Stage2-5 見えざる敵。
(グサッ)
優の双剣が最後の Ironfang Guard Dog の急所を貫く。
「ギャウッ――!」
断末魔とともに、最後の Ironfang Guard Dog のHPがゼロになる。
次の瞬間、その巨体は無数の光の粒となって爆散し、跡形もなく消滅した。
辺りを満たしていた唸り声は途絶え、屋敷には静寂だけが戻る。
その静寂を破るように、目の前にリワードウィンドウが表示された。
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REWARD
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▼Items
・鉄牙 ×3
・番犬の毛皮 ×6
・番犬の牙 ×6
・獣核 ×1
▼Currency
・600 コイン
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野犬討伐のリワードを確認する。
(僕が倒したのは三体……報酬はこんなものだろう。)
それよりも、今回の戦闘で一番印象に残ったのは優だった。
戦場を縫うように駆け抜け、僕たちの攻撃の隙間へ自然と入り込む。
そして、野犬が体勢を崩した一瞬を逃さず急所へ双剣を突き立てる。
その動きには一切の迷いがなかった。
全部で二十体ほどいた Ironfang Guard Dog のうち、半分近くは優が倒したのではないだろうか。
新たに手に入れた双剣の性能ももちろんある。
だが、それだけじゃない。
優自身が、双剣という武器を驚くほど使いこなしていた。
「グッジョブ、優!」
「さすが俺っちが認めた男にゃ! 見事な剣技だったにゃ!」
僕とダルタニャーに褒められた優は、
照れくさそうに笑った。
唸り声が聞こえなくなったことに気付いたのか。
それとも、システム側で野犬の討伐を確認したのか。
理由は分からないが、重い扉がゆっくりと開き、執事がこちらへ姿を現した。
後ろにはもう一人誰かいる
「おお! もう討伐されたのですね……。
皆様、ご紹介します。
こちらの方がこの館の主、レッグホーン男爵様です。」
レッグホーンは筋肉隆々のあまり貴族っぽくない人物だった。
「いやお見事、お見事。レッグストロングがよこすだけのことはある。」
とレッグホーンは笑う。
「ご苦労。これが今回の報酬だ。」
今回の報酬を受け取る。
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QUEST REWARD
・5,000 コイン
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ふと空を見上げると、いつの間にか日は傾き、辺りは夕暮れに染まっていた。
屋敷の窓には暖かな灯りがともり、建物の中では使用人たちが忙しそうに夕食の支度をしている姿が見える。
つい先ほどまで獣の唸り声が響いていたとは思えないほど、穏やかな光景だった。
「じゃ、街に戻るか!」
樹の一言を合図に、僕たちは再び重い鉄門をくぐり、屋敷を後にした。
辺りはすっかり夜の闇に包まれていた。
それでも石畳の道沿いには街灯が等間隔に並び、暖かな灯りが街を照らしている。
おかげで足元に不安はなく、僕たちは穏やかな空気の中を歩いていた。
「レッグストロングへの報告は、明日でいいか……。」
「そうだね。もう夜だし。」
「まあ、NPCだし何時に行ってもいそうだけど。」
樹、優、聡は、今日一日の出来事を振り返りながら他愛もない会話を続けている。
「もう少しで町の中心部にゃ! 今日は宿屋でゆっくり休むにゃ!」
「オッケー! あー疲れた!!」
長かった一日も、ようやく終わろうとしていた。
あと少し歩けば宿に着く。
柔らかいベッドに飛び込み、何も考えず眠れる――
そんなことを考えていると…
(シュバッ――)
突然、四人のフードを被った人影が僕たちの前に現れた。
一瞬で身の危険を察知し、剣を抜いて戦闘態勢に入る。
「お、お前たち何者にゃ!」
ダルタニャーが声を張り上げる。
「銃士見習いの者たちよ――我らと共に来てもらおう。」
フードの男の一人が、片手剣をこちらへ向けながら静かに告げた。
「お迎えにしては、ずいぶん乱暴だね。」
僕も剣先を男へ向ける。
「そんな態度じゃ、大人しく付いて行く気にはなれない。」
「……ならば。」
男はわずかに口角を上げた。
「少し痛い目を見てもらおう。」
(パチンッ)
男が指を鳴らした瞬間、残る三人が音もなく動く。
一瞬で僕たち五人を包囲した。
その動きに合わせ、全員が円陣を組むように陣形を取る。
その時だった。
雲が月を覆い、辺りが一瞬だけ闇に沈む。
「――!」
次の瞬間。
四人のフード男が、一斉に飛び掛かってきた。
ガキィンッ!!
僕はリーダー格の男の剣を受け止める。
(重い……!)
これまで戦ってきたモンスターとは違う。
相手は人間のように剣を操り、隙を探りながら攻めてくる。
データで作られた身体のはずなのに、背中を冷たい汗が伝う感覚があった。
鍔迫り合いになる。
力は――ほぼ互角。
(押し切れる……!)
そう思った、その時だった。
フードの奥で、男が笑った。
「!」
男の左手が腰元へ伸びる。
剣を握っていないはずのその手が、小さな何かを抜き放った。
(キラリ)
街灯の光を反射した、それは金属。
次の瞬間――
ヒュッ。
頬を何かが掠めた。
HPバーがわずかに減少する。
(飛び道具……!そんなものもあるのか!)
(距離を取ると向こうの思う壺だ。このまま懐に張り付く!)
剣を押し込み、そのまま男を壁際まで追い詰めようとする。
その時――
「サポートアート――《威風堂々》にゃ!」
ダルタニャーの声が響く。
次の瞬間、視界の端でHPバーの横に十字の紋章が灯った。
(……なんだ、このアイコン?)
「玲、それ――」
優が何かを言いかけた、その瞬間だった。
男は剣からふっと力を抜き、僕の斬撃をするりと受け流す。
「っ!?」
体勢を崩した僕はそのまま壁際まで押し込まれ、背中を強く打ちつける。
完全に形勢をひっくり返された。
(くそっ……こうなったら!)
右足に力を込め、男の股間めがけて思い切り蹴り上げる。
「ぐっ……!」
急所にまともに入ったらしく、男は顔を歪めて股間を押さえながら数歩後退した。
「フン、この世界でも男の急所は同じらしいね!」
(今!)
再び距離を詰め、スキルアタックを発動しようとした――その瞬間。
ズシリ。
まるで全身に鉛でも巻き付いたかのように、身体が急激に重くなる。
「なっ……!?」
振り上げた剣は途中で止まり、発動しかけたスキルも霧散するようにキャンセルされた。
(なんだ……!?)
嫌な予感がしてHPバーの横へ視線を向ける。
そこには、さっきまで白く輝いていた十字の紋章が、青黒い逆十字へと変わっていた。
(逆十字……?)
(まさか……これ、デバフなのか?)
(でも、なんでだ……?)
僕の身体の動きが鈍くなった、その隙を狙って男が一気に踏み込んでくる。
(やばい……!)
次の瞬間。
ギィンッ!!
僕と男の間へ、小さな影が滑り込んだ。
「しっかりするにゃ、従者!」
「ダ、ダルタニャー!?」
ダルタニャーは男の剣を受け止めると、そのまま軽やかに後方へ跳び、僕との間に割って入る。
周囲へ視線を向ける。
優、樹、聡はそれぞれ別のフード男と渡り合っていた。
どうやらデバフを受けたのは僕だけらしい。
(くそ……早く動かなきゃ……!)
その間にもダルタニャーは縦横無尽に駆け回る。
真正面から打ち合うのではなく、敵の足元へ潜り込み、爪で牽制し、隙を見て短剣を弾く。
「チッ……!」
リーダー格の男が一歩退く。
そして、叫んだ。
「おい、引き上げだ!」
四人は息を合わせたように一斉に距離を取り、撤退態勢へ移る。
「待て!」
樹が剣を構えたまま叫ぶ。
「お前ら、一体何者なんだ!」
フードの男は一瞬だけ足を止めた。
月明かりの下、フードの奥からこちらを見据え――
「……。」
何も答えない。
「行くぞ。」
その一言だけを残し、四人の姿は夜の闇へ溶けるように消えていった。
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フードの男たちを退けた僕たち(僕以外)は、周囲を警戒しながら宿屋へ滑り込む。
「さっきの奴ら、一体何だったんだ……急に襲ってきやがって。」
樹が憤ったように吐き捨てる。
「恐らく……チェリー卿の手下にゃ。」
「「チェ、チェリー卿?」」
僕と樹の声がぴったり重なった。
「そうにゃ。この国の実権を握ろうと暗躍しているって噂の人物にゃ。
卑怯な手を使うことで有名な悪党にゃ。」
「なるほど……黒幕候補ってわけか。」
聡が腕を組みながら答える。
「でも、そんな大物が銃士見習いの僕たちを狙う?」
「た、確かににゃ……。」
聡の疑問に、ダルタニャーも首をかしげる。
「理由は分からないけど、今後も襲われる可能性はあるね。」
優が真剣な表情で言う。
「だな……。ていうかさ。」
「「チェリー卿!?」」
再び僕と樹の声が重なる。
「なんかシンパシー感じちゃうな…」
「それな!俺戦えるかな…」
「馬鹿が二人…」
聡に呆れられてしまった。
脱線した話を戻し、気になったことを話題にする。
「っていうか、さっきのスキルは何なわけ?」
なんか体が重くなって
あやうく死ぬところだった!とダルタニャーに詰め寄る。
「あれはサポートアートにゃ!」
「サポートアート?なにそれ?」
「簡単に言うと、同じギルトのメンバーにバフをかけるスキルにゃ!」
ダルタニャーはえっへんと胸を張りながら説明する。
「あの~僕、デバフを受けて危うく殺されるところだったんですけど…」
「俺っちのサポートアート《威風堂々》は騎士道を持って戦うメンバーにはバフをかけ、
卑怯な手段を使うものにはデバフをかける能力なんだにゃ!
玲、お前なにか卑怯な攻撃を相手にしたんじゃにゃいか?」
「卑怯な攻撃…
うーーーん」
「してない!!」
一条玲は清廉潔白な人間!そんなことをするわけがないのだ!
「玲さ。」
聡がじっとこちらを見る。
「うん。」
「フード男に壁に追い詰められた時、相手の股間を蹴り上げてなかった?」
聡は戦い中も僕の様子を見ていたようだ。
「したよ。」
「それにゃ!」
「え!?そんなことで?」
「相手の急所を狙い撃ちするなんて、銃士の風上にもおけないにゃ!
デバフを受けて当然だニャ!」
「嘘…僕にとっては相手の弱点を攻めるのって当たり前の事なんだけど…」
「はぁ~やっぱりお前は所詮従者だにゃ」
(クソ猫……このクエストが終わったら剥製にしてやる……)
「玲の戦い方は身体に染みついているものだもんね、仕方ないよ。
というわけで、ダルタニャー、悪いんだけど僕らといる時は《威風堂々》は使わないでもらえるかな?」
優が僕のフォローをしつつ、ダルタニャーにお願いする。
「はぁ~、優が言うなら仕方ないにゃね」
こうして僕がギルドにいるうちは、ダルタニャーのサポートアートは封印されることになった…
(卑怯者でごめんね!!)
先ほど襲ってきたフードの男たちの正体は結局はっきりしなかったが、
必ずギルド全員で動くこと、なるべく夕暮れ時はで歩かない!という対策をたてて
今日の活動は終了することにした。
時刻は23:57分
(あと3分か…)
時計が24:00になった瞬間、ポップアップが表示される。
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SYSTEM NOTICE
受験者総数
215,389
有効受験者数
191,459
不適合者数
23930
ーーーーーーーーーー
日付が切り替わると同時にポップアップされる不適合者数。
今日一日で75人脱落した。
―――まあ、僕達が無事ならそれでいいけど――――
こうして楽園での1日はまた過ぎていく…
第6話に続く…




