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花は花に、鳥は鳥に。  作者: まめ太
破れ鍋に閉じ蓋
51/124

8-3

 叔母の言葉を思い出す。思い出しながらで、蛇口を少しだけ捻って水を流した。

 わずかな水流でも音は響いているような気がして、焦ってしまった。

「浮気性っていうんは、これは病気や。もう一生治らへんもんや。おばちゃんの経験上で言わしてもらうけどもな。」

 泣きじゃくるわたしに、おばちゃんは暗闇の中に立って、そう言った。

「ほんとに絶対、治らない……?」

 一縷の望みも、そこにはないのかと絶望しながら、それでも聞き返していた。

 叔母が言うと、他の誰が言うよりも説得力がある。怖かった。


 おばちゃんはゆっくりと首を振って、そしてきっぱりと言い切る。

「治らんやろ。治るもんやったら、二度目、三度目なんか、あらへん。」

 答えを聞いたら恨めしくなった。

 最後の希望くらい、残してくれてもいいじゃない。

「せやけど、あんたはそれでも好きなんやろ? せやったら、もうしゃーないがな。治る、治らんの問題やない、あんた次第や。別れたないって思ううちは、一緒におったらええがな。愛想も尽きたら、そんときは、お母ちゃんのとこへ、帰り。」

 母はいつでも優しく迎えて入れてくれる。多少は文句を言うだろうけど、すぐに赦してくれる。

 その光景が、瞼に浮かんでくるようだ。

「あんたには大手振って帰れる家があるんや。せんでもええ我慢だけはしたらあかん。親に逆らった手前、帰りにくうて意地張ることもあるやろ。それこそアホらしい事や。誰もあんたを怒ってるんやないで? 心配しとるんや。そこは、間違ったらあかん。」

 母の怒った顔が目に浮かんだ。


「いらん我慢だけは、したらあかんで。もう帰れんとか、そんなんは思ったらあかん。」

 繰り返す言葉は何だか重かった。

 おばちゃんは、思ってしまったのかも知れない。

 誰の言うことも聞かず、家を飛び出しておじさんと列車に乗った夜に。


 おばちゃんの代わりの涙までが、延々と流れ続けた。胸が潰れるように痛い。


 蛇口を閉めて、かるく洗ったハンカチを絞る。

 同じ痛みを抱いて、布団に潜りこむ。

 久しぶりに、膝を抱えて丸くなった。

 寂しくて、人恋しくて、だけどやっぱり出てくるのは祐介だった。


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