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1-16 探索

調査を始めて約3時間ほど経過し、現在東棟3階。


「…………これ、本当にこの病院にいんのかよ」


霊獣の大きさが分からないので、今に至るまで病室の引き出しやゴミ箱の中など細かいところまで調べて回っているがびっくりするほど何もない。


どこかを探るたびに錆や腐敗汚れに触れなければならないので今のところ手が汚くなっていくだけだ。


「めんどくせえなあ………てかこれ、六神符じゃダメなのか」


あまりのダルさについ愚痴をこぼしてしまう。

六神符で霊獣が見つかれば一発なのだが、おそらく無理だろう。

霊力を持っているなら、それが物だろうと人間だろうと化け物だろうと六神符の探知に引っかかるのだが、霊獣の元の姿であろう『霊』は人に憑依していない状態だとなぜか霊符では探知できないのだ。

人の目に見えるようになった霊獣が探知の対象になるかは分からないが、貌淋符を解呪するリスクを負ってまで試す価値はない。

つまりはこの病院内全てを肉眼で見て回るしかないわけで。


「…………はあ。これ、2人がかりでも夜が明け……」


が、そこで祐は言葉を止める。

どこからか声が聞こえたような気がしたのだ。


「…………気のせいか?」


祐は立ち止まり、耳を澄ませる。


…………………。


………気のせいでは、ない。

微かにだが、確かに人の声がする。


恭也ではない。

ここは東棟の端だ。いくら恭也がバカでも西棟からここまで届くほどの声は出さないだろう。


「…………めんどいけど誰か確認しとかないと恭也(あいつ)なんか言いそうだもんなあ」


今、祐はとある病室にいる。

声はその病室に繋がる渡り廊下、さらにその奥からだ。

声の響き方からして、まだ距離はある。


祐はちゃんと貌淋符が起動していることを確認し、しぶしぶ声のする方へ近づいていく。


声が少しずつ近づいてくると声の主が女であることが分かる。

それも、1人ではない。

2人か、3人か。何種類かの声が混在している。


そして、さらに声が近づいて鮮明になっていき、はっきり聞こえるようになる。


「ち、ちょっと明音(あかね)!そんなに押さないでよ!」

「ももっも、申し訳ございませんっ、押しているつもりはないのですが、その、無意識で……」


…………………。

片方は、知らない声。

だが、もう片方は今日一日で嫌というほど頭に焼き付いた声だった。


「で、でもでも、結束様も怖がってますよね?だったら2人でくっついていた方が……」

「わっ、私は別に怖くなんてないからっ!」


……杞憂であって欲しかったが、名前まで聞こえてきてしまった。


祐は病室の扉の隙間から恐る恐る顔を出し、渡り廊下を一瞬だけチラッと覗く。


「……………」


本当に一瞬だったが、視認できた。

2人の人影。

そのうち一人は残念ながら想像していた人物だった。


「なんで如月結束(アイツ)がここにいるんだよっ」


祐は叫びたい気持ちを抑えつつ、限界まで声を押し殺して呟く。

そして同時に、まずい、と思う。


彼女らがここにいる理由は分からないが、もしこの部屋に入られたら見つかってしまう。

扉から出れば当然見つかるし、この病室には隠れられそうなスペースはない。

窓も錆びきっていて開けられない。

強引に開けたり、ガラスを突き破って飛び降りればどちらにしろ音でバレてしまう。


完全な袋小路状態だ。

さて、どうしたもの……


「わあぁっ!」

「きゃああああ!!なに!?」


突然響いた2人の叫び声に祐は体をビクッと震わせる。


「ゆっ、結束様ぁ!い、今そこの病室の扉に人影みたいなものが!」

「ち、ちょっと!怖いこと言わないでよ!」


げっ。

十中八九自分のことだ。

祐は音を立てないようにそっと扉から離れる。


てか、今考えるようなことではないと思うが……結束(あいつ)、なんか学校の時と雰囲気違うくないか?

心を許せる従者と一緒にいるというのもあって、口調が砕けていると言うか何というか………これが彼女の本来の姿なのだろうか。


「ほら、やっぱり結束様も怖いんじゃないですかあ!」

「明音が変なこと言うからでしょ!」

「だって、本当にいたんですよ!月明かりの影が人っぽい形になってて……」

「ほ……ほんとに?」


本当に余計なこと考えている場合じゃなかった。

何かあいつら流れ的にここ入ってきそうだぞ。



ドクン、ドクンと2人の声が近くなるにつれ、鼓動が速くなる。


やばい。まじでやばい。

今あいつらに見つかったら絶対面倒なことになる。


どうか入って来ませんようにどうか入って来ませんようにどうか入って来ませんようにっ!


「ど………どうしますか、調べた方がいいですよね……」

「そっ、そうね。怪しいところは調査しておかないといけない………けど」


ドクン、ドクン

ドクン、ドクン


荒くなりそうな呼吸を抑えるように祐は右胸に手を当て、服をクシャッと掴む。


「と、とりあえず様子見ながら、隣の部屋から調べるのもありね」

「で……ですよねー!私もそう思います!そうしましょうそうしましょう!」


そんな会話が聞こえてきて、少し経つと2人の声が遠のくような、こもったような声に変わる。

おそらく、隣の病室へ入ったのだろう。


祐は止めていた呼吸を解放し、溜めていた息をゆっくりと吐き出した。


「はぁ〜〜〜、勘弁してくれ、もう」


とりあえずは一安心だ。

色々考えたいことはあるが、まずは逃げることが最優先だ。

彼女らの目的は気になるが監視するのはリスクが高すぎる。


祐は忍び足で病室を抜け、2人がいる部屋を通らずに階段を素早く下る。

2階まで降りて祐は速度を緩め、状況を整理することにした。


「………まず、なんであいつがここにいるのか」


ここは人気のない廃墟だ。

普通の人間が好んでくる場所ではない。

だが、彼女は普通ではない。霊術界の権化、如月家の人間だ。

さらに、先程の会話で調査がどうのという話が出ていた。

冷静に考えれば目的は一つだろう。


「………俺らと同じかな」


霊獣の調査。

確信は持てないがほぼそうだと見ていいだろう。


なら、次に浮かぶ疑問は結束の隣にいた少女。

明音と呼ばれていた少女。


祐は一瞬だけ顔を確認した時のことを振り返る。

茶色がかった明るい黒髪を内巻きにしており、肩に触れる程度まで伸びていた。ミディアムボブとかいうやつか。


身長は結束より低い。目算だが、結束がおよそ160cmないくらいと、女子の中では平均程度だと思われるので、多分155cm前後だろう。


少なくとも、学校では見たことがない子だった。

まだ1日しか行ってないので見かけなかっただけかもしれないが。


見たところ歳はあまり自分と変わらないようだ。

結束を「様」付けで呼んでいたあたり、従者か何かだろうか。

まぁ正直彼女に対する疑問はどちらかというとただの興味なので一旦保留しても構わない。


それよりも、今この状況で本当に一番考えるべきことは、


「………恭也の、仕事の委託元」


恭也は今回の仕事をどこから持ってきたのか教えてくれなかった。

多少怪しさもあったが、恭也がそれを秘密にしているのならと割り切り、あの時はそれ以上深く踏み込まなかった。

だが、ここに結束がいるのなら話は別だ。

もし彼女が如月の任務としてここにいるのなら、明らかな矛盾が生じる。


これは、邦霊のシステムについての話だ。

邦霊は表向きには「霊術関連のトラブルを解決するための国家的な軍政軍令機関及び軍隊」とされており、任務の担当を大きく2種類に振り分けている。

振り分ける基準は様々だがざっくり言えば、「小さい仕事」と「大きい仕事」だ。

「小さい仕事」は邦霊に属するどこかの家、もしくは邦霊が所持するどこかの軍が担当し、「大きい仕事」となると、邦霊()()の軍が動く。

邦霊はいくつか軍を所持しているが、邦霊直下の軍と言えば一つしかない。

それ以外の邦霊の軍を全て統括・管理している『軍の司令塔』、それと同時に『邦霊の最終兵器』と呼ばれる日本の最高戦力、通称〈銃身区間(バレルエリア)〉。


邦霊に直属する十の家の人間のうち、軍事に務めている者は皆この銃身区間(バレルエリア)に所属しているが、彼女は学生なのでまだ軍に名前は無い。つまり「大きい仕事」をこなすことはできない。ならば、彼女は「小さい仕事」としてこの任務を受けていることになる。

そもそも、十の家の中でも如月家の子女である彼女ならば軍に指令を下す側に回るだろうが。

そして、もし恭也が邦霊から仕事をもらっているのだとしたら、相当まずい。


「………どこかの家が如月を裏切っている」

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