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花は花に、鳥は鳥に。  作者: まめ太
城崎にて
124/124

2-6

 わたしはまた湯呑を口にあて、今度は静かにほうじ茶を啜った。

 サービスのいい旅館だ。

 お茶の質、ほんの些細な事だけで、物事はある程度まで知れてしまう。


 教えてあげましょうか、紗枝。

 紗枝が、祐介と亡くなった婚約者に申し訳ないと告げた、その言葉だけで解かってしまった事がある。


 あなたは結局、自分が一番大事だったのよ。その当時には。

 祐介の事を愛していて、婚約者の事も愛していたんでしょうけどね。

 それでも、あなたにとっては、その二人よりも自分が愛おしかったのよ。


 けれど今は違う。

 もっと大事なものが出来てしまったの。

 優香ちゃんが、あなたにとっては自分の命よりも大事なのよ。

 だから、もう祐介を以前と同じには出来ないの。

 あなたは母親になったのよ。


「ねぇ、遙香。なんとか言ってよ。わたし、間違ってるのかも知れない。こんな風に中途半端にしてたら、いずれ取り返しのつかない事になるかも知れないわ。」


 紗枝は恐れている。

 祐介と優香ちゃんが、男女の関係を持つかも知れない事を。

 かつての自分と同じ苦しみを、自分はもう慣れてしまったその痛みを、自分の娘が差し引き無しで被ってしまう事を、怖れている。

 祐介が紗枝に与えた物の一番は、愛することの苦しみだったのだから。


「遙香。わたし、やっぱりちゃんと祐介と別れた方が良かったのよね? そうでしょう?」


 わたしが頷けば、あなたはわたしの言葉を言い訳に先へ進めるというの?


「ねぇ、紗枝。思い出さない? いつだったか、紗枝のお母さんがさ、祐介と紗枝を別れさせようとして、わたしに頼んだ事があったでしょう。もちろん、おばさんはそんなつもりはなくって、ただ紗枝を説得して欲しいっていうだけのつもりで。」


 祐介とああいう事になったのは、おばさんのせいじゃないけど。

 紗枝は思い出したみたいで、途端に苦い顔を作った。


「もうずっと昔の話じゃない、遙香。わたし、もうあんな事気にしてないわよ。」


 傷付いた顔で、紗枝は言う。

 傷付いたのは、親友であるわたしが紗枝を傷付けたからね。

 祐介は関係ないのよ。今、解かったわ。


 わたしは紗枝とは逆に内心で喜んでいた。



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