第3話(累計 第135話) ダムガール、出立前の最終打ち合わせをする。
「では、皆さま。これよりステイラ神聖法王国への出陣……、もとい出立前の最終打ち合わせを致します。各自、忌憚なき意見、報告を宜しくお願い致します。では、ティオさまから、ご挨拶をお願い致します」
……みんな、出陣の言い換えで反応薄いのは、もうわたしのギャグを聞きなれたのかな? それとも、呆れているんだか?
「皆、これまでの半年弱。ボク達が法王国に向かう準備をして頂き、感謝している。同時に多くのインフラ構築。おかげで公爵領及び隣接のヴァデリア伯爵領は、王国内でも最高峰の快適かつ富を生む街になった」
今日は、法王国へ向かう前の最終打ち合わせ。
領都の公館に、担当者やわたし達と行動を共にする者たちを集め、最後の会議を行っている。
……真剣な横顔もカッコいいし可愛いよ、ティオさま。最近は可愛い部分が減って凛々しさが増してきたかな?
「司会はわたくし。アミータが行います。では、インフラ部門から報告をお願い致しますわ」
今回、何故か司会を仰せつかったわたし。
可愛いティオさまの挨拶の後、担当者からの報告を促した。
「はい、俺。スノッリからまず報告させてもらうぜ。最初に製造関係だが、各プラント、製鉄所が全開運転中。ジュリエッタさまの開発した『ナンタラ』プラントも絶好調で、毎日たくさんの肥料を生み出してるぜ。これら全部をアミータお嬢の指示通り、環境破壊に気をつけつつ、様々なものを製造中さ。次に機械関係、魔導自動車、トラックは毎日増産中。魔導エンジン用のマナ貯蓄方法も確立しつつあるぜ」
ドゥーナちゃんのお父さま。
親方ことスノッリさんから、各報告が成される。
……名前出されたジュリちゃんが嬉しそうなの。彼女のおかげで窒素固定に成功。窒素肥料も火薬も、なんでも作り放題ね。
配布済みの植物紙によるガリ板印刷物にも概要が書かれているが、ここ半年ほどの活動で前世世界で言うところの産業革命期くらいの技術まで、わたし達は発展する事が出来た。
……魔導エンジンだけでなく、蒸気機関、水力発電にも成功したわ。最大の発明は魔導エンジンが元アイデアの電力モーター同様に発電機ならぬ発魔力機械になったことね。おかげで、魔力量にも困らなくなったの。
「蒸気機関車ってのも、試作型が鉱山と工場間を走り出した。この先の予定では、領内はおろか国内各地を繋ぐ予定ってお嬢から聞いてる」
「アミお姉さん。領内だけでなく国内を鉄道で全て繋ぐんですか? ボクは初耳です。それこそ、他領の貴族からにらまれますよ?」
「ごめんなさい、ティオさま。まだ企画前段階の『もしも』話でしたので、親方やドゥーナちゃんにしかお話していませんですの」
わたしの最終目標、ダム建築。
それには膨大な鉄骨やコンクリート、その他沢山の資材と労力が必要。
労力に関しては、有人型にした土木作業ゴーレムや各種土木工作機械の完成で目途は立っている。
しかし、大量の資材運搬に関してはトラックだけではとても足りず、更には工場への原料輸送にも問題がある。
なので、鉄道輸送も検討中なのだ。
……工場が大きな河川や海沿いなら船舶輸送でも良いんだけど、伯爵領は内陸。この方法は次の機会ね。
「アミちゃん姫さま。今回はまだ実行前でしたので良かったですが、今後はお二人の間で示し合わせを宜しくです」
「はいですわ、ヨハナちゃん。親方、各方面への道路舗装状況はどうなっていますか?」
ヨハナちゃんにまで突っ込まれたので、逃げたいわたしは親方に新たな話題を振る。
「そっちは専門外だが、既に主要工場と鉱山の間、主な街の間、そして伯爵領を越えて王都までの大半はコンクリート舗装出来たってのは聞いてるぜ」
「そこから先は娘のアタイが説明しますね。各主要街道のうち、公爵領内、及びアミータ姫さまの生まれ故郷たる伯爵領にあるものは、既に全て舗装済。今も荷物を積んだ魔導トラックが日夜輸送してます」
親方に続いてドゥーナちゃんが補足説明。
公爵領、そして我が伯爵領内に関しては、ティオさま、わたしの許可の元に工事し放題。
……もちろん伯爵領内は、お父さまやエリーザにも許可は貰っているよ。
比較的早く、街道の二車線化及びコンクリート舗装が完成した。
「王都に向かう道ですが、途中にある陛下派閥ではない貴族の領地において工事は行えていません。王都から直轄地までの範囲は、一部舗装できたのですが」
「そこは仕方がないと思います。今後とも道路敷設隊の方々には、王国の流通の為に活躍してください。で、いいですよね、アミお姉さん」
「はいですわ、ティオさま。物流、兵站は望む場所に望む物を如何に早く正確に送るかが勝負。この先に起きるであろう魔王戦においても兵の高速移送にも使えますので、鉄道敷設ともども宜しくですわ」
……兵や兵器、物。そして情報の移動伝達速度が早く成れば、どんな敵にでも不利にはならないものね。火砲を使う戦争においては、現地にて物資調達は食料以外は無理だもの。そして、敵の動きを少しでも早く知れば対応も早いしね。
近代戦争において砲兵は花形であるが、縁の下の力持ちである兵站部門が満足に稼働しなければ、無用の長物になる。
だからこそ、兵站。
物流の邪魔にならぬように道路舗装を急がせているのだ。
「で、今の道路舗装状況ですと、王都まではどのくらいの移動時間で行けそうですか?」
「そうですね。平均時速が三十キロで計算しますと、日の出と同時に出立であれば、夕刻。日没までには王都入りが可能になると思われます」
「以前の半分まで。更に言いますれば馬車移動よりは十倍近く時間短縮が出来ましたのね。ゴム製タイヤによる安定走行も加味して、快適な旅になりそうですわ」
……リナちゃんも一緒だからキャンピングカーモドキも開発したの。リナちゃんはウチやお城以外の貴族屋敷に泊まるのは危険だもんね。今回の会議にリナちゃんも参加しているんだけど、流石に話が専門的過ぎて、混乱している様子が可愛いわ。
この後も、各種報告や法王国までの経路、問題点など沢山の課題について洗い出しが行われた。