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1-22 神の雷撃

祐は目を見開く。


そこには、なぜかその場にいないはずの霊獣が祐に飛びかかり、今まさにその蹄が祐の首を掻き切る寸前だった。


「なっ!?」


祐は反射的に体を仰け反って避け、そのまま強引に風を床に噴射して飛び上がる。

そして霊獣と距離をとりつつ着地する。


「っぶね……」


空中にいた霊獣もそのまま着地し、腰を低くしてこちらを睨む。

どうやらこいつらはある程度距離を取ると、冷戦状態になって様子を伺う性質があるようだ。

元の性質なのか、誰かに調教された動きなのかは分からない。


だが、今はそんなことよりも


「…………どういう事だ」


あの時、地上にいた奴らは全員倒したはず。

あの状況で背後に霊獣がいるわけがない。



……………いや、待て。


それ以前に。


「お前ら…………何か、多くね?」


第三の眼では違和感程度にしか感じなかったが、遠目で見た今なら、はっきりと分かる。

ざっと見ても20体以上。

今まで倒した霊獣と明らかに数が合わない。


…………これはまさか、


「あそこから………再生するのか!?」


見ると、霧散した跡であろうゲル状のドロドロした物体が一点に集まるように(うごめ)いている。

やがて大きな塊になった物体は、生物めいた形に姿を変え、完全に霊獣の原型を取り戻す。


「おいおい…………無理ゲーだろこんなの」


【嵐操】による攻撃手段は全て尽きた。

刺突も、斬撃も効かない。

霊力を使う媒体霊術すら通用しない。


「こいつらどうやって倒すんだよ!」


考えろ。

考えろ。


このまま何も考えずに戦えば、ただ霊力を失い続けてジリ貧だ。

何か対策しなければ………


…………………。


「……………待てよ」



この状況。


もしかすると、相当まずいかもしれない。

勝つ(すべ)が見つからないというのもそうだが、それ以上にこの立ち位置(・・・・)がまずい。


さっきまで俺は結束達に背を向けて霊獣と向き合うことで両者の間を阻むように立っていた。

だが霊獣の思わぬ再生により俺と結束達の間に敵がいる状況になってしまった。

さらに予期せぬ奇襲に対して、霊獣から囲まれることを避けるために無理矢理飛んで避けてしまったことで結束達と相当距離が離れた。


霊獣は、何か目的があって俺を標的にしているわけではない。

俺が彼女らを守るように立ち回っていたからこそ、目の前にいる俺だけを狙っていた。


だが、今の状況だと…………




そう思った矢先、霊獣の何匹かが結束達に視線を移し、焦点を合わせるようにギョロギョロと虹色の瞳が動く。


「ゆ………結束様………これ、まずいんじゃっ」

「くっ…………まだ、霊力が回復しきれてな……」



瞬間、霊獣達の瞳が結束達を捉え、瞳の動きが一斉にピタッと止まる。


ガアアアア!


と、空間が歪まんとするような雄叫びとともに、霊獣達は彼女らに向かって襲いかかった。


「ひいっ!」

「っ!」


結束達は立ち上がることすらできない。

ただ、目の前の恐怖にぎゅっと目をつぶる。


「くそっ!結束ぁっ!」


祐は右手を大きく振りかぶり、右腕だけに霊力を集中させる。

ドゥッ!と今までにないほどの暴風を渦巻かせ、急激に変化する気圧に腕が圧迫され、回転方向に()じ曲がる。

皮膚が所々裂けては出血し、腕が引きちぎれるほど痛い。


「っ!」


が、祐はそんなことは気にもせず霊力を込め続けた。


「おいユグ!もっと力を寄越せええええっ!」


その凄まじい豪風は周りの塵や瓦礫を巻き込み、大きく、なおかつ一点に収束していく。


そして祐は左足で一歩前に踏み出し、体が回転せんばかりの勢いで右腕を大きく振るった。


「そいつらに………触れんなああああっ!」


そこから繰り出された風は刺突攻撃にもかかわらず射線付近の霊獣達を吹き飛ばし、結束達を狙う霊獣を貫きながら薙ぎ払っていく。


一旦、結束達を襲おうとした霊獣達は無力化された。


どうせまた再生されるだろうが、時間は稼げた。

今のうちにまた結束の元へ戻って体勢を立て直せればとりあえずはあいつらを守れる。


「はあっ、はあっ………っし、これで………」


結束達は目を開ける。

霊獣が散り散りになった目の前の光景に一瞬安堵の表情を浮かべるが、祐に視線を移すや否や結束は目を見開いた。


「祐っ!上!」


その言葉に祐は顔を上げる。


「っ!?」


見上げると、頭上から10体以上の霊獣が祐に向かって襲いかかってきていた。


結束達を襲っていた奴らとは別の霊獣だ。

彼女らを助けるのに必死で気づくことが出来なかった。


「くそっ!」


まずい。

大きく拳を振るったせいで体勢を戻すのが間に合わない。

後ろに飛んで逃げようにも大技を放ったばかりですぐには霊力を右腕に込められない。

こいつらの奇襲を、回避することができない。





視界に映り込んだ結束は泣きそうな顔でこちらを見ていた。




「………………っ」




くそ。


やっぱり、無理なのか。

俺はここで死ぬのか。



敵の動きがスローモーションに見えるような錯覚がある。


恐怖が。


無慈悲な現実が。


死が。近づいてくる感覚が、ある。




「………………くそ、もう……」



終わりだ。



霊獣の蹄が祐にのびる。


そのまま首が掻き切られ…………













「…………う〜ん、まあまあかな」




突然、そんな声が頭上から降りかかった。


いや、声だけではない。



雷の形を象った、深緑色の異様な物質。

その物質が頭上から無数に降り注ぎ、ドドドドッ!と霊獣の群れを次々と打ち払っていった。


それだけではない。

貫かれた霊獣の体は祐の刺突攻撃の時のようにゲル状に霧散するのではなく、昇華するように体が煙霧化し、消滅していったのだ。


「え…………」


今まで脅威として見ていた霊獣達があっさりと消えていく様を見て、結束達は顔を上げたまま呆然としている。


祐も一瞬目を見開くが、その光景を見て、それが誰の仕業なのかが分かる。


「………おっせんだよ、まじで」

「ごめんねえ。まさか祐がこんなに苦戦してるとは思わなくて、歩いてきちゃった」


相変わらずの、板についた様なヘラヘラ顔。

神崎恭也だ。


さっきの異様な現象は全て恭也の能力だ。


危ない所を助けてくれてありがとうと言う気持ちと、この状況で能天気に笑うムカつく顔をぶん殴ってやりたい気持ちの半々で、なんとも複雑だ。


「冗談じゃなくて。まじで死にかけたぞ」

「うん。見りゃわかる。でも助かったからいいじゃない。終わりよければ全てよし〜」

「いや、よくはないだろ。折角の霊獣を全部消滅させちゃって。これ、なんて報告するんだよ」

「そりゃまあ、ありのままを報告するしかないだろうね。霊獣が現れたけど強すぎて体を持ち帰る余裕はありませんでしたよって」


恭也は呑気に笑っているが、そんな話が通るかどうか。

霊獣の性質を考えると恭也の能力は『霊獣メタ』と言っていいほどに相性がいい。

そして、恭也の能力は委託元にバレていると言っていた。

苦戦したと言って信じてもらえるとは思えない。


果たして、祐の存在を隠したまま今回の件を報告することができるのか。


「……………」

「安心しろよ。お前を巻き込むつもりは毛頭ない。それに霊獣(こいつ)、霊能力使ったっぽいし、霊力の残滓が残ってるはずだ。それでも十分な成果だよ」

「………………そうか」

「うんそう。……………それにしても」


恭也は祐から目を逸らし、周りを見渡した。

それを見て、祐も目の前の光景を見る。


「…………随分と派手に暴れたねえ」


大穴の空いた天井。崩落した壁。散乱している瓦礫。

クレーターのような窪みもそこら中にボコボコあいている。


戦闘中はそんなことに思考を割く余裕はなかったが、確かにたった一度の戦闘とは思えないほどの惨状だ。



「…………暴れたのはほとんど霊獣だ。あと………あいつ」

「………ん?」


祐が前を指差し、その向く先を追うように恭也は視線を遠くに移す。


「………あれま。まさか他の人がいるとはね」

「……………あんまり驚いてないようだな」

「いやいや、驚いてるよ。もうね、目ん玉すっごい飛び出たよ」

「………そうか。何回飛び出た?」

「3回」

「そりゃ、驚いてるな」

「でしょ?」

「そんなことはどうでもいいから、あいつらと話しに行くぞ」

「おーいおい、珍しく茶番に付き合ってくれたと思ったらすぐ突き放すじゃん。そーいうプレイ?」

「そ」

「そうなのかよ」

「いいから行くぞ。あいつらには能力を見られた。俺もお前も。………話す必要が、ある」

「まあそだねー、だけど、そこら辺は祐に任せるわ。俺は霊力の回収作業があるから」


そう言って恭也はポケットから、昔の携帯電話のようなものを取り出す。

シルバーと紫を基調としたツートーンカラーで折り畳まないタイプの小型機器。

ボタンはテンキーの代わりに様々な漢字が篆書体(てんしょたい)で書かれており、不規則に配置されている。

そして画面部分には細長い霊符が包帯のようにぐるぐると巻かれていた。


見るからに怪しい代物(しろもの)だが、祐はそれが何なのかぐらいは知っている。

簡易的な霊力性質測定機器だ。

測定機器といっても実際は霊力の性質を漢数字と漢字の文字列に変換して保存する、記憶媒体だ。

これを持ち帰って調べることで実際に現場に行かなくても詳細な研究データが得られる。

これの開発によって研究者が直接現場に出向く必要がなくなっただとか。


「……いつの間にそんなもん手に入れたのか」

「うん。確か、祐と2人暮らししたあたりに買ったかな〜」


なんてことを言う。

あの時は仕事もせず二人して無一文だったはずだ。

つまり……


「俺の金じゃねえか!」

「いやいや、その言い方は良くないよ。祐のご両親の遺産だろ?」

「どっちにしろお前が好きに使っていい金じゃねえ!」

「おけおけ、じゃあ俺は調査してくるから祐はお話してきな」

「何がおけおけなんだよ!」


はあはあ、と数秒息を切らした後、これ以上突っ込んでも意味がないことに気づき、毎度同じようにため息をつく。


「はあぁ〜〜…………行ってくるわ」

「ほい」


祐は恭也に背を向けて結束達の方に向かって歩き出した。

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