第30話(累計 第120話) ダムガール、皆に慰めてもらう。
「申し訳ありません、ティオさま。わたくしが同席した事で、会談を台無しにしてしまいましたの」
「いえいえ。元より彼らはボクとアミお姉さんを異端者として処罰するつもり。遅かれ早かれ、会談は決裂。彼らとは戦う事になっていたでしょう」
異端審問官を追い返した後の歓談室。
わたしはティオさまに深く頭を下げた。
わたしの存在で会談は決裂し、ステイラ神殿と信者が敵に回ってしまったからだ。
……王国にある神殿でも総本山。法王さまの言葉を無視できないから、王国は今後ステイラ神をあてにできない。いや、ステイラ神の信者が敵に回る危険性もあるの。
「どう償えばいいのか。わたくしのワガママのおかげでティオさまや王国の皆さまにご迷惑を……」
「アミお姉さん。貴女はこれまで通り、思うがまま。心の中の光に従い行動なさってください。貴女のおかげで、王国では多くの笑顔が増えました。また、それは領内に住む魔族の方々も同じ。貴女の光こそ、闇を照らすものです」
どうやって償えばいいのか。
困惑しうつむいているわたしの手を小さくも暖かい両手でぎゅっと抱きしめ、励ましてくれるティオさま。
わたしが顔を上げると、そこには優しい笑みを浮かべた翠色の瞳があった。
「そーですよ、アミちゃん姫さま。他の方々が何を言おうとも、ヨハナはアミちゃんの味方です。あんな、馬鹿神官の言う事なんて聞く必要もないんです。第一、予言がどーとか、魔女がどーとか。何、夢物語でアミちゃんを傷つけているんだか」
「ティオさま、ヨハナちゃん。ありがとう。わたし、みんなにまた沢山迷惑かけちゃったの。こんな馬鹿でワガママな娘でごめんなさい」
給仕をするヨハナちゃんの背後には、これまた優し気に微笑むファフさんがいる。
彼自身、守るべき存在はティオさまや王家だけのはずなのに、王家・王国に傷をつける様なわたしを守ってくれている。
「アミータ姫さま、貴女さまには泣き顔はお似合いません。いつも笑ってくださらないと、ティオ坊ちゃまの機嫌が最悪になります。何、神官騎士共が姫さまにあまりに酷い仕打ちをするのなら、こっそり竜になって法王国の城や首都ひとつ滅ぼしてあげますから」
「ちょ! 王国を守護する竜さまが、簡単に他国を焼き払うなどは冗談になっていないですぅ」
……ファフさん。真顔で冗談はやめてよぉ。ファフさんなら実際に出来ちゃうんだからぁ。
ファフさんの提案にびっくりしたわたし。
さっきまで流していた涙がぴたりと止まった。
「ふふふ。ファフ、アミお姉さんを泣き止ましてくれてありがとう。さあ、これからアミお姉さんを笑わせる作戦を決めていきましょう。部屋の外で聞き耳を立ててるルキウスさまもお部屋にどうぞ」
「え!? ルキウスくんってば、隠れて聞いてたの」
わたしに笑みを戻させると宣言するティオさま。
その優し気な瞳に、わたしは更に恋心を燃やした。
……隠れて聞いてたなんて趣味悪いよ、ルキウスくん。
「バレてましたか、イグナティオさま。いえね、アミータお姉さんが心配でしたから。アイツらからは嫌な気配しかしませんでしたので、最悪影から奇襲して『処分』することも考えてましたよ。ははは」
ヨハナちゃんにドアを開けてもらい、白杖を付きながら歓談室に入ってきたルキウスくん。
給仕してもらった茶を優美な所作で飲みながらも、物騒な事を宣う。
「ファフさんだけでなく、ルキウスくんまで物騒な事を言わないでくださいませ。異端審問官も結局、わたくしに直接手を出すことはできませんでした。ステイラ神殿の件も、彼らが本国に帰ってから初めて全世界にお達しが流れて以降の事。それまでに誤解を解き、出来る限り穏便な方法で終わらせたいと思います」
「と言いますが、アミちゃん姫さま。アイツら、絶対碌な事をしてこないですし、話を聞いてくれるとも思いません。早速コンビットスに向かって事件を起こしちゃいそうです」
わたしは出来るだけ穏便にすませたいと話すが、ヨハナちゃんですら事態は大きくなると気が付いている。
彼女が言うように、コンビットスの街中やゴブリン王相手に失礼な事をしかねないとわたしも思う。
……流石に数千人規模の魔族駐屯軍相手に今の手勢でケンカ売るほど馬鹿じゃないとは思うけど。
「そういえば、アミちゃん。前に聞かせてくださった『未来』のお話でエリーザさまに討たれるという事がありませんでしたか?」
「ええ、ヨハナちゃん。この世界は『とあるゲーム』を元に作られている可能性があって、わたくしが悪役令嬢となり、エリーゼと戦って世界を破壊するという『シナリオ』。もうあり得ない『未来』がありましたわ」
「ほう。それは僕も初耳ですね。ですが、異世界転生と悪役令嬢モノは僕。いや、『ワシ』も晩年に耳には挟んでいました。そうか。それでこの世界は、何処か日本ナイズされたヨーロッパ風世界だったのですね」
ヨハナちゃん、わたしが以前皆に話していた世界の秘密を覚えてくれていたよう。
この部屋の中には、わたしが異世界転生してきたことを知っている人しかいないので、わたしも粗方を説明する。
……ルキウスくん。理解が早いのは助かるわ。でも、晩年。百歳近かったジジイが異世界物語を楽しんでいたとは、流石だわ。
「ということは、その予言書とやらは、異世界の『ゲーム』のあらすじが書かれているという事でしょうか?」
「はい、ティオさま。その可能性が出てきましたわ。魔王陛下も『フラグ』というゲーム用語を使っていましたし、同じ書物を持っているのか。または、ゲームのシナリオや異世界知識を知っている者が魔王陛下の周辺にいる。もしくは魔王本人が異世界転生者なのではないかと思います」
……魔族国家ではライフリング付き大砲を開発しているんだから、書物じゃなくて異世界知識を持つ者の可能性の方が高いけどね。
今回の事案。
再び戦乱の危険性が上がったが、多くの情報も入手できた。
「わたくし達が笑顔で勝利を迎えられますよう、頑張りましょう」
わたしは頼りになる仲間達に、感謝の笑みを向けた。




