第42話 ダム・ガール、魔神と戦う。
「くすんくすん」
「お姉さん、もういいんだよ」
ゴーレムのコクピットまで入ってくれたティオさまに慰められるわたし。
もうオーギュスランを殺す気も失せた。
「姫さま。お疲れではありますが、犯人を逮捕したいので手を緩めてくださいませんか?」
「くそぉ。骨を沢山折りやがって。痛いから早く放せ!」
捕縛するための兵士さん達がわたしの駆るゴーレムの周囲に集まる。
わたしはゴーレムの膝を地面に着かせ、なおも悪態をつくオーギュスランを捕まえていたゴーレム左手をそっと下におろす。
そして握力を緩めた。
「あまいわ、クソガキどもが!」
先程まで骨折に苦しんでいたはずのオーギュスランはするりとゴーレムの左手から抜ける。
そして逃げるのかと思えば、義母が亡くなったゴーレム右掌に飛び乗る。
「確か、ここに……。あった! ふははは!! 作戦を失敗した俺にもう後は無い。このまま帰還しても、『あの御方』から死を賜るだけ。なら!」
亡き義母の衣服を漁っていたオーギュスラン。
何かを見つけ、叫びながらその「何か」を飲み込んだ。
「ぐははっはあははは!」
奇声を上げ、凄まじい妖気を放つオーギュスラン。
この妖気は、先程まで義母が放っていた物。
「まさか、お前は魔神の贄になるつもりか!?」
「ガキ公爵。俺は贄なんてならねぇ。この力を取り込み、自ら魔神になる! その為の術も準備していた。そう、いつか『あの御方』をも超える為に。俺はニンゲンをヤメルぞー!」
叫びながら、どんどん姿を変えていくオーギュスラン。
わたしは急いで右手から彼を放り出す。
そしてお義母さまを助ける為に捨てていたミスラル製の剣を拾い、バックダッシュで距離を取る。
「ティオさま。どうやら、敵討ちする必要が出来ましたわ」
「そうだね、アミお姉さん。あれは生かしては置けないや。それに、もう証言も聞けそうも無いし。ボク、ここから降りましょうか?」
わたしは、ワザと軽口でティオさまに話しかける。
そうでもしないと、魔神からのプレッシャーに押し負けそうになるから。
「そうですね。横の補助席にお座り、シートベルトをお締めくださいませんか? 今から降りる方が危険です。良かったら一緒に戦ってくれませんか、ティオさま」
「うん。喜んで、アミお姉さん」
……もう、気持ちは切り替えたわ。今は、目の前の魔神を倒す。これが本当に最後の戦い。可愛いティオさまと一緒に戦うの。
「ありがとう存じます。では、勇気を頂きますわ、チュ!」
「お、お姉さん!? 戦闘中にキスなんて……」
わたしは一瞬シートベルトを外し、ティオさまのぷっくら柔らかい頬にキスをする。
勇気を振り絞り、必ず勝つために。
「うふふ。これで百戦百勝ですのよ!」
わたしは、真っ赤になった可愛いティオ様を横目で見つつ、ぎゅっと思考制御タイプのレバーを握る。
そして、目の前の巨大な魔神を睨んだ。
「グハハハ! 成功シタゾ! 俺ハ『アノ御方』ト同ジ自我ヲ保ッタママ、魔神ニナレタノダ!!」
「あらあら。ニンゲンを辞めて、そんな邪悪な姿になったのが嬉しいのかしら? やっぱり、姑息で卑怯な小物らしいわ。おほほほ!」
わたしは、悪役令嬢らしく吠える。
敵の出方を見、隙を狙うために。
……NPO行く前に通った道場のお爺ちゃんが言ってたよね。無暗に攻撃をしても無駄だって。攻撃は必ず隙を産むから。
前世、海外に渡航する前に、父の紹介で習った護身術の道場。
そこで学んだ戦い方で、ゴーレムを撃破できた。
「俺ハ最強ダ! モウ敵ハイナイ。死ネェェ!」
ネジくれた大きな雄羊の二本角を頭の左右に生やす。
背中からは巨大なコウモリの羽。
ドラゴンのような巨大な尾。
身長五メートルのゴーレムを、更に一回り以上上回る鱗の生えた巨体。
巨木のような赤銅色の四肢。
額には燃え盛る炎色の第三の眼。
炎の息を吐く口からは巨大な牙を上下に生やしていた。
「きゃぁあ!」
「うわぁぁ!」
周囲の兵士さんたちが魔神に恐怖し、混乱状態になって逃げ惑う。
わたしの駆る機体の足元を走るのだが、踏みつぶしそうで実に怖い。
「ふぅぅ」
わたしは魔神の妖気に負けないよう、深呼吸をする。
「お姉さん、来ます!」
ティオさまの指摘と同時に、魔神が振り上げた右手から黒い闇を吹き出し、剣の形とした。
そして、わたしに向かって踏み込んできた。
……コイツ、戦い方は案外と素人ね。
単純に振りかぶってきた剣。
それを、わたしは兵士さん達を踏まないように、バックダッシュで回避する。
魔神は、避けられた剣を今度は斜め右上に凪ぐ。
もちろん、わたしは向かって左後方にもっと大きく飛び回避。
……ここ、足元が危なくて怖いよ。兵士さん踏んだら可哀そうだし、間違いなく滑って転んじゃう!
「チョコマカト避ケヤガッテ! 動クナァ!」
「誰が簡単に切られてあげますか。べぇーだ!」
「お、お姉さん。動きが早いですぅ」
なおも、力任せに闇の剣を振り回す魔神。
しかし、剣術の基本すらなっていない素人な攻撃なので、簡単にわたしは回避する。
……こんな街中での戦闘はこれ以上したくないから、少しでも広い場所に誘導しながら逃げているの。
「ティオさま。戦闘中のおしゃべりは、舌を噛みます。ぎゅっとシートにしがみついてくださいませ。今しばらくは回避に専念します」
「う、うん」
わたしは、町はずれまで走りながら攻撃を避ける。
機体は今、わたしにシンクロしてくれていて思い通りに動いてくれる。
手足のディスクブレーキも、良い色に焼きあがってきている。
「クソォ。ドウシテ当タラナイ!?」
「だって、避けているんですもん」
「チ、チキショー。馬鹿ニスルナァ!」
わたしが破壊した城門を越え、街の外まで逃げ切った時。
すっかり焦れた魔神は大きく剣を振りかぶった。
……今よ!
わたしは今までとは逆。
一気に敵に向かって踏み込む。
「ナニィィ!」
そして振りかぶっていた魔神の右手首をミスラル剣を斜め上に切り上げ、切断。
闇の剣ごと切り飛ばした。




