者: 揚羽常時
意図と糸
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クラスメイトの葬式


 葬式が行なわれた。クラスメイトとして参加する。


「まことご愁傷様です。謹んでお悔やみ申し上げます」


 アリスは遺族にそう述べた。いや、俺もなんだが。とはいえアリスの占有率が高い身としては、工藤さんの記憶なぞ在って無いに等しい。


「そもそも誰よ」


 の議題から始める必要があった。遺体は無い。首を切り下ろされたらしい。全身バラバラにされれば、そりゃ御本尊としては使えないだろう。警察もその辺はよく分かっている御様子で、死袴も理解はしているようだ。


「にしても歩く不道徳だな」

「揉みますか?」

「要熟考」


 さらりと躱す。


「う、うあ……うああああ……」


 泣く人間まで出る始末。年齢的に俺たちと同じだろう。平凡な大和少女で、心を仮託していることを覚れる気持ちの込め様だった。案外親友だったのかも知れないな。


「兄さんは死にませんよね?」

「物理的に無理な気はする」


 ぶっちゃけ誰が殺せるよって話だ。


「あとは綾花に任せるか」


 葬儀場を出る。ヒュッと夏風が吹いた。


「季節の変わり目か」


 星空がよく見える。おおぐま座が輝いていた。


「結局人の死って何でしょう?」

「お別れだな。隔離に近い……とは俺の思うところだ」

「隔離ですか?」

「連絡が取れないところにいく。死ってのはそういうものだろ?」

「それで隔離……ふむ……」


 どこか考える様なアリスの視線。もちろん俺は死ぬつもりも予定もないので気楽なものだ。死んだらどっかの誰かさんが悲しむしな。


「兄さんにとってのクラスメイトって?」

「クラスメイトだろ」


 教室を共有する人間。他に何が要る?


「にゃは。やっぱり兄さんは兄さんでした」


 嬉しそうだね、お前。


「兄さんの同情を買うのは私だけで十分ですし」

「それもそれでどうだかな」


 嘆息。だがまぁその独占欲は嫌いじゃない。アリスのアリス足り得るは、ブラコンの極北にあるとは思っている。とはいっても過ぎた薬は毒にも為れど。


「しっかし鬼ね。こうも容易く出くわすと、ちょっと現実疑うな」

「兄さんは下してきたじゃありませんか」

「今までは。偶然ね」

「それも兄さんの能力の範囲内でしょう?」

「さてどうだか。綾花と出会ってからちょっと何と言っていいか分からない状況に置かれたのも否定能わず……」

「それは……そうですけど……」


 アリスも同じ事を考えていた様だ。単に面倒と思っている俺とは違い、アリスの場合はヨハネの危機に関して憂慮している。問題は其処に結果論として害性が存在しないことだろうか。「心配せずとも良い」では、アリスがヨハネを軽んじていると憂うのも……ある種の必然では在ろうしな。


「しかし人が一人死んだ程度でここまで大げさにやるんだから、人間ってのは摩訶不思議だなぁ……。犬や雀が葬式をやるなんて聞いたことも無いものだが」

「つまり死は文化だと?」

「そう考えるのが妥当だな。実際何も思ってないだろ?」

「そうですけど……」


 涙の一つも零れない。感動をしないと言う点で、アリスは俺と同じだった。


「さてこうなると……」

「何か?」

「土蜘蛛の動向が気になるんだが」


 アリスもそこには納得するらしい。実際問題、アリスの呪詛に鬼は惹かれる。であれば結果として俺を襲うも必然だろう。その意味で夜に外に出るのは悪手と言える。


「じゃ、帰るか」

「綾花の屋敷に?」

「死袴の屋敷に」


 死袴の血統も何を考えているのやら。


「結局、綾花が処理しないとこの件は終わらないわけですよね?」

「そう相成るな」

「で、兄さんが協力すると」

「それも然もあらん」

「兄さんはそれで良いので?」


 ヒュッと体感温度が下がった。アリスによる視線の冷たさだ。


「別に今すぐ死ね……って言われてるわけじゃないしな。単に俺を狙って鬼が現われるならルアーの変わり身程度はどうにでもなる」

「私が納得するとでも?」

「思ってないが、それを此処で結論づけるか?」


 挑発気味に視線をやると、アリスを狼狽えた。正直な奴なのは高得点。ボインも不惑に揺れる。揉みしだきたいけど、我慢我慢。


「結局私に出来る事は少ないんですね」

「まぁな」


 死者を想って泣けないなら、ソレは俺と同罪だ。


「兄さんは鬼に何か悲願でもあるんですか? とかく鬼……というか厄介事に首を突っ込んでいる様に思えますけども……」

「殊更意味は無いがな」


 其処は事実。快い日々を送りたいだけだ。


「では……っ」

「その快い日々を送るには努力が必要ってだけだな」

「兄さんは意地悪です」

「知ってるだろ?」


 ムスッとアリスは膨らむ。


「兄さんはそれで良いので?」

「別段、何を考えるでもないな。そうでもなければ不死者はやっていけんよ。俺がそうなのかは別問題として」

「兄さんは無敵です」

「ありがとな」


 金色の髪をクシャリと撫でる。


「お前がそう言ってくれる限り、俺はワンセルリザレクションを解くことをしない」

「兄さんはそれで良いでしょうけど」

「アリスはダメか?」

「ズルいです……兄さん……」


 拗ねた様な愛妹の捻くれ方。笑ってしまう。


「すまんな。どうにも性格は悪い様だ」

「それは知っています」

「恐悦至極」

「気分転換におっぱいでも揉みますか?」

「そこで下ネタに奔るのがアリスの決定的な弱点だよな。いや責めてるわけではないにしても……どこかこう、人間のモラルの範疇として」

「兄さんに揉まれると、もっと大きくなりますよ?」


 そこはまぁ、気にしない方針で。ていうか愛妹は何処に向かっている?


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