第43話 ダム・ガール、魔神に完全勝利する。
「グゥゥ。ドウシテ俺ノ腕ヲ切レル? コノ身体ハ魔神。魔法ノ武具カ異界ノ物、マタハ魔法デ無ケレバ傷ツケル事ナド……」
「これ、ミスラル製の剣。一応は魔法剣じゃないでしょうか?」
切り落とされた手首を押さえ、膝を付いて苦しむ魔神。
自分をどうして傷つけらえたのか疑問を語るので、わたしは手の中の剣を指し示して簡単に答えを言う。
……ティオさまやわたしの魔法攻撃も効くだろうから、剣に注意を向かせるためにも、あえてネタバレしたの。これで剣だけ注意してくれたらラッキーね。
「オマエガ、破壊シタごーれむノ物カァ!?」
「だって、この領地のゴーレムは最終的にわたくしの物ですから。おほほ。さあ、トドメに参りましょうか」
わたしは銀色に輝く剣を、魔神に突きつける。
といって、これで簡単に敵に間合いに踏み込む程、わたしは迂闊ではない。
攻め込めば、かならず反撃を受ける。
なぜなら、魔神はわたしの挙動を油断なく見ているから。
「チ、チキショォォ! モウ、全テ溶岩ニ飲ミ込マレロ!! <溶岩噴火>!」
悔しそうな顔をしていた魔神、残っている左手を大地に着け、呪文を詠唱し始めた。
「お姉さん!」
「ええ、打ち消します。<底なし沼>!! いーっぱい」
魔神が、地面を溶岩の海に変えようとする。
それに対抗し、わたしはゴーレムをしゃがませ、左掌を地面に付ける。
そして、溶岩になろうとしている地面を、底なし沼に変化させようとした。
「ニンゲン如キノ魔力デ、魔神ノ俺ニ拮抗出来ルハズナド……」
共に土系の魔法。
そこに魔神側は炎の要素を、わたしは水の要素を加えている。
周囲が激しい蒸気で覆われる。
わたしの創った沼が溶岩の熱で蒸発しているからだ。
「ド、ドウシテ、俺ガ撃チ負ケル??」
「うぉぉぉぉ! 全部沼になれーーー!」
反対の効果がお互いに拮抗するが、わたしの方が徐々に押し勝ちだした。
溶岩はどんどん冷えていき岩になり、代わりに沼がどんどん広がりだした。
「ド、ドウシテ??」
「そりゃ、わ、わたしの魔法の方が、自然状態、に、ち、近いんだもん! 魔法の基本だよぉぉぉ」
溶岩と沼。
どっちがより不自然じゃないか、世界の常識に近いか。
魔法は前世で習った量子論的に言えば、存在確率を術者の思い通りにすること。
あり得ない状況は世界、常識からの干渉。
より「自然な状態」に戻そうとする力に対抗しなけれならない。
……だったら、火山でもない場所がいきなり溶岩になるのと、沼になるの。どっちがより自然かって話なのぉぉ!
わたしは<増幅魔法>をゴーレムの魔導回路まで使って、魔法を行使する。
魔神の魔法に打ち勝つために。
「うぉぉぉぉ!」
「ギャァ!」
とうとう、魔神の足元まで底なし沼に変貌していく。
沈んでいく足に恐怖を覚えた魔神は、悲鳴を上げる。
「ふふふ。これでわたくしの勝ちですわ。ティオさま。褒めて褒めて!」
「ええ、お姉さんは凄いです。魔神と魔法の撃ち合いにまで勝つなんて!」
わたしは、なおも魔力を呼び起こすためにティオさまの笑顔を横目で見る。
ティオさまの激励で勇気百倍になる。
「さあ、このまま倒れなさい! ニンゲン捨ててまでやっても勝てない愚か者め」
「チ、チキショォォ! ドウシテ俺ノ人生、ジャマスル奴バカリイルンダー!」
太腿まで底なし沼にハマり込み、もはや逃げる事も難しい魔神。
今更、後悔を叫ぶが遅すぎる。
「貴方が誰に踏みにじられたかは知りませんが、それでも貴方は多くの人たちの人生を壊し、踏みにじってきました。その悪夢、わたくしが終わらせますわ」
わたくしは魔法銀の剣を突き付け、宣言する。
この一撃で終わらせると。
「ティオさま、剣に<聖なる炎>を付与、お願いできますか?」
「はい、お姉さん。ボクも戦います!」
ティオさまの魔力がミスラルの剣に宿り、蒼い炎に包まれる。
「チ、チキショォ、チキショォ。ドウシテ、抜ケナイ!? オ、俺ハ飛ベルハズダァァ!」
腰まですっぼり沼にハマる魔神。
今更、背中に生えたコウモリの羽を羽ばたかせるが、時すでに遅し。
わたしの作った<底なし沼>は一度飲み込んだ得物は絶対に逃さない。
「行きます。はぁぁぁ!」
わたしはゴーレム右手に持った剣を左側へ向ける。
そして、右足を前にし、身体を捻る。
まるで、弓を引き絞る様に。
わたしは視線を哀れにもがく魔神に向け、右半身の機体を魔神に正対させた。
「は!」
そして限界までため込んだ魔力とゴーレムの膂力を一気に解放。
泥沼の上に一気に踏み込んだ。
「ふん!」
そして沼の上をすべるように滑空。
蒼く燃え盛る剣を一閃した。
「ギャ!?」
ゴーレムが一気に泥沼を踏み越え、蒼い線が魔神の首の位置を通過する。
硬い地面に着地したゴーレムを、わたしは振り返させる。
「永久に地の奥底で眠りなさい……。可哀そうな人」
「……!」
蒼い炎を断面に見せながら、ポロリと魔神の首が底なし沼に落ちる。
驚愕の表情をしたまま。
ドスン。
切断面から青黒い血の噴水を出しながら、力を失った首無し魔神の身体が沼に倒れる。
全身を蒼い浄化の炎に包まれながら。
「はぁはぁはぁはぁ」
わたしは魔力切れを感じながら、大きく息を切らす。
しかし、魔神が完全に滅びるまで油断はできない。
苦しい息の中、残心を忘れずにずっと燃え崩れ沈んでいく魔神の身体を見ていた。
「お姉さん、大丈夫ですか? ボク、お姉さんに惚れ直し、いや、もっと大好きになりました。強くて優しくて、泣き虫で賢くて、とっても綺麗で……」
「テ、ティオさま。わたくし、そんなに、び、美人じゃないですよ。暴走癖があって馬鹿な女の子。も、もっと賢くて強ければ、お義母さまも救えた筈なのに……」
わたしの頬に涙が流れる。
今日は何回泣いたのだろうか。
それでも尽きない涙の中、今日失われた命の事を思い、わたしはなお泣いた。
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