第28話(累計 第118話) ダムガール、異端審問官に舌戦を挑む。
「ああ、賢き王子もそこなる異端、『黒衣の魔女』が側にいれば、ここまで闇に染まり堕ちてしまうのですかぁぁ!!」
ティオさまに論戦を挑み、魔族は殲滅すべきと狂気じみた表情で叫ぶ異端審問官ルミナリア。
彼は、わたしを指差して言い放つ。
わたしこそが「黒衣の魔女」と。
「私を侮辱するのは、貴方の立場もあるので許しましょう。ですが、私の婚約者。アミータさまを侮辱するのは絶対に許しません! 何故に彼女が魔女と? 第一、黒衣など今まで纏った事実はございません」
ティオさま。
今まで自分に対し、異端審問官に色々失礼な事を言われても微笑を崩さずに対処してきていた。
なのに、わたしの事になると突然声変わり前の幼い声を荒げて反論してくれる。
その様子を見て非常事態なのに、わたしはとっても嬉しくなってしまった。
「ティオさま。わたくし発言してよろしいでしょうか? 少々気になる発言もございましたし、言い返したいこともありますので」
なので、勢いでわたしは異端審問官と話したいと申し出た。
わたしに対する言葉、「黒衣の魔女」というのが気になるのだ。
わたし自身、「泥かぶり姫」とは言われているが、魔女とは「今までは」言われた事は無い。
更に黒いドレスも「今は」持っておらず、これまで着たことも無い。
……ただ、もう来ない『未来』。ゲーム世界のわたしは、魔族をすべる女帝になった時に黒いドレスを纏っていたのよね。まさか??
夢で見たわたしの最後の姿。
聖女となった妹エリーザにより聖剣で貫かれ、共に泥の海に沈んだ際に着用していたのが黒いドレス。
妙に事実が一致するのが気になる。
「アミお姉さん。あ、いや、アミータさま。貴女さまは、こんな馬鹿げた話で傷つく必要はございません。お早く退席を……」
「いえ、イグナティオさま。わたくし、この程度では負けたりしませんですし、気になる事もありますの。それに、可愛いリナちゃんたちを滅ぼすなんて言う御方が許せませんですし。ねぇ、ティオさまぁ」
ティオさま、わたしに退席を促すが、ここまで聞かされて退席する方が精神衛生上にもよくない。
少々言い返したいし、「黒衣の魔女」という言葉も気になる。
「う! わ、分かりました。ですが、本当に嫌だと思ったら、すぐに退席なさってくださいませ」
「はい。ありがとう存じますぅ、ティオさまぁ。終わったら、ゆっくり楽しいお話しましょうね」
威圧で魔力を飛ばしてしまうほどに、わたしが酷く怒っている事に気が付いてくださったティオさま。
心配そうだった表情が何故か一瞬怯える感じに変わり、冷や汗を流しながらわたしに発言の許可を下された。
……あれぇ。ちょいと威嚇しすぎちゃったかしらぁぁ。でも、良いもん。悪いのはティオさまじゃなくて、審問官だしぃ。
謝罪の意味もあり、最高の優しい笑みをティオさまに向けた後。
わたしは真顔、表情を貴族令嬢らしい冷たい微笑に変える。
そして、異端審問官に視線を向けた。
「口先と色香で幼き王子を謀り操り、我らにすらその闇を向けるか、傾国の黒き魔女めぇ!」
「あら、他所の国の伯爵家令嬢。それも王陛下直々に女騎士の称号を頂いている上に、公爵婚約者たるわたくしに対するお言葉とは思えませんですわね。おほほ」
言うに事欠いて色香でティオさまを欺く傾国の魔女と、わたしを罵る異端審問官。
だが、客観的に見ても胸や腰が残念ながら非常に薄く、顔立ちも童顔で可愛い系のわたし。
間違っても色気は皆無であるし、傾国されるほどティオさまから寵愛を受けてはいない……。
……いや、ティオさまの寵愛は充分受けているし、インフラ開発で国が傾くくらいの予算は使っているわよねぇ。
「……アミちゃんに、そんな甲斐性や愛嬌、それと色気があったらアタシ苦労しないですもん」
「ですよね、ヨハナさん。あれからティオ坊ちゃまとは添い寝以上の仲には進行していないですし」
色々と思う事はあるものの、側仕えの二人からもツッコミが入る程、わたし相手には似もつかぬ二つ名「黒衣の魔女」。
どうして、そんな言葉が異端審問官の口から飛び出したのか。
「そ、その殺気が証拠だぁ! それに我らが法王さまがお持ちになられている外典。未来のことが記されている予言書には、聖女の姉たるオマエが魔女となり、世界を闇に沈めるとあるのだぁぁ!」
「予言書? 預言書ではなくて?」
少々紛らわしいのだが、この世界でも神の言葉を伝え記した契約の書物、預言書。
未来に発生するかもしれない事を記した書物、予言書が同じ読みで発音されている。
……英語でも、どっちも同じだった覚えがあるの。確かProphecyだったはず。
わたしが少々威圧気味に魔力を向けると、興奮しながら法王さまの持つとある書物。
聖典の中でも外典。
本来なら聖典に治めるべきだが、除外された外伝に当たる予言書に、わたしの事が書かれていると異端審問官は叫んだ。
……確か偽典ともなれば、異端とか偽物の意味もあったんだよね。え! わたしの事が書かれた予言書って、もしかしてゲームのシナリオ集の事じゃないかしら!?