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第24話(累計 第114話) ダムガール、ルキウスくんに翻弄される。

「流石はヨハナさん。いつも美味しいお茶をありがとうございます」


「いえいえ。ルキウスさまもお元気そうで何よりですわ」


 タウンハウスの応接間。

 優雅そうに茶を飲むルキウスくん。

 その一切迷いのないしぐさからは彼が盲目であるとは、まるで思えない。


 ……外見は黒髪で華奢な可愛い後輩の坊やなんだけど、中身がアノお爺ちゃんなのよねぇ。


 前世記憶では、白髪の好々爺な外見をしていながらも目が笑っていなかった護身術の道場主なお爺ちゃん。

 ルキウスくんの姿で語られた前世での血なまぐさい過去。

 第二次世界大戦前後、中国大陸にてスパイやらマフィアのボディガードやってた等などと聞く。


「なんですか、アミータお姉さん? 僕の事をじろじろ見て? あまり僕にばかり視線を向けちゃうと、イグナティオさまが焼きもち焼いちゃいますよ。あ、失敬。イグナティオさまは寛大な方だから、そんなことは無いですよね」


 ……どうして見えないのに顔見てたの分かるのぉぉ!?


「ルキウスさま。あまりボクとアミお姉さんで遊ばないでくださいませ。今日は、ボク達をからかいに来られたのでしょうか?」


 見えていないはずなのに、瞳を閉じたままの笑顔でわたしとティオさまをケラケラとからかうルキウスくん。

 流石のティオさまも、年相応に()ねる。

 むすっとしてルキウスくんに反論。

 中身がジジイらしく、実に喰えない男の子だ。


「ええ、そうです……。『ダム好きお嬢ちゃん』、いやアミータお姉さんとイグナティオさまが幸せに愛を育んでいるのを観察に参りました。実にイチャイチャで宜しい……、というのは半分冗談」


 ……もう、わたしで遊ばないでよぉ! ヨハナちゃんもファフさんも笑っていないで、なんとかしてよぉぉ。


 わたし達の反応を見ながらを茶化すルキウスくん。

 ティオさまの真っ白な頬は薔薇色だし、わたしの顔も熱を帯びている感じがする。


「半分、というか、ここからが本番です。現在、公爵領へ向かって『ある集団』が国内を移動しております。彼らは光神ステイラを信仰する強硬な原理主義派。ステイラ神聖法王国の神聖騎士団です。その上、よりによって異端審問官が同行しています」


 ……ステイラ神って騎士さまとかに信者が多い光の神さまだったよね。悪とか闇を絶対許さないって感じの。各地にある神殿でも神官さんは、そこそこいた覚えがあるわ。


 この世界は多神教。

 地方にある神殿では光側、俗にいう「正義」の側の神さまたちを(まと)めて祭っている。

 これが王都とかになれば信者の多い主要神ごとの神殿があったりする。


 ……神剣を作られた鍛冶神さまは、もちろん光側。ドワーフ族が主に信仰しているって話だったよね。


「ステイラ神聖法王国ですか。確か王国の南西方面、ルキウスさまのご実家エルメネク子爵領には近い……!? 。なるほど! 情報ありがとうございます。これは緊急に対策をせねば。今、神聖騎士団はどのあたりを移動中でしょうか?」


「僕が数日前に聞いたのでは、我が領内を通過中との事。おそらく、今は王都までの途上でしょうね。僕は先回りしましたので」


「えっとぉ。ティオさま、ルキウスくん。一体、何を興奮なさっていらっしゃるのですか? 異端審問官という言葉は気になりますが」


 話題を変えて以降、ルキウスくんは真剣な顔だし、ティオさまに至っては怖い表情のまま。

 一体、何が起こっているのかと、わたしは二人に聞いてみた。


「え! アミちゃん姫さま。お気づきにならられないんですか。一大事でございますよ?」


「ええ、ヨハナお姉さんのおっしゃる通りです。アミお姉さん、ステイラ神の教えをご存じですか?」


「はい、わたくしはステイラ神の信者ではございませんが、ある程度は」


 ヨハナちゃんまで興奮気味に訪ねてくるのを不思議に思いながらも、わたしはティオさまの問いに答える。


……わたし自身は、どちらの神さまを特別に信仰しているって感じじゃないの。どの神さまも同じく信じている感じ。この辺りは前世日本人の感覚のままかな?


「確か、世の中の闇を己が光で照らし、闇を全て打ち払え……だったと」


「ええ。そうですね、アミお姉さん。では、その『闇』とは何を意味しますでしょうか?」


 ……闇? 自分の中の闇、妬みとか差別心とか? 後は、人を苦しめる悪かな?


「自分の中や世界にはびこる悪意……でしょうか?」


 わたしは、闇から連想した言葉を呟いてみる。


「概ねその通りです。ですが、この『闇』を一部拡大解釈しているのが法王国なんです」


「拡大解釈ってどういう意味でしょうか、ティオさま?」


 ティオさまは、法皇国は神さまの教えを拡大解釈をしていると苦々しい顔で言い切る。

 宗教は、ヒトそれぞれ感じ方や思い、信仰心が違うので、どんな信仰でも他者に迷惑をかけなければ問題ない。

 そう、わたし個人は思っている。


 ……差別とは縁遠いティオさまが表情を変えてまで言うなんて、どういう事かしら?


「なるほど、王国北方住まいで宗教論争とは縁遠かった。その上、前世日本人感覚が抜けていないアミータお姉さんには分かりにくい面があるんですね。お姉さんに分かりやすく言えば、国家単位の宗教テロリストです」


「え!? それは大変な事じゃないですかぁ!?」


 ルキウス君の説明で、わたしの脳内には前世世界での事が浮かぶ。

 神の教えとされる経典を拡大解釈した原理主義。

 現代科学や社会体制を無視しての暴走、そして他者を許さない無寛容な残虐性。

 

 ……前世世界でわたしを襲った彼らも、あの連中の息がかかって居たっぽいのよね。なんというか、異世界に来てまで宗教戦争には巻き込まれたくなかったわ。

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― 新着の感想 ―
簡単にいうと、イス○ム教原理主義を騙るテロリスト。 差別主義で『ステイラ神聖法王国民に非ざれば人間に非ず、人間に非ざる者の生殺与奪は神聖法王国にあり。』とかいう狂信者なんですね。 魔王を倒しに行かずに…
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