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兄さんは私の嫁  作者: 揚羽常時
意図と糸
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人の死した後


「ふい」


 安穏と吐息を一つ。死袴屋敷でのこと。総指揮が終わり、今は夜。夕餉も美味しく、質素ながらに健康を配慮されていた。さすがのアリスクオリティ。で、今は風呂。


「温泉が湧くってんだから凄いよな」

「ついでに露天風呂まであるとは」


 俺とアリスは感嘆とする。屋内風呂もあるが、どちらにせよ温泉だ。普通に考えて贅沢の極み。川の流れる初夏の夜景を見ながら、俺とアリスは風呂に入っていた。当然水着は着用済み。中々に度し難い恋慕の情よ。


「ん……ぁ……」


 俺はビキニ姿のアリスの胸に手を沈めていた。心臓に溜まっている呪詛を取り除く。浄化する。正確には治癒か。普通に考えて、その源泉が分からないんだが、先の葬式で感傷的になったのも、此処に起因するのだろう。


「はぁ……ん……」


 天城越え……ならぬ喘ぎ声をあげながら、アリスは自分の中の開放感に身を委ねていた。ちょっと何と言っていいかわからない嬌声だが、シスコンとしてはあり。無念。


 プヨンと乳房が湯面に浮いた。


「スッキリしました」

「誤解を招く発言をするな」


 頭痛。


「兄さんであれば生き返らせられるのでは?」


 いきなり何を? そう思ってしまう。


「ええと。葬式の……」

「工藤さんか?」

「それです」

「可不可なら可だな」


 人体構造に理解は無いが、俺の治癒は死者すら蘇らせる。目の前の証明が居た。


「ただ別に生き返らせても意味ないだろ」

「魔法検閲官仮説……ですか?」

「それもある」


 その気になれば、神鳴市の総合病院に突撃して、入院患者を全員健康に出来るのだが、どうしてもその気が起きない俺だった。冷静に考えると検閲が働いているのだろう。魔法が神秘とされる所以がコレだ。


「ま、呪詛持ちになられても困るしな」

「あー……」


 アリスがもう一人増える様な物だ。そんな厄介事は一人で十分である。アリスじゃなければ助ける気も沸き上がらない由。


「兄さんにとって私は特別なんですか?」

「既に言った気もするがな。普通にお前は可愛いよ。ついでにエロい。兄妹じゃなかったら例え相互の認識がなくても犯してたろうな」


 有り体に言えば、血統の問題以外はオールグリーンだ。


「避妊します故」

「そーゆー問題じゃないことは……お前も察し得るだろ。あまり俺の頭を痛めるな」

「せっかく露天風呂で青姦が出来ますのに……」


 言葉を選べコノヤロー。


「結局」


 と珍しくアリスから閑話休題。


「死んだら後の人間が続くんですよね」

「人の死した後……か」

「工藤さんとやらが何者かは……まぁいいとして……」


 俺と同じ考えらしい。


「なにかしら呪詛には為り申しまして。まして相手が鬼とも為れば……考えるに憂鬱ではございましょうぞ」

「土蜘蛛な。アレも何だかな」

「兄さんは本当に退治なさるのですか?」

「殊に事態はその方向に進んでいるな」

「綾花に任せるのは?」

「それで後手後手に回ってるんだろ」

「むー」

「いい子いい子」


 ギュギュッと抱きしめる。後頭部を優しく撫でた。


「兄さんはお人好しすぎます」

「結構欲望に直結に生きている自負があるが……」

「綾花に協力する必要がありますか?」

「有無を問うなら無いな」


 別段、俺とて鬼に積極的に関わりたいわけでもない。


「私の呪詛を取り除く必要はありますか?」

「以下省略」

「では――っ!」

「別段、何かを願って生きているわけでもないしな」


 俺は金色の髪を梳く。


「快い日々を送るには、妹には元気で居て欲しいし、鬼に煩わされることも排除したい。その点でいえば……まぁ、慈善事業の様な物だ」

「兄さんに危ない目にあって欲しくはありません」

「すでに不死身だから、その点の心配はいらんな」

「万が一……があります!」

「大丈夫だ。お前より先に死ぬ気は無い」

「兄さんはズルいです」


 うん。まぁな。ちゃっかり抱きしめることで、胸板におっぱいが押し付けられ、それが性欲に直結しているのは、ある種のズルさだろう。御本人には言わないも。


「死んだら何も残りません」

「残るさ。アリスの記憶にはな」

「ですけど、私は破滅の未来しか……」


 そこをどうこうは、俺の管轄外なんだが。フォローする分には俺の領域としても、精神的な呵責は、あまり上手いことが言えない。とはいえ、アリスにヨハネが必要なのは、俺自身も覚ってはいる。


「ま……生きてりゃ露天風呂にも入れるし、川魚の塩焼きも食べられる。それで万事良しだろ。死んで灰しか食べられないなら、それはまさに地獄だ」

「餓鬼道は地獄道とは別ですけど」

「六道四生も因果の内だ」

「結局何でも無いんですね」

「テレビを付けろ。葬式なんて何処でもやっている」

「この屋敷。地デジはどうしているんでしょうね?」

「そこはまぁ突っ込むのも野暮の領域じゃないか?」


 端的に述べて、「何でも在り」には相違ないも。


「しかしコレはコレで乙だ」

「露天風呂に何時でも入れるのは強みですね」

「それだけでも死袴屋敷の居を移して正解だったな」

「兄さんの規格外さが無ければ、こうまで死袴に関わることもありませんでしたでしょうに……。いえ、責めているわけではありませんけれども」

「責めてもいいんだがな。どちらにせよ、アリスの呪詛の根源を探るには、何かを願うしか方法はない。単に目の前にあった手段が綾花ってだけだ」

「嫉妬します」

「それがお前の心の形だからな」

「兄さんは私を解放するためなら綾花に取り入るんですか?」


 ソレがどういう形を取るのかは……まぁ今後の展開次第ではあるも。


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