03章 休暇のつもり
大分、だいーぶ長い間、書いて無かったので、凄く色々忘れてます。本当に本気で申し訳無い、文章力が酷くなって無ければ良いが……
(どうも皆さん、おはようございます。七星 桜夜です。元大学生の19歳、ワケあって今かなり入り組んだ状況の日々の渦中に僕は居るワケです)
────此処は『幻想郷』、全てを受け入れる器の広い世界、とでも言うべきか。そんな(器の)"広い"世界の"広い"湖の畔に建つ真紅の洋館、『紅魔館』がある。
その紅魔館に住むのは吸血鬼、魔女、使い魔、妖精、そして人間。彼女等の中に新しい住人が一人、それは男、それは大学生、それは外来人の人間であり、実に『奇妙な存在』であった。
(あぁ、ちなみに僕が何をしてるか、知りたいですか? 知りたく無くても教えますよ。掃除です、掃除。恐ろしく末広い"この"館の、今はまだ1階の廊下でした。そんな馬鹿デカい館を掃除してます、本当、バカじゃないの?
大体、人間のやる業じゃ無いよこんなの。多分、いや絶対、半日掛かっても半分も終わらないぞ、何をやってんだよ、如何やってんだよ、意味わかんねぇよ。はぁぁ、溜め息が止まらない、止まらないよ『どっかの誰かさん』……あんたの所為だよ、"こんな事"になってるのは。あんたがこの世界に連れて来た所為でこんな目に遭ってるんだよ、ぐへぇ……)
斯くして、彼のそんな、悲惨そうで悲惨だらけのような悲惨のまんまの物語が、幕を開けてしまったのである。この可哀想な彼を、誰か哀れんでやってはくれぬだろうか。
(おい誰だ、俺を『迷える子羊』扱いする奴は。同情するなら金を寄越すよりも家に返してくれ)
「何を緩々やってるの、まだ山ほど仕事があるんだからサッサと終わらせなさい」
(無茶振りはやめてくれ、つか咲夜さん、さっきまで優しかったあんたは今、俺に厳しく当たる鬼教官ならぬ"鬼メイド"になってしまったのか? せめて咲夜さんだけは優しくあって欲しかった……)
途方に暮れながら桜夜は紅魔館で山の如く積まれた仕事を必死に、本当の意味で必死に熟し、咲夜の厳しい言葉を浴びながらも何とかやり遂げた。桜夜が今日一日の仕事を全て終えて気が付いた時には、外は夜、時計は既に『翌日』となっていた。
「き、厳しい……辛い……うぇぇぇ……。コンビニやスーパーでのバイトとはまるで違う、一言で現世の『地獄』だ、ブラックだ、アブノーマルだ。こんなのが明日もあるのかよ、死ぬって……」
相当の疲労があったのだろう、愚痴を呟いている間に桜夜は部屋のベッドに到着する事無く床に突っ伏して眠ってしまった。そんな様子をドアの隙間から見てた"誰か"は静かに七星の突っ伏す部屋に入り、仕事着のままの彼に毛布を掛けてくれた。
そのまま夜は明けて行き、いつの間にか朝を迎えた。館内の者達は次々と起きて仕事場に着いているのに、七星だけは今だに床に突っ伏したまま爆睡中である。
『七星、さっさと起きなさい、もう六時よ』
「ろくじぃ……? ろくじはまだ俺は寝てるんだってぇのぉ……。ん? 六時? もう朝ですか?」
咲夜の言葉では七星は目を覚まさず、寝言を繰り出してから今度は寝ボケだした。咲夜は腕組みをしてから七星に掛けていた毛布を容赦無く思い切り剥いだ。
「起きなさい七星! 仕事の時間よ!」
「ぬぉ!? 痛ッ痛ッ! いッたぁぁ!!!」
二度目の咲夜の大声で七星は飛び起き、慌てながら体を翻して目前に有るベッドの木製の胴体の端に左脚の脛を強打。幾らか転がりながら左脛を両手で摩りつつ悶絶の息を漏らした。
さすがの咲夜も七星の痛々しい様に表情を歪めた。痛そう──そう一言だけ呟いて、咲夜は表情を無に戻して七星に対して口を開いた。
「大丈夫? さっきは仕事と言ったけど、今日は仕事じゃ無いわ。今日はあなたの休日として過ごしなさい。さすがに昨日は新人のあなたに無理をさせてしまったから、今日だけの特別休暇よ」
えっマジすか咲夜さん──七星は安心しつつもハッキリと驚いた。昨日のようなストレスを覚悟していた七星だが、今日は特別休暇だと言う事で一気に緊張が解れたのか、溜め息と欠伸が同時に出て来た。
「じゃあ私は仕事だから、くれぐれも邪魔はしないでね」
「はい、わかりました」
メイド長、十六夜 咲夜は七星の居る部屋の扉を閉めて出て行き、仕事へと戻って行った。一方の七星は二度寝をしようと思うのだが、やっぱいいや──と言いながら館内を見て回る事にした。
ドアを開けて部屋から出ると、自分以外の誰も居ない真っ赤な廊下が七星を出迎えた。一歩踏み出せば天井は真っ赤、壁も真っ赤、床も真っ赤っか、ドアを除いた全ての塗装が赤色に染まっている。
咲夜にしろ、レミリアにしろ、七星からしてしまえば、これで生活出来ているのが異常でならない。だがこれで驚くなかれ、極め付きにはこの館、なんと『窓』が無い。
頭がおかしいとか、狂ってるとか、正気じゃないとか言われても致し方ない領域の所業なのだ。廊下に立ってから既に気分が悪された七星は逃げるように小走りで廊下を駆け抜け、一刻も早く館の外に出る事のみを考えた。
風の如く駆け抜けて真正面の大扉を押し開けた時、漸く外の明かりを体の前面に受けた。真っ赤で微妙に薄暗い館内と打って変わって、外は澄んだ空気と陽の光で満ち溢れている。
全身に太陽光を満遍なく浴びた後、深呼吸と伸びを行い、七星は心身共に非常に落ち着き、漸くの安定を得た。再び深呼吸をすると、七星の表情は緊張感の"き"の字すらない気の抜けた表情になっていた。
「ふはぁ〜凄く落ち着く……さっきまでの息苦しさが嘘みたいだ」
「本当ですよね〜。この空気に包まれて寝たいくらいですよ〜」
「本当そr……え?」
七星が両腕を広げて寛いでいると、何故か右隣りに美鈴が彼と同じポーズを執って同じように寛いでいた。顔を右に向けてその存在と姿を確認すると、美鈴は大変元気な笑顔で七星を見ていた。
「おはようございます、今日も良い天気ですね!」
「そ、そうですね!」
僅かに狼狽える七星だが、美鈴に合わせるかの如く元気を出して返事をした。すると挨拶直後に美鈴はラジオ体操のように何かの準備運動を始めた。
「よし!」
準備運動を軽く済ませて美鈴は意気込むように呟くと、大扉を出てから真っ直ぐ先に見える鉄格子門まで歩いて行く。門を開けてその先に行くと、何も言わずに門を閉めて館の外側を向き、突っ立ち始めた。
何故か気になった七星は美鈴の後を追うようにして鉄格子門を開けて美鈴と並んで突っ立ってみた。すると横の美鈴は目を閉じて合掌を組み、一呼吸間を置くと、開眼して構えを執り出した。
姿勢は低く、体そのものを右半分に逸らし、右掌を前に向けて奥に突き出し、左掌を上側にして手前に引き込む。そして下半身は右足を前にして爪先立ち、軸足たる左足は重く残すようにして膝と足首をやや曲げる。
その"如何にも拳法らしい構え"から派生する美鈴の動きは実に遅く、スローモーション映像を見てるかのような気分だった。しかしこの構えと動きこそ拳法であり、呼吸法や気功法の基礎も含めた基本の構え。
────太極拳
七星には見覚えがあった、この構えから繰り出される独特の鈍重な動き。中国武術に代々伝わる流派の一つとして、通常の武術に太極思想を織り交ぜた事でこの名が在る。
太極拳を始めてから数秒程度が流れた直後、七星は美鈴の周囲から虹色の『光』が徐々にだが溢れ出しているのを見て感じ取った。突如、美鈴は動作を中断して七星の顔を少しだけ驚いた表情で見詰めた。
「七星さん、でしたよね? 一緒にやってみます?」
美鈴の周囲に現れていた『光』は万物に必ず存在する『気』と言う力が表出した姿である。だが『気』は肉眼で目視する事は出来ず、『気功』を扱える者やその素質がある者にしか基本的には視認不可となっている。
ちなみに気功を扱う者は同じく気功を扱える者の『気』を感知出来る。熟練の度合次第では気功の素質が有る者すらも感知可能であり、その才能を見出した熟練者は素質の有る者を育て、次代に繋いで行くのだ。
故に美鈴は感知した、七星の素質を、才能を、気の視認を感知したのだ。一方の七星、美鈴の唐突の誘いの言葉に暫しの硬直後に我に返って声を出した。
「────え?」
「太極拳、一緒にやりましょうよ」
即座に七星は思う、何すか? 新しい道場への誘い方か何かですか────。思い切り彼の目の前で太極拳を披露してからの自然体で『うちの道場に入らない?』かのような口振りに七星は間違い無く勧誘と勘違いをした。
「あの〜誘ってくれるのは実に嬉しいんですけど、俺運動とか苦手なので、その……勘弁してください」
「やりましょうよ! 拳法!」
「いやあのだから俺は運動が苦手で────」
「やりますよね! ぶ・じゅ・つ!」
「────はい、やります」
なんと在ろう事か七星、美鈴の笑顔の圧力と言葉の責めに負けてしまい、潔く了承してしまった。七星曰く、この時の美鈴さんは咲夜さん同様に恐く思えた────だそうだ。
「ではまず基本から学んでいきましょう!」
「何でこうなるの……?」
続く
七星曰く、もう嫌だ────
また長い間更新しないかもしれません、ゴメンなさい