第36話(累計 第167話) ダムガール、襲撃に対し作戦会議をする。
「アミータ姫。どうして、俺をペガサスで飛ばせてくれなかったのですか? 普通の馬より間違いなく早いですよ? 哨戒活動も、ファフさまだけでは負担も多いでしょうし」
「それでも、魔導自動車ほどのスピードは出ないですよね、ソルくん。今回の作戦はスピード勝負。おそらく明日には敵と接触する筈なんですもの」
「え!? それは初耳です!」
……ルキウスくんから、襲撃の可能性を教えてもらったの。持つべきは、耳が早い友達だよね。
当初計画よりも急ぎ足で法王国内を移動したわたし達。
今は、本来であれば明後日以降に使うはずの宿場町の外でキャンプを張り、星空の元で休憩したり機材の整備をしている。
「さて、お集りの皆さま。これより作戦会議に移りたいと思います。今回の会議は、わたくし。アミータが司会進行をさせて頂きますの」
わたしの乗るキャンプカー内に各分野のリーダー。
そして友人たちを集め、作戦会議を開始した。
……ファフさんには魔法通信で中継しつつ、空中哨戒活動を続けてもらっているの。会議中に敵襲なんて洒落にならないしね。
「ボクからも皆に頼みがある。この遠征も無事。我らには怪我人は出たものの、誰の命も失われずにここまで来れた。おそらく、次の戦いが最後になるだろう。是非にお互いの命を守り合ってほしい」
ティオさまから、皆に訓示が飛ぶ。
ここまでも幾度も危機がわたし達を襲ってきた。
だが、お互いに助け合い、全員生きてここまでこれた。
……ドゥーナちゃん達を助けて重傷を負ったオーク兵のギドリンさん。無事に意識を取り戻し、今はティオさま側のキャンピングカーにて療養移動中。命が助かって本当に良かったわ。
「わたくし、今回は何のお役にも立てず、ただただお姉さま達に守られてばかりでした。ですが、最後の戦いくらいはお役に立ちたいです!」
「リナ、無理は禁物ですわよ。それに役に立ったじゃない。法王の化けの皮を剥がしたのは貴女よ? 姉として見事だったと思うわ」
リナちゃん、しょんぼり顔で役に立てなかったと悔やむ。
だが、ディネさんが配下ではなく姉として褒める。
十分役目をこなせたと。
「そうですわ、リナちゃん。今回はリナちゃんが居る。それだけで多くの事態がわたくし達に有利に動きました。また、リナちゃん自身、多くの物を学べましたよね。なら、十分役に立ってますよ」
「うむ。まだ外様の俺が言うのもナニだが、リナ姫は偉いと思う。俺も世界をより知りたい。魔族という者たちとも語り合い、共に世界に生きる仲間となりたいと思うのだ!」
わたしに続き、ソルくんも赤い顔をしつつもリナちゃんを褒める。
どうやら、ソルくんはリナちゃんのファンになった様だ。
……看病してた時も、わたしよりリナちゃんに反応してたものね。
「では、本題に入ろう。ルキウスさま。どうぞ」
「はいです、イグナティオさま。では、僕から情報開示を致します。聖都大騒動の直後、僕の元に父からの密書が届きました。どうやって届いたかは、ナイショということで……」
ティオさまに促されて、ルキウスくんが話し出す。
彼は、胸元から羊皮紙巻物を取り出す。
既に封印が解かれたものだが、わたしには何も書かれていない様にしか見えない。
……ルキウスくんの家の密偵が封書を運んできたのかな? 見えない封書って、あぶり出し? 透明なインク? それとも……。あ! そういう事ね。
「この封書。見ての通り……。あ、僕には何も見えませんですけどって。皆さま、ギャグですので複雑なお顔をしないで下さいね」
「?? ルキウスどの。ど、どうして御眼がご不自由な貴方が、我らの表情が分かるのか……? ん? どうしてリナ姫までお笑いなのか??」
さっそくルキウスくんの自虐ギャグにハマるソルくん。
まだルキウスくんと付き合いが短いので、すっかり「笑いの罠」に嵌められたようだ。
「……お、おほん。ルキウスくん、遊んでいないで本題に入ってくださいませ。このままじゃ、ソルくんが困りますわ。ソルくん、ルキウスくんは、『こんな』子だからあまり本気で心配しないでね。多分、この中じゃ夜間戦闘はファフさんの次に強いはずよ?」
「み、見えないのに強い?? い、意味が分からん?」
「と、坊やを遊んでもしょうがないので、話を進めますね。こちらの羊皮紙には、ある手法で見えない文章が書かれています。おそらく、これをこの場で読めるのは僕だけでしょう。どんな手法で書かれていたかは、アミータお姉さんはお気づきのご様子ですが」
ソルくんを遊んでいたら話が進まないし、「俺は坊やじゃない!」と叫ぶソルくんを放置して、ルキウスくんは説明をしだした。
「ええ。『点字』ですね。初めてお会いしたときに点字のパテントを得たとおっしゃってましたし」
身体強化魔法による視力拡大にて、ルキウスくんの持つ羊皮紙をよく見る。
すると、規則性のある小さな凹みがある事に気が付く。
こちらの文字を点字にしたもので書かれている為に、秘匿性は最大級。
書いた人物、おそらくは子爵家お付きの筆頭書記官。
もしくは子爵さまが直々に書いて、ルキウスくん以外には読めない秘匿通信を行ったに違いない。
「ご名答。さて、ここに書かれた内容ですが。子爵領内を怪しげな大型馬車の車列が、半月ほど前に検問を通過したと書かれています。通過したのは、法王国への荷を運ぶ商隊。車列の内容ですが、それこそ有人型ゴーレムでも車載出来そうな四頭立て馬車が十二台。荷は分厚い布で覆われていたと。それに付随して多数の人間が乗った二頭立て馬車がこれまた十台ほど。商人とも見えず、まるで傭兵団ではないかという報告でした」
「因みに、その馬車は何処から出立したと情報にありますか?」
「鋭いツッコミですね、アミータお姉さん。商隊は大公さまが発行した通行手形を所有していたそうです。ただ、それが本物か偽造品かは……」
……バカ正直に自分たちのアジトを示す手形を持つ訳無いよね。第一、あのゴーレムたちは大公さまのモノより手ごわかったの。
「ルキウスどの! 手形を発行したものこそ、聖都を襲った賊の当目に違いない! 我らの手で、討伐を……。あ、痛い!」
「ソルくん、短絡的に考えちゃダメね。あくまで状況証拠ではあるけれども、いくらでも偽造方法がある手形じゃ、本当に大公さまが主犯でも追い詰められないよ? 警察機構も兼ねる騎士団に入るのなら、捜査や推理が出来たら良いわね」
短気にも動き出そうとするソルくんを頭チョップで止めるわたし。
いかな暴走台風なわたしでも、このくらいの証拠で行動はしない。
「ドゥーナちゃん。技術者の眼から見て、敵が使用していたゴーレムが、大公さまの使われていた物と同じと見ますか?」
「いえ、アミータ姫さま。間違いなく、今回の敵の方が高度技術ですね。素材金属が未知のもの。どちらかといえば魔法銀に近いですが、金属断面も漆黒でした。鉄よりも軽く、強靭。更に機体構造がモノコック形式。姫さま曰く『外骨格』のカニみたいな構造をしていました。なので、関節部にベアリングが無いものの、軽いので動きが軽快だったのではと、アタイら工兵隊では類推しています」
我らが誇るテクノクラート。
ドゥーナちゃんには、敵機の残骸を調査してもらっていたのだが、驚愕の事実が多数分かった。
敵ゴーレムであるが、ただの金属の固まりではなく外骨格的な構造。
モノコック形式をしており、素材も未知の軽量超硬度金属。
魔法銀とも違うし、前世でいうなら超ジュラルミンに近い印象をわたしは感じた。
……あー、アルミ精錬に氷晶石とか蛍石が欲しいよぉぉ!
「えっと、アミータ姫。今の情報からすれば、未知の敵ゴーレムがまだ六体程、法王国内に残っていて、我らか聖都を再び襲うということですか?」
「ソルくん、御名答ね。多分、狙うのならわたくし達でしょう。先日の戦闘で疲弊している上に、わたくし。そして『外典』もここにある。さては、枢機卿猊下は、情報を知っていたかもですわねぇ」
「まさか? では、父上は、俺を生贄に!?」
「それは無いと思います、ソルどの。おそらく、ミコスさまは何も知らされていないかと」
自分が国や父に裏切られたかと思ったソルくん。
流石にそれはないだろうと、ティオさまが慰めていた。
「まあ何にせよ、迎え撃って撃破するか。とっとと逃げて、王国に逃げ込むかですわ。では、この先の方針を決めましょう!」
この後、何処で敵を迎え撃つのか、皆でワイワイ相談できたのは、実に楽しかった。
「俺だけ話についていけないぞー」
「それはしょうが無いと思いますわ、ソルさま。アミータお姉さまは『斜め上』ですもの」
なお、作戦会議についていけなかったソルくん。
リナちゃんに慰められたとさ。
……わたし。リナちゃんにまで、斜め上扱いされちゃったよぉぉぉ。