↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/11

勇者二人で、初仕事

 翌朝、必要な署名が揃った。


 神崎さんは大型魔獣を倒して救助路を開ける。美奈さんは重傷者だけを治療する。予定にない仕事は、その場で本人が了承した時だけ頼める。美奈さんが無理だと判断したら、治療はそこで終わりだ。


 最後に俺が《契約保証》を掛けると、契約書の縁を青い光が走った。


「よし。行くぞ」


「ギルド長も行くんですか」


「六十七人が閉じ込められて、A級を二班出してる。俺が座ってる案件じゃない」


「俺まで必要です?」


「初めて組む契約だ。現地で話が違った時、条件をまとめた本人がいた方が早い」


「戦えませんよ」


「知ってる。後ろにいろ」


 北鉱山までは馬車で半日だった。


 坑道前の広場では、担架を運ぶ通路と救助班が入る通路が分けられていた。補強材を抱えた鉱夫が中へ入り、空になった担架が逆側から戻ってくる。広場の端には臨時の治療所ができていた。


 救助本部の机には坑道図が広げられていた。


「朝までに七人は出しました。残りは六十人です」


 現場責任者が第二採掘区を指した。


「三十一人。ここは救助を続けています。問題は第三です」


 指が、第三採掘区へ続く連絡坑の手前で止まった。


「旧積み替え場の奥に大型魔獣が居座っています。岩甲竜。六メートルほどです。救助班が二度入って、二度とも押し返されました」


「今出ている重傷者は?」


 美奈さんが聞いた。


「七人です。骨折と軽傷も出ています」


「重傷者を先にください。一般治癒で足りる人はそちらへ」


「分かりました」


 現場責任者は神崎さんへ向き直った。


「第三へ行くには、旧積み替え場を通るしかありません。岩甲竜を排除できれば救助班を入れます」


「倒していいんですよね」


「お願いします。ただ、坑道を揺らすような攻撃は避けてください。天井を落とされたら、奥の二十九人まで埋まります」


「了解です。坑道には当てないようにします」


「そうしてください」


 神崎さんは聖剣の柄を握った。


「行ってきます!」


「気をつけて」


 神崎さんは救助班の案内役と坑道へ入った。俺とギルド長は救助本部に残った。



 案内役は、旧積み替え場へ続く連絡坑の手前で止まった。


「この先です。積み替え場を抜けた奥にいます」


「ここから一人で行きます」


「分かりました」


 神崎は聖剣を抜き、一人で先へ進んだ。


 連絡坑は剣を振るには足りる幅がある。ただ、《身体強化》を乗せて壁ごと叩くには狭すぎた。全力でやれば、魔獣より先に坑道を壊す。


 奥で岩が砕けた。


 灰色の頭が現れ、四本脚の巨体が突っ込んでくる。背中から頭まで岩を重ねたような甲殻に覆われ、角が壁を削るたび石片が飛んだ。


「来た!」


 角が届く寸前で壁際へ跳び、すれ違いざまに首へ剣を振り抜く。


 刃は弾かれた。手首まで痺れ、甲殻には白い傷が一本残っただけだった。


「硬っ」


 岩甲竜は走り抜けた先で身体を捻り、太い尾を振り戻した。


 神崎は聖剣で受けたが、勢いを殺しきれない。足が浮き、そのまま古い木箱へ叩き込まれた。


 割れた板を押しのけて立ち、肩を回す。痛みはあるが、動く。


「思ったより強い!」


 岩甲竜が向き直る。


 今度は神崎から距離を詰め、頭の甲殻へ斬りつけた。返す刃でもう一度、同じ場所を叩く。


 二撃目で甲殻の表面が欠けた。


 その直後、頭上の支柱が軋んだ。砂がぱらぱらと肩へ落ちてくる。


 三撃目は振らなかった。


「ここはダメだな」


 倒せないわけではない。場所が悪い。


 神崎は岩甲竜を正面に置いたまま下がり、旧積み替え場まで誘った。荷を積み替えるための空間だけあって、連絡坑より天井が高く、支柱も太い。


「こっち!」


 剣の腹で甲殻を叩くと、岩甲竜が頭を下げた。


 さっきと同じ突進。


 今度は首ではなく、巨体を支える前脚を待つ。


 角を斜めに外した瞬間、前脚が目の前へ踏み込んだ。甲殻は脚の途中で切れている。


 そこへ聖剣を振り下ろした。


 血が噴き、前脚が折れる。巨体が前へ傾き、倒れまいと持ち上げた首の下で甲殻の継ぎ目が開いた。


「そこ!」


 踏み込んで、喉元へ聖剣を突き込む。


 岩甲竜が暴れ、尾で運搬台車を弾き飛ばした。神崎は剣を抜かず、引きずられながら腕ごと横へ振り切る。


 刃が喉元を裂いた。


 前脚から力が抜け、巨体が崩れた。尾が一度だけ地面を打ち、それきり動かなくなった。


 神崎は息を吐き、聖剣を抜いた。



 坑道の入口から冒険者が出てきた。


「岩甲竜、討伐! 第三へ入れます!」


 現場責任者がすぐに指示を出した。


「確認班を先行! 救助班は確認が終わり次第入れ!」


 待機していた救助班が動き出す。


 しばらくして神崎さんも戻ってきた。服と髪に木屑がついている。


「怪我は?」


「大丈夫です。ちょっと飛ばされました」


「ちょっと?」


「木箱一個分くらいです」


「それ、ちょっとですかね」


「壊した分、弁償した方がいいですか?」


「そっちの心配?」


 神崎さんは自分の肩を回した。


「動くんで」


 入口横の治療所では、美奈さんが運ばれてきた七人を振り分けていた。


「この人は私。次の人は一般治癒へ」


 一般治癒術師が担架を引き取り、美奈さんは次の重傷者へ移った。


 昼過ぎ、第二採掘区の三十一人が全員出た。


 第三からも救出が進み、残り四人になったところで、坑道の奥から声が上がった。


「落盤!」


 担架が一台運び込まれた。救助に入っていた鉱夫が、腰から下を崩れた岩に挟まれたという。


 美奈さんは呼吸と出血を確かめ、すぐ両手を当てた。


「この人は私がやります」


 白い光が強くなり、途切れかけていた男の呼吸が落ち着いた。


「よかった……!」


 美奈さんは笑った直後、力が抜けたように近くの椅子へ座った。


「今日はここまでです」


「了解。ここからは一般治癒と搬送で回す」


 日が落ちる前に、第三採掘区の最後の四人も坑道から出てきた。


 朝までに救出された七人を含め、六十七人全員が生きて帰った。


 帰りの馬車では、神崎さんも美奈さんも途中から寝ていた。


 王都へ戻ったのは夜だった。


 冒険者ギルドで完了報告に署名し、金貨百二十枚の精算をする。アーデル商会と共同診療所への勤務補償、二人の危険手当、馬車代と現場経費を引き、残りが俺の調整手数料になった。


 契約書を鞄へしまおうとすると、ギルド長が言った。


「ケイスケ。次から人選も頼めるか」


「人選?」


「今回は俺がレン殿とミナ殿を知ってたから声を掛けられた。でも次も、必要な人間を全部知ってるとは限らん」


「こっちは『大型魔獣を一体』『重傷対応を一人』みたいに、必要な役目と人数を伝える。誰をどこから借りるか、お前が探して条件をまとめろ」


「本人と勤務先が了承すれば」


「その確認も込みで頼む」


「条件が合わなければ出せませんよ」


「それでいい」



 店へ戻り、今日の金を帳簿につけた。


 いつもの転職仲介の欄へ書きかけて、ペンを止めた。


 神崎さんも美奈さんも、職場を変えたわけではない。


 最初に《勇者派遣》と書きかけて、やめた。


 少なくとも、美奈さんには怒られる。


 帳簿の余白に線を一本引く。


 《スポット契約・人員編成》


 これなら大丈夫だろう。


 そこへ今日の手数料を書き込んだ。


 帳簿を閉じようとしたところで、鍵を掛けた店の扉が内側へ開いた。


「……はい?」


 扉の向こうに、いつもの路地はなかった。


 赤い絨毯と白い石壁は、王城で見たものと同じだった。


 男が一人、向こう側から顔を出した。


「すみません」


「はい」


「ここ、サエキ職業紹介所で合ってます?」


「合ってますけど」


「良かった」


 男が店へ入ると、扉が閉じた。俺が開け直すと、向こうはいつもの路地に戻っていた。


「予約なしでも、転職相談できます?」


 《転移門》の勇者、大橋拓海(おおはしたくみ)だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。